オスカー受賞から数日経って、ハリウッドから帰ってきた『Once』のグレン・ハンサード(Glen Hansard)とマルケタ・イルグロヴァ(Marketa Irglova)ですが、アイルランド国内ではまだまだ興奮冷めやらず。
今夜はRTÉ(アイルランド放送協会)の人気トーク・ショー、'Tubridy Tonight'に2人そろって出演。オスカー受賞時のエピソードなどのトークに続き、受賞曲となった‘Falling Slowly’をソファーに座ってくつろいだ様子で歌ってくれました。
受賞の瞬間、自分の名前が呼ばれた時、グレンの「グレ」を聞いて、そのまま頭が真っ白になってしまったというハンサード。
いちばん感謝しているのは監督のジョン・カーニーだと語るグレンに、番組のプレゼンターであるRyan Tubridyが「じゃあ、受賞スピーチで(ジョンへの感謝のことばを)言いましたか?」と突っ込みを入れると、グレンがぼそりと「言わなかった…」と答え、会場は大爆笑。
その他、U2のボノからテキストで祝辞をもらったこと、日本に行った時に穴のあいたギターを気の毒に思ったメーカーさんが新しいギターをプレゼントしてくれたことなど、アイルランド人らしい早口と、独特の「聞かせる」話術で、嬉しそうに話していました。
一方、受賞者が発表される瞬間は、とにかくドキドキしたと言うマルケタ。
グレンの後にスピーチしようとしたらマイクが切られてしまい、そのままステージの袖に下がることになってしまったあのハプニングについても、話していました。
マルケタもスピーチを…ということになって再登場した彼女ですが、その落ち着きぶりといい、スピーチの内容といい、どの受賞者をもしのぐ素晴らしいものでしたね。Ryanに「実はこっそり準備してた?」とか、「女優でなくて、政治家になったらどう?」などと言われ、会場を盛り上げていました。
あの受賞の瞬間、お母さんを思い切りハグしてからステージに上がったグレン・ハンサード。
今晩のTVショーの会場にも、観客席にはお母さんの姿が。グレンが受賞の喜びをいちばん分かち合いたかったのは、やっぱりお母さん。そして、そのことを臆せず表現してしまうところが、アイルランド人男性らしいですね。
このグレンのお母さんと、『Once』の中のグレン演じる青年のお父さん、2人の息子を見守るその様子が、なんだかだぶって感じられます。
(ここから先、映画のストーリーに関することが出てきますので、知りたくない方は読まないでくださいね。)
『Once』の中で、グレン演じる青年がロンドンへ行くことをお父さんに告げるシーンがあります。
自分が行ってしまったら一人暮らしになってしまうお父さんを気遣って、「行くのを延ばそうか?」という彼。ところが、「自分は大丈夫だから、行きなさい。餞別をやるから、ロンドンで部屋を借りて頑張れ。」とか言って、ぶっきらぼうに送り出すんですね。
このとき親によっては、子供を心配するあまり、「お前もそろそろいい年なんだから、不安定なバスキング生活はやめて、オレの後を継いで安定した生活をしなさい」などと言いがち。ところがこのお父さんは違って、息子の音楽を聴き、「これは大ヒット間違いなしだ!」と断言、旅立つ息子を安心させ、信ずる道を行かせてやるのです。
おそらくお父さんには、音楽の良し悪しや、息子に才能があるのかどうかということは、よく分からなかったと思います。
でも、そんなことは関係ないんですよね。俺の息子が情熱を注いでやっていることなんだ、成功するに決まっているではないか!という息子への無条件の信頼と愛情が、そこにあるのです。
きっと胸中には、「ダメだった時には戻ってこい。お父さんがついているぞ」という気持ちもあるのでしょうがそれは口にせず、代わりにこう言うのです。「(音楽を)もう一度、聴かせてくれ」
『Once』を初めて見た時に、私が思わず涙してしまったシーンです。
グレン・ハンサード自身も、こうやって家族や周囲の人々に励まされ、肯定されてきた人なのだと思います。
13歳で学校をやめて、音楽の道に進むことを決めた彼。学校の先生が後押ししてくれて、1年経ってダメだったら戻ってこい、どうにか卒業させてやるから、と言ってくれたそうでうす。
また、映画の中での歌を聴いてもらって銀行でお金を借りるエピソードは、グレンのお母さんが実際にしてくれたことだそう。
もちろん本人の努力や情熱あってこそですが、もしも家族に「どうせ成功なんかしないよ」という否定的な態度を取られたら、自信喪失してしまったかもしれません。
『Once』のお父さんのように、グレンを無条件に信じ、応援し続けたご両親や友人たち。そんな人々の「念」のようなものが本人の自信や安心となり、能力が最大限に開花して、今回のミラクルな成功につながったのだと思います。
それにしても、この‘Falling Slowly’という曲、本当にいいですね。
映画の中で、オスカー授賞式で、今晩のTVで、ラジオから流れてくる時…。彼らの演奏は、演奏されるたびに微妙に違っていて、誰も真似できない生の良さ、即興の良さがあります。きっと骨の髄まで「表現者」なんでしょうね。
さすが元バスカー、さらに言うなら、さすが吟遊詩人の伝統のあるアイルランドのミュージシャン!
今回のオスカー受賞を機に、グレンとマルケタはドゥオとして、アメリカの大手レコード会社と契約を結んだそうです。
今年の上期はアメリカでのコンサートで忙しいようですが、アイルランド国内でも、The Framesとしてまたギグをやって欲しいですね。
※グレンとマルケタの'Tubridy Tonight'出演の様子は、
番組HPで見ることが出来ます。(本日3/1に放送されたばかりなのでまだアップされていませんが、そのうち出てくるでしょう)
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