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アリスターの映画『ファイブ・ミニッツ・オブ・ヘブン』

昨年NHKのドキュメンタリー番組の仕事を通して知り合った、元UVFメンバーで、現在は和平運動の活動家であるアリスター・リトル(Alistair Little)さん。
アリスターと、アリスターに兄を殺されたジョー・グリフィン(Joe Griffin)さんをモデルとした映画が昨年北アイルランドで制作され、このたびアイルランドの一部映画館にて公開されました。

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タイトルは『Five Minutes of Heaven』(写真はSundance Film Festival 09より)

昨年11月に初回放送されたNHKのドキュメンタリー番組(NHK・BS世界のドキュメンタリー『憎しみを越えられるか~北アイルランド紛争・対話の旅~』)をご覧になられた方の中には、番組が追いかけた「対話の旅」にファシリテーターとして同行していたアリスターのことを記憶している方もおられることでしょう。
17歳の時にUVF(プロテスタント系の武装組織)のメンバーとして殺人を犯し、13年の懲役に処されたアリスター。獄中で改心し、出所後は非暴力、和解、赦しなどに関するプロジェクトに自らたずさわってきました。
近年は北アイルランドのみならず、世界の紛争地域などでワークショップを開催するなど、和平活動家としてその身を捧げています。

自身の体験を元にプロのファシリテーターとして活動するアリスターではありますが、北アイルランド紛争に深く関わってしまったひとりとして、未だ癒えることのない心の傷と日々闘っています。
自分の犯した罪は決して赦されない、赦しを請う資格など自分にはない…と言うアリスターの心の葛藤は、NHKのドキュメンタリーの中でも、被害者である男性との関係を通して伝えられていたかと思います。

あのドキュメンタリーの仕事を通して、北アイルランド紛争についてはもちろんのこと、人の生き方、生き様というものについても学ぶことが多くあり、中でもアリスターという人の生き方…はとても印象的でした。
彼の繊細で人間味あふれる人柄、過去の傷が癒えていないそのままの自分の姿をもってして、人々に非暴力を伝えようと活動する生き方にすっかり感じ入った私は、この映画の完成を本当に楽しみにしていました。
『Five Minutes of Heaven』はほんの一部の映画館での1~2週間のみの特別上映だったのですが、終了前になんとか時間を作って観に行くことが出来ました。

アリスターを演じるのは『マイケル・コリンズ』のリアム・ニーソン(Liam Neeson)、ジョー・グリフィス役は『ブロッディー・サンデー』のジェイムズ・ネズビット(James Nesbitt)。どちらも北アイルランド出身の名優です。
ストーリーは、1975年、17歳のアリスターがジム・グリフィンなる人物を射殺、まだ子供だった弟のジョーがそれを目撃してしまう…という実話に基づく前半と、30年後、その2人が対面することになる…というフィクションの部分から成り立っています。

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ニーソン(左)とネズビット(写真はculuturenorthernireland.orgより)

この映画は、紛争の政治的な背景がテーマになってきたこれまでの作品とは違い、もっと普遍的な人間ドラマ。紛争とは何だったのか、ということからもう一歩進んで、被害者と加害者が同じ人間同士としてどのように認め合って生きていったらよいのか…といったことを問いかけている作品であるように思います。
殺した人も殺された人も、そしてその家族も、立場は違えどみなが犠牲者である、そのことを確かめ合っていく時代になってきたのだとつくづく考えさせられました。
紛争に直接関わった人たち、今もその傷をかかえて生きている人たちに、ぜひとも見てもらいたいと思いました。

ちなみに撮影は、Belfastとその近郊、Lurgan、Glenarm、Newtownardsなどで行われました。
特にLurganはアリスターの出身地であり、彼の75年の殺人事件の現場でもあります。つい先日の英国人兵および警官射殺テロが起こったのもその近くであり、事件のあとでLurganでは暴動が起こったことを思うと、なんだかやるせない気持ちになってくるのですが…。

ホンモノのアリスターは、ニーソンとはちょっと雰囲気が違い、もうちょっと若く、線が細い感じ。そのまま映画に出てしまっても良さそうなくらい、素敵な人です。
(こちらのサイトにアリスターの写真があります→The Forgiveness Project
ただ二ーソンによって語られるセリフは、まさにアリスターの言葉そのもの。アリスターの和解についての考え方、赦しについての考え方がそのままセリフになっており、まるで彼本人の話を聞いているようでした。

あのNHKの仕事の際、日本からの取材班と、「対話の旅」の参加者との間に入ってモノゴトを行うのが私のコーディネーターとしての大きな役割のひとつだったわけですが、内容が内容だけにかなりセンシティブに物事を進めねばならず、精神的にきつかったことも。
そんな私の様子に気づいたのか、ある時アリスターが、私がひとりでいるのを見計らってこんなことを言いに来てくれました。

「ナオコがうまく架け橋になってくれたおかげで、僕たちと取材班の関係がとても良くなった。君はとってもいい仕事をしているよ。僕はこのプロジェクトにメディアが入ることを初めはよく思っていなかったが、今は日本からの取材班が一緒で返ってよかったと思っている。本当にどうもありがとう。」

人一倍繊細なアリスターは、取材が参加者に精神的なダメージを与えることを常に心配していました。そのアリスターがこんなことを言ってくれたのに感激し、彼の言葉ですべてが報われた気がしたものです。
あの仕事では何度涙を流したかわかりませんが、この時もそうで、それは嬉し涙でした。
来週末には久しぶりに、アリスターやあの「対話の旅」のメンバーたちと会うことになっており、今から再会が楽しみでなりません。

『Five Minutes of Heaven』は、もともとBBC Northern IrelandのTVドラマとして制作が進められていたこともあり、映画祭以外での劇場公開はあまり予定されていないようです。アイルランドでももう終わってしまいましたし、当の北アイルランドでは劇場公開は行わないのだとか。
その代わり、4月頃にBBC2にてTV放送される予定とのことですので、少なくともアイルランド、北アイルランドでは広く見てもらうことが出来そうです。
日本でも、公開されるチャンスがあるといいのですが。


コメント

実にあなたはとてもよいお仕事をしましたね。誰でもがそうそう出会える内容ではないように思います。このような経験の積み重ねが
尊いのだと思うわ。人間は生きている限られた時間のなかで経験できることも限られている。何から何まで経験できるわけではないでしょう?
だからその人がした経験はどんな経験でも宝ですが、この日記を読んであなたは素晴らしい宝を得たなあ、、と思いました。
映画が広く公開されるといいですね。

アンナムさんへ

嬉しいコメントをありがとうございます。
アンナムさんのおっしゃるように、あの仕事で得られたさまざまな経験は、私の人生の大きな「宝もの」のひとつとなっています。まるで、自分が生まれる前の別の時代をちょっぴり生きたかのようでした。
BBC2で放送されたら、必ず録画しておこう、と思っています!

はじめまして

はじめまして。

現在大学でアイルランドのことを勉強している者です。
学部2年時に共和国のリムリックへ1年留学も致しました。

帰国後、大学のゼミで現在北アイルランドの共生社会作りに関する論文を作成中で
その研究の中で紛争仲介者(ファシリテーター)育成プログラムというものがあることを知りました。現地調査等できない状況でして、たまたまインターネットで調べていた際に、以前NHKのBSドキュメンタリーでこのことが扱われたことを知り、色々調べていくうちにこちらのブログに出会った次第でございます。

論文作成の上で、どうしても当番組を視聴したいと思い、NHKオンデマンドで探したところ無いようで、また原宿にあるNHK公共ライブラリーにも足を運んだのですが、視聴一覧になく無駄足になってしまいました・・・。
管理人様はアイルランド在住ということで実際にその番組のコーディネーターをされたということで、どうにか当番組を見る方法があるかどうかご存知かもしれないと思い、アドバイスいただきたくこちらでコメント致しました。

もう4,5年も前の番組で急なコメントで申し訳ありません。
お時間あるときで構いませんのでお返事をお願い致します。
お待ちしております。



Re: はじめまして

irishungoさん
ご興味を持ってくださり、ありがとうございます。手元にDVDのコピーがありますので、お貸しすることは可能です。メールにてご連絡致しますね。

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「しかし、私は北アイルランドのラーガンに生まれたのだ」――ドラマFive Minutes of Heavenの「UVFのメンバー」の言葉

今日4月3日、BBC 2でドラマ映画、Five Minutes of Heavenが放映される。日本にいる私にはBBCの放送は見られないのだが、サンダンスでも受賞したこの作品を(日本語字幕つきで)見られるよう願っている。

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Author:naokoguide
アイルランド公認ナショナル・ツアーガイド。2000年よりアイルランド在住。アイルランドでの生活、ガイド業を通してのさまざまな体験を皆さんと共有できたら嬉しく思います。最近の趣味はサーフィンとバラ栽培♪

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