北アイルランドのドキュメンタリー番組の仕事をさせていただいてからというもの、以前にも増して北アイルランド紛争や和平プロセスに関心を持つようになり、関連の本を読んだり、映画を観たりすることが多くなりました。
今回帰国して早速注文して読んだ本のひとつは、元テロリストで、今は日本で宣教師をしているという北アイルランド人のヒュー・ブラウン(Hugh Brown)さんの著書。

『なぜ、人を殺してはいけないのですか』(幻冬舎)←現在絶版のようですが、
Amazonより中古で購入出来ます
北アイルランド関連の事柄を調べていたときに、偶然、ブラウンさんの存在を知り、読んでみたいと思っていた一冊です。
1957年生まれのブラウンさんは、ベルファースト出身。紛争が激しくなる中で青春時代を過ごした、ある意味、時代の犠牲となった北アイルランド人のひとりです。
15歳でテロ組織に入り、18歳で逮捕されてメイズ刑務所へ。服役中に神の啓示を受け、組織を脱退、出所後、新学校へ通い宣教師となり来日しました。
現在はご自身の体験をもとに、不良少年の更生のため少年院や刑務所で講演を行うなど、非暴力や平和を訴える活動もしておられます。
本書では、ブラウンさんご自身のテロリスト時代の体験が、わかりやすい日本語で淡々とつづられています。
読んでいて私が思い出したのは、先日のNHKのドキュメンタリー番組の撮影で何度もインタビューをし、一緒にスコットランドへ対話の旅をしたアリスター・リトルさんのこと。アリスターも、ブラウンさんと同じ組織にいた元テロリストです。
取材中、アリスターの話を聞いて私が印象的だったのは、テロの犠牲者だけでなく、テロリスト側も同じような苦しみの中にいたのだということ。そういったことは、あの仕事をしてみるまでは考えたこともないことでした。
ブラウンさんの著者からも、やはり同じことが感じられました。彼らもまた、紛争の犠牲者なのです。
この本の中で、ブラウンさんはこうも言っています。「敵がカトリックだから殺そうと思ったのではない」と。これは、アリスターが言っていたのと全く同じセリフです。
北アイルランド紛争はしばしば宗教戦争だと誤解されがちですが、それは違います。ブラウンさんの言葉を借りれば、「民族紛争、土地の領有権をめぐっての争い、政治的な問題から派生した紛争」であり、「宗教の違いが生んだ紛争では絶対にありません」。
このことは、当の北アイルランドでも誤解されているように思います。紛争のそもそもの目的とは外れて、互いの宗派が違うだけで差別し、憎悪する人が出てきてしまったのですから。
著書の後半では、大変な親日家であり、日本で長く生活するブラウンさんが見る現在の日本の問題点などにも筆が及び、さらに、憎しみや復讐心から解放されるにはどうしたらよいのか、敵を許すにはどうしたらよいのか、ということについても触れられています。
ブラウンさんは、記憶は消すことが出来ないので、それなら思い出す回数を減らすようにしよう、と自分の意志の力でコントロールしたそうです。シンプルに聞こえますが、ブラウンさんのような人が言うと真実味があり、説得力がありますよね。
この「赦し」ということについては、アイルランドに生活していて感じることが多くありますので、また別の機会に書かせていただきたいと思っています。
北アイルランド関連の著書は数多くありますし、体験者から話を聞く機会も北アイルランドに行けばあることと思いますが、いずれも英語、もしくは、翻訳者を通しての日本語に限られてしまいますよね。
ブラウンさんのように、ご自身の体験を日本語で直接語ることの出来る人がいるというのは、私たち日本人にとって、とても貴重なことだと思いました。
北アイルランド問題にご興味のある方、さらには、一人の、辛く壮絶な体験をした人がその後の人生をどう生きているのか、ということに関心のある方、ぜひ読んでみてください。
(2001年に出版されたものなので、その後の北アイルランド事情など、本書と多少変わっている部分があります。)
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コメント
manbee777
2008/12/30 URL 編集
naokoguide
最近見直したのですが、デリーの人たちが言っていたいろいろなことが、よく理解できました。。
2008/12/31 URL 編集
K
ところでAmazonで見たら、今はプレミアが付いて4000円以上になっているようですね…中には12000円なんてのも! わたしは105円で買えてラッキーでした。
2010/12/19 URL 編集
naokoguide
ブラウンさんの本、私も安く買えた覚えがあります。買っておいてよかった~。
2010/12/19 URL 編集