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「家庭」と「ケア」をめぐる国民投票の否決に感じたこと

一昨日におこなわれた「家族」と「ケア」をめぐる2つの憲法改正の国民投票ですが、昨日結果が出まして、いずれも否決されました。
改正内容については先日のブログでもご紹介しましたが、朝日新聞Digitalで日本語で要点を簡略に説明されていたのがわかりやすかったので、それを参考に再度下記に記しておきます。

①「家族」について…近年の多様な家族のあり方を反映させ、家族の定義に「婚姻関係か持続的な関係かを問わず」の一文を入れる。
②「ケア」について…女性が家庭における「義務」を怠ってまで外で働くことがないよう、国家が保障に努めるとの条文を削除し、「家族の構成員間の絆を理由とした思いやり」が国家にとって重要であるとする新たな条文を挿入する。

前2回の「同性結婚」と「人口妊娠中絶」をめぐる投票率がいずれも60%超えだったのに比べ、44.36%と低い投票率。(正直言って私はもっと低いかと思っていました!)
「家族」は反対67.69%、「ケア」に至っては反対73.93%という史上最高の「No」を得て、圧倒的な反対多数による否決となりました。

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左が「家族」、右が「ケア」。赤が「No」、水色が「Yes」(Referendums, Irish Timesより)

まったく盛り上がっていなかった今回の国民投票ですが、政府は少数野党のイーントゥー(Aontú)党を除き、すべてが賛成派でしたので、私も初めは「Yes/Yes」で可決されるものかと思っていました。
日が近づくにつれ、投票率が低いだろうから否決されるだろう、との報道が出始めましたが、それでもピンとこなかった。ところが投票の前日にたまたま親しい友人男女数名で食事をしたとき、「明日投票に行くの?」と聞いたら半数以上が行かない、と。おそらく私が話を振らなかったら、誰もこの話題を持ち出さなかったと思います。そのくらい、皆、冷めていました。
どうして行かないの?と聞くと、さまざまな理由がかえってきましたが、ひとことで言うと「(この国民投票には)意味がない」、と。

友人たちとのこの会話を経て、腑に落ちるものがありました。アイルランド人って、絶対に「No」のときは「No」と言いますが、「Yes」とは言い切れない「No」のときは無回答なんですよね。日常生活でもある、ある。
私の友人はほとんどが30台後半~50代の働く世代で、大卒の中産階級リベラル派。彼らは反対派なわけではまったくなくて、この機に乗じて移民廃絶や保守的な母親論など的外れな反対キャンペーンを展開する人たちを心底嫌っています。
そしてメディアではあたかも、付け加えられる家族の定義が曖昧で、国民を混乱させているようなことが言われていましたが、混乱している人は誰一人なく、みなすべてちゃんと理解していました。
彼らの態度は、何を今さら、家族の定義も女性の役割が家庭に限定されないことも言われなくても分かっているし、すでに実行してるよ、こんな儀礼的な憲法の書き換えには意味がないじゃないか!と、国民投票自体に賛同していないというものでした。
そして、現状の憲法が日々の暮らしの妨げになっていない限り、あえて変える必要はないと思っているようでした。

上述の朝日新聞Digitalでは、イギリスのスカイニュースの解説を引用してこう説明していました。
「アイルランドの有権者は歴史的に、賛成した場合の具体的な結果が説明されていないと感じれば、喜んで反対票を投じ、現状維持を優先する」と。「有権者に対する政府の傲慢(ごうまん)さが背景にある」とも。
ポジティブな結果を確信できなければ現状維持を優先、というのは、アイルランド人ある、ある。2017年、水道料金導入が国民の反対により取り下げられたのもそれでしょうか。
アイルランド人は日々の暮らしにおいて非常に地に足のついた考え方をする人たちなので、実利が感じられないことには簡単に乗ってこないのです。

というわけで、投票に行った人の多くは反対派であり、行かなかった人の多くは、行かないことで国民投票自体に反対の意を示した、ということでしょうか。
否決という結果だけを見ると、あたかもアイルランド社会がいまだ保守的で、家族や女性の役割を限定的にとらえている人が多いかのように見えるかもしれませんが、それが否決のメインの理由ではありませんね。むしろその逆で、すでに社会は多様化し、女性はとっくに家庭を飛び出しているからこそ、人々は「儀礼的な改正」として興味を示さなかった。
政府が、時代に即して改正しましょう、Yesに投じましょう、と言えば言うほど、人々は上から目線に感じたのだと思う。分かりきったことを今さら言わないでよ、と。
盛り上がりに欠けたのは、実は無言の反対・反発だった!そう考えると、終わってみてやっと、なかなか興味深い国民投票だったことが分かりました。

結果分析の記事などまだ読み切れていないものもありますが、以上、これまで読んだことと、周囲の人との会話や空気感から私が感じたことを書きました。

【参照記事】
Care referendum sees highest ever no vote in Irish ref history(RTE News)
Terry Prone: People were not confused about the referenda — they just didn't want them(Irish Examiner)
As it happened: Ireland votes No on family and care referendums(Irish Times) など
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アイルランド公認ナショナル・ツアーガイドの山下直子です。2000年よりアイルランド在住。趣味はサーフィン、アイススケート、バラ栽培、ホロスコープ読み、子供の頃からのライフワーク『赤毛のアン』研究。長野県上田市出身。

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