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1月の神様・アイルランドのヤヌス像

プロフィールの石像の写真について、「あれは何ですか~」「どこですか~」と、これまでに何人かの方からご質問をいただきました。新年に少々関連のある話題でもあるので、今日はちょっと解説を。

20051030081158.jpg
この写真です(プロフィール写真を変えてしまったので…2006年12月)

この石像は、カウンティー・ファーマナ、アーン湖(Lough Earne)のボア・アイランド(Boa Island)にあります。
アーン湖畔はアイルランドの湖水地方とも呼ばれ、連結する上下2つの湖に154の小島が浮かぶという美しい場所です。

ボア・アイランドは、島とは言っても、A47号線で本土と地続き。
エニスキレン方面から来た場合、道路の左側を注意していると、"Caldragh Graveyard"のサインポストが出てきますので、そこを右へ入ります。本当にここでいいの?と疑いたくなるような、牛小屋へ続くぬかるんだ道…その行き止まりにある小さなゲートが、石像のある古い墓地への入り口。
近くのラスティ・モア・アイランド(Lusty More Island)から移されたちょっと小さめの石像と一緒に、倒れた墓石の中にたたずんでいます。

janusfigure
(2005年11月撮影・保存のためか、以前はなかったテントのようなものが張られていました。)

この石像は、ヤヌス像(Janus figure、英語ではジェイナスと発音)と呼ばれています。
ヤヌスと言えば、そう、80年代のあのコテコテ大映ドラマ『ヤヌスの鏡』のヤヌスです!ガラスが割れて、変身~、2つの顔を持つ2重人格少女のお話でしたね~。
ボア・アイランドのヤヌス像も、表裏2つの顔を持つことから、その名で呼ばれているわけです。

ヤヌスというのは、もとはローマ神話の入り口や門・扉の神様。境界線に立ち、表裏2つの顔で、物事の始まりと終わりを見据えています。
新しい年の始まりを入り口に例え、年の始めを司る1月の神様として、Januaryの語源にもなりました。

ボア・アイランドのヤヌス神は、東面が男性(シンボルあり)、西面は女性。プロフィールの写真は、女性サイドです。
(両面の写真がきれいなものとしては、このサイトがおススメ。)
個人的にこの場所がとても好きなこと、また初めて見た時に、石像の顔がちょっと私っぽい…!と思ってしまったことから、プロフィール写真にしたまでです。

石像の起源や解釈に関しては、諸説あります。
私の友人で地元ベリークの歴史家ジョンは、石像とローマのヤヌス神との関連を強く否定しています。だってアイルランドには、ローマ人は来ていないのですから。
身体に対して大きすぎる頭、大きくうつろな目、正面で交差する両腕、腰に巻かれたベルトなど、そのスタイルは、ケルト独特のもの。2000年以上前のもので、おそらく、ケルトの戦士、または豊穣の神ではないか、とのことです。

頭が大きいのは、ケルト人の人頭信仰の表れ。
頭には大切な精霊が宿ると考えていたケルト人は、戦場で敵の武将の首を取り、そこから脳髄を取り出して石灰と混ぜてボールを作り、家宝としていました。

また、ケルト神話のとの関連を指摘する人もいます。
大きく見開かれたうつろな目から、魔眼で敵を睨み殺すバロール神ではないか、という人もいます。

はて、二つの顔を持つ謎の石像、いったい何を意味しているのでしょうか…?
私がこの石像を訪れるたびに感じるメッセージは、物事の始まりと終わりは、実は遠いようで近くにあるのではないか、ということ。遠く感じられるゴールは、案外、スタート地点のすぐ後ろで背中合わせに待っているものなのかも。

また、人間の生と死、善と悪、優しさと厳しさ…など、相反すると思われている二つの観念も、本当はヤヌス像のように、背中合わせなのかもしれない…と思ってみたりもするのです。

豊穣の神様でもあるこの石像、地元ではお地蔵さん的存在として愛されているようです。石像の脇には、お賽銭がこんなにいっぱい。

boaisland
(2005年11月撮影)

アイルランドで年越しをすることになったら、私はこのヤヌス像に二年参りしたいな~といつも思っているのです!!


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コメント

Pearl

勉強になるなぁ。
物事の相反する二面性とか、遠くて近いものとか旅のゴールは身近にあるとか、そういうのって「ダ・ヴィンチ・コード」みたいです。私がまだその世界から抜け切っていないせいもあるけれど、「ダ・ヴィンチ・コード」の最後の部分を読んで感じたことが、naokoguideさんのブログにそのまま載っていたのでビックリ。(そうは言いつつかなり飛躍もしている。)宗教的という点で共通することがあるのかもしれないですね。

アンナム

唐突ですが 藤原正彦という数学者が 天才の出る風土を調べたことがあります。まずアイルランド。この国は400万足らずという人口にもかかわらず 数々の天才をだしています。ハミルトンという数学者、文学でいえばスィフト、ワイルド、イェイッ、ジョイス、、きら星のごとくいます。(この文学者の話はnaokoguideさんに教わりましたね。)彼は天才の生まれ育った土壌を訪ね歩いて3つの条件を見つけました。1.美しい風景があること、2.跪く心があること、3.精神性を尊ぶ風土であること、だそうです。この石像の説明ひとつきいても う~ん、さずが天才を輩出する国だ、と うなってしまいました。日本とちょっと似ていませんか?あなたのアイルランドを愛する気持ちもわかります。よくこういうところに目をつけて下さいました。

naokoguide

Pearlさんへ
ダ・ヴィンチ・コード、ますます読みたくなりました。ダブリンへ戻る飛行機の中で読めるように、買って行くつもりです!同じ時に、同じようなことを思ったり読んだりするのって、なんだか不思議ですけど、時々起こるんですよね。物事の真理や、人の考えの究極のところは、やっぱりひとつなのかな~と思いました。

naokoguide

アンナムさんへ
とっても興味深いお話、どうもありがとうございます。他のヨーロッパ人のメンタリティーと比べると、アイルランド人の物の感じ方は、日本人に似ている部分が多いように思います。おっしゃるように、風土にも共通点が多い。日本人もアイルランド人も、自然を見ているだけでなくて、その中に入っていって一緒に共存していくのを良しとするというか・・・。そうですね、私が居心地がいいのは、そんなところなのかもしれません。
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naokoguide

アイルランド公認ナショナル・ツアーガイドの山下直子です。2000年よりアイルランド在住。趣味はサーフィン、アイススケート、バラ栽培、ホロスコープ読み、子供の頃からのライフワーク『赤毛のアン』研究。長野県上田市出身。

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