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イギリスの移民法案がアイルランドに影響を及ぼす

先日イギリスで可決された不法移民をルワンダへ強制移送する新法案が、隣国アイルランドに思わぬ影響を及ぼしています。背景がなかなか複雑でして、うまく説明できるかわかりませんが、自分の覚えのためにも現状を記しておこうと思います。

そもそも2020年にイギリスがEUを離脱したのは、移民の流入、とくにEU内を自由に移動してやって来る移民に国内の労働市場を奪われる、それを食い止めましょう、ということが大きなポイントでした。
今回の法案は、そのEU離脱を進めた前任のボリス・ジョンソン首相時代に浮上したもので、ボートやトラックの荷台などで英仏海峡を渡って入国する亡命者はもはや不法であるから、(近年イギリス連邦に加盟した)東アフリカのルワンダへ資金援助と引き換えに移送し、そこから亡命手続きをしてもらうなり、出身国へ送還しましょう、というもの。2022年6月、明日にも移送、というところまで進められたものの、人権侵害が問題視され中止となり、その後も堂々めぐりが続いていたものです。
今回スナク首相が再び議会の承認を得て、実現可能に。7月にも強制移送を始めると言っているのですが、それを恐れた人々が、なんと北アイルランド経由でアイルランドに逃れてきているというのです。

先週アイルランドのヘレン・マッケンティー法務大臣が、2024年が始まってからのアイルランドへの難民認定申請者の80%が北アイルランドから陸路で入国しているとの推計を明らかに。(この推計が正確なものであるのか、より検証が必要との指摘もあり)
イギリスとアイルランドは相互に国境を解放し合う共通旅行区域(Common Travel Area)。北アイルランド(イギリス領)とアイルランドの陸の国境も常に開かれた状態なので、そこが抜け道となってしまったわけですね。
(イギリスがもはやEUではなくなった今、北アイルランドの国境はイギリスからEUへの入り口でもあります)

アイルランドはそもそも移民/難民の受け入れに寛容な国で、これまで誠実におこなってきましたが、ここ数年、戦争や飢餓などにより国際保護を求めて入国する人の数が急増。とくにウクライナ侵攻が始まった2022年以降、顕著で、総計を見ると2021年の年間の受け入れ難民数が9500人だったのに対し、2022年には81000人に急増しています。
(ちなみに、過去2年のウクライナからの避難民受け入れ総数は11万人。イギリスの受け入れ数は20万人強。両国の人口比はイギリス13:アイルランド1ですが、ウクライナ避難民総数はイギリス2:アイルランド1!)

そんなわけで、人道支援への理解と共感が強いアイルランドも、さすがに物理的にいっぱいいっぱいに。国内の深刻な住宅難も相まってロジスティックがうまくいかなくなりごたついている上、昨年末より極右派の暴力的な人々が現れ、難民の施設になる予定の建物を放火する事件が相次ぐなど、この国では決して起こって欲しくなかった残念な事件も起こり始めています。
住居が足りないんだから、燃やしちゃったらもっと足りなくなるのに。

スナク首相は、ルワンダ移送法案に恐れをなして難民がイギリスを自ら脱出している現状を「成功」と捉えているようで、法案が早速効力をあらわした、と。移民問題は国際間の強調が必要、共通旅行区域なんだから話し合って共に解決しましょう、というアイルランドの態度は受け入れらず、お宅の問題(←もとはイギリス発なのに!)には関心ありません、的な発言まで飛び出す始末。考え方の根本がまったく相容れないのです。
アイルランドとしてはイギリスから来た難民はイギリスに帰ってもらうべき、という理屈ですが、イギリスは、フランス(EU)が受け入れるのであれば応じましょう、と交換条件を出しているよう。これって、またもやアイルランドがイギリスとフランスという欧州の二大大国の板挟みになる構図では…?

アイルランドはその地理的な事情から、どうやら歴史的にそういう運命にあるようで、古くは17世紀、ボイン川の戦いに至る一連の出来事もそうだった。イギリスVSフランスに亡命したイギリス王率いる連合軍の戦いの戦場になり、内政にまで干渉されてしまったアイルランド。今回もやはりイギリスVSフランスに代表されるEUの間で、移民問題の矢面に立たされている感が否めません。
今日はここのところずっと問題になっていたダブリン市内でテント生活を送り続けていた難民が、政府のバスで指定住居へ移送されましたが、そこでもベッド数が足りないとか。
なんとも難しく、やるせない問題で今後どうなっていくのか心配ですが、アイルランドが誠実に対処し、国民の支持も諸外国の協力も得られることを願うばかりです。同時に、人の行き来を制限する国境とはなんのか、国家とはなんのためにあるのか、といったことを考えずにはいられないのでした。

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先日、ダブリン北郊外のロックシニィ(Loughshinny, Co. Dublin)にて。北アイルランドとの国境はここから1時間弱、この海の向こうはイギリスの島ブリテン島(4月29日撮影)
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コメント

ハンディ12

こんばんは
簡潔で要点をえたまとめありがとうございます
今週でたスナク首相の「アイルランド国境における亡命希望者の返還等に関して興味がない」発言、年末ごろのUK選挙にむけた国内の点数かせぎでしょう。そもそもブレクジットなる政策が壮大なポピュリズムで、結果経済がガタガタなんですが。
世界中から労働力をひきつけ、その多様性で発展した国の土台をぶちこわして何がしたい?右傾化は世界のながれといえ
話しかわりギネスソーダブレッド、近所でもうってたのでゲット。むちゃおいしいです。ラム脚チョップとの相性抜群で昇天しました。ありがとうございます

naokoguide

Re: こんばんは
こちらこそコメントありがとうございます。
この件については思うところがアレコレあるのですが、あえて事実関係だけをまとめました。でも、ひとつだけ言うならば、今のスナク首相の姿勢は自分勝手。自国だけ良ければいいというのは結局自分たちの首を絞めることなり、そうなったらまた他国に責任転嫁して…の堂々めぐりを繰り返している国だなあ、とつくづく思いました。
ギネスブレッド、おいしいですよね!ラムチョップも。もっともっと昇天してください!笑
非公開コメント

naokoguide

アイルランド公認ナショナル・ツアーガイドの山下直子です。2000年よりアイルランド在住。趣味はサーフィン、アイススケート、バラ栽培、ホロスコープ読み、子供の頃からのライフワーク『赤毛のアン』研究。長野県上田市出身。

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