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「家族」と「ケア」をめぐる憲法改正の国民投票

先日のブログでちらり触れましたが、アイルランドではあさって3月8日(金)、「家族」と「ケア」をめぐる憲法の文言改正についての国民投票が行われます。
国際女性デーに当てたこの国民投票。先月半ばからキャンペーンが開始され、各政党などによる「Yes」または「No」への投票を呼びかけるポスターが街中に。

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投票は「家族」と「ケア」に関する2つの項目について。レオ・ヴァラッカー首相率いるフィネゲール党の、両項目とも「Yes」を支持するポスター。背後のダブリン・バスには「Be A Voter(投票しましょう)」の呼びかけの文字が

アイルランドでは憲法改正にあたり国民投票がおこなわれますが、1937年の憲法制定以来、今回で42回目。約2年に一度という高頻度でおこなわれていることになります。
投票できるのは18歳以上のアイルランド在住のアイルランド国籍保持者。私には投票権はないものの、当地に暮らして20余年、これまで幾度もの国民投票を見てきました。
中でも前2回の、2015年の同性結婚をめぐるもの2018年の人工妊娠中絶をめぐる国民投票は忘れがたく、白熱したキャンペーンと60%を超える高い投票率でいずれも可決され、アイルランドの新時代の幕明けを感じたものです。

それに比べると、今回のものはかなりローキー(控えめ)…と言いますか、正直言ってあまり盛り上がっておらず、国民の関心も低め。今日のニュースでも「投票に行ける人は行きましょう、くらいな感じでしょうか」などと言われてしまっていましたが、何せ、改正される文言がわかりにくく、関心を持ちずらいのです。
私もここ数日でようやく理解にこぎつけたところですが、すぐに忘れちゃう。憲法の何を変えようとしているのか、あえて大雑排にまとめますと…

①「家族」について
・アイルランド憲法では家族が社会の基本集団であると定めているが、現行の条文に、家族の定義として「婚姻に基づくものに限らない」趣旨のフレーズを加える。
・現行の条文の、「家族の基礎たる婚姻の制度」から「家族の基礎たる」を削除。
→要するに、「家族」を婚姻関係に限定せず、(未婚のカップルやひとり親家庭なども含む)より包括的なものとして定義し直す。

②「ケア」について
・現行の条文の、「女性が家庭生活に欠くことの出来ないもの」といった内容の一文を削除。
・現行の条文の、「母親が経済的事情で外で働くことで、家庭での義務を怠ることがないよう、国が保障するよう努める」といった内容の一文を削除。
・代わりに、「家族の構成員が相互ケアし合うことで、社会的ケアが達成できるよう、国は支援に努める」といった条文を新たに加える。
→要するに、「女性」や「母親」を家庭での役割に規定する条文をなくし、社会的ケアに関するものに置き換える。

改正前・改正後のきちんとした全条文を知りたい方は、こちらを参照してください。
What are you being asked to decide on?(The Electoral Commission)(英語)

いずれも大切なことではあるものの、前2回のような「同性結婚」とか「妊娠中絶」といった具体性のある内容ではないため、文言遊び的なややこしさ、ツッコミどころアリの内容に…。
もし自分に投票権があったら、「No」に投票する理由は見当たらないけれど、「家族」についての文言が引っ掛かります。「家族」の定義については、あえてフレーズを付け足さない方が返って包括的だと思うんですよね…。

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少数野党を除きほぼ全政党が両項目とも「Yes/Yes」支持。ポスターは下から野党第一党のシン・フェイン党、赤はやっぱり労働党、いちばん上はフィネゲール党の「Yes」のアイルランド語バージョン。ちなみにアイルランド語には「Yes」「No」に相当する単語がないので、「Ta(ある)」「Ni(ない)」といった意味の言葉を当てています

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「No」のポスターはめったになく、やっと見つけました。2019年にシン・フェイン党から分離したイントゥー(Aontú)党のもので「憲法から母親を削除しないで」と書かれています

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もうひとつ見つけた「No」は政党名は記載されていないか、されているのかもしれませんが見えない。「移民に深刻な影響が」と書かれていますが、今回の憲法改正の論点とは直接的に関係がないような…

ちなみに先日、アイルランドの憲法改正のプロセスや成果をご研究されている、徳田太郎さんとダブリン市内をご一緒に歩き、実にいろいろなことを教えていただきました。
アイルランドでは2012年より、市民から無作為に選出した一般市民による憲法会議や市民会議が設置され、まずそこで改正議題が熟議され、その上で国民投票がおこなわれます。前々回の2015年の同性結婚における投票からこのシステムが採用されましたが、アイルランドの憲法改正はこの「熟議」と「直接選挙」がうまく作用して成果を出している、世界に類を見ない事例なのだとか。

徳田さんがまとめられた、前2回の憲法改正を考察した論説冊子も頂戴し、大変ありがたく拝読。憲法会議についての知識が薄かった私にとって、設置の経緯や意義が詳細に説明されているこの冊子はもはや手放せないバイブルに。大変勉強になったと同時に、前2回の投票についてこれまで印象としてそうかなあ、と思っていたことがなるほど~と腑に落ちました。
徳田さん、ありがとうございます!

この憲法会議、市民会議での熟議というのが、対面での会話を重んじるアイルランド社会を反映しているように感じました。モノゴトを解決するとき、変えていくときに大切なのは対話ですよね。話し合いや意見交換。(暴力では解決できなかった北アイルランド紛争も、両勢力が対話し、互いの話に耳を傾けたことが解決を生んだと言われます)
前2回の憲法改正は、同性婚や妊娠中絶という内容でしたので、世代やバックグランドを超えての対話が変革を起こした実感がありました。日常生活でもありますよね、人と話すことで考えが広がり、時には180度意見が変わっていくことって。
建設的な話し合いが人々の考えを時流に即した方向へ導き、生きやすい社会に変えていく。アイルランドに暮らしているとそんなことを肌で感じることが多々あり、前2回の国民投票はまさにそれでした。

その点、あさっての投票は、ニュース以外ではあまり話題になっておらず。結果はおそらく両「Yes」になると思われますが、投票率は低くなりそうです。
それもまた、今のアイルランド社会を反映しているのでしょう。戦争、物価高、住宅難…と差し迫った問題が大きすぎて、大切なこととはわかりながらも、今日明日の暮らしにすぐさま影響が及ぶわけではない憲法の文言改正に情熱が向かない。そんな気分がただよっている気がします。

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アイルランド公認ナショナル・ツアーガイドの山下直子です。2000年よりアイルランド在住。趣味はサーフィン、アイススケート、バラ栽培、ホロスコープ読み、子供の頃からのライフワーク『赤毛のアン』研究。長野県上田市出身。

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