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北アイルランド議会に「夜明け」、初のナショナリスト首相誕生

約2年間、膠着状態だった北アイルランド自治議会がついに再開されることになり、「新たな夜明け(new dawn)」(アイリッシュタイムズ紙)とさかんに報じられています。

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白亜の北アイルランド議事堂「ストーモント」。北アイルランド6州にちなみ正面ファサードの柱は6本。街灯やゴミ箱、内部のシャンデリアや部屋の数にいたるまで、すべて6または6の倍数にデザイン・配置されているというものすごいこだわりが…(2012年8月撮影)

昨日ベルファーストの自治議会堂で新たに任命された北アイルランド首相は、アイルランド統一を支持するナショナリスト政党(カトリック)のシン・フェイン党のミシェル・オニール副党首。
そもそも北アイルランドは1921年のアイルランド独立の際、イギリス系プロテスタント住民多数のためイギリス領にとどまった地域。その後、領土の帰属をめぐる北アイルランド紛争(1968~1998年)が勃発、シン・フェイン党は紛争中にテロ活動をおこなった過激組織IRA(アイルランド共和軍)の元政治部門だった政党でもあります。
その北アイルランドで、イギリスとの連合を支持するユニオニスト政党(プロテスタント)ではなくナショナリストから首相が誕生するというのは、もちろん103年の歴史上初めての出来事で、北アイルランドにとって歴史的瞬間でした。北アイルランドのみならず、アイルランド、イギリスにとっても歴史の転換を象徴する出来事と言えましょう。

ちなみに今回のオニールさんの首相就任は、2022年5月におこなわれた北アイルランド議会選挙でシン・フェイン党が勝利したことによるものです。
※過去ブログ参照→北アイルランド議会選挙、シンフェインの勝利と中間層の拡大(2022年5月)
就任までになぜ2年もかかってしまったかというと、選挙で負けたユニオニスト政党のDUP(民主統一党)がすねてしまい、英国のEU離脱に伴う国境管理への不満を理由に議会への参加をボイコットし続けていたからなんですね。
北アイルランド議会は1998年の和平合意により、ナショナリスト政党とユニオニスト政党のパワーシェア(権限は同等)で成り立っています。それぞれの党から首相、副首相が選出されることになっており、一方が参加してくれないと議会が開けないのです。
このたびイギリス政府がユニオニストに歩み寄り、イギリス本土との自由な物流を保証するような法案を出したとかで、やっとDUPが機嫌を直したようです。(DUPは過去にも別の理由で議会をボイコットしたことあり)

昨日の就任演説で、オニール新首相はユニオニスト議員たちとも協力することを誓い、北アイルランド議会は「カトリック教徒、プロテスタント教徒、反対派すべての人のための議会」であると述べました。「こんな日がくるとは、私の両親や祖父母の時代には想像もつかなかった」とも。

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ミシェル・オニールさん、近ごろお痩せになってきれいになられた印象。写真はThe Irish Times; Michelle O’Neill elected first nationalist First Minister in ‘new dawn’ for Northern Ireland politicsより

現在47歳のオニールさんはカウンティー・コーク生まれ、北アイルランドのカウンティー・タイローン育ち。お父さんは政治犯として投獄されていたこともある筋金入りのIRAメンバーで、元シン・フェイン党の市議会議員。叔父さんやいとこさんなど一族の多くがリパブリカン(ナショナリスト活動家)で、IRAメンバーだったいとこのひとりは紛争中に暗殺されています。
ご自身も10代からお父さんを手伝って政治活動に関わり、21歳でシン・フェインに入党。そのかたわら、16歳で最初のお子さんを出産。若くしてお母さんになるってすごいなあ、『ギルモア・ガールズ』(2000~2007年放送のアメリカのドラマ。Netflixで配信中)のローレライと同じだ!(笑)
お子さんはお2人で、すでにお孫さんもいらっしゃるそうです。

オニールさんと言えば、豊かなブロンド、赤い口紅に赤いマニュキア…といった女性的な容姿のせいか、お若いときはシン・フェイン党幹部の「操り人形」と揶揄されたことも。DUPのアーリーン・フォスターさんが北アイルランド首相で、オニールさんが副首相だったとき、オニールさんの印象を聞かれたフォスターさんがひと言、「ブロンドよね」と言い放ったエピソードは有名。
※お2人についての過去ブログ参照→北アイルランド問題、やっぱりイギリス人のままでいたいユニオニストの気持ち(2021年3月)

近年北アイルランドでは、カトリック住民の人口がプロテスタント住民を上回るなど、統一アイルランドを主張する人たちに有利に働く出来事が続いています。
今回の北アイルランド初のナショナリスト首相の誕生も然りですが、今のところの当地の空気感は統一アイルランドの議論にはまだ程遠く、まずは反対デモなどなく無事にオニール首相の就任式が執り行われて良かった、今後両派がまた決裂しないといいけれど…といったところでしょうか。
DUPの議員の中には、党が協力すると言ってもオレはしないぞ!と公言しちゃうような強靭な人もまだまだいますし。

北アイルランド発足から100余年、紛争終結から四半世紀が経ち、現在の北アイルランドはかつてのナショナリスト、ユニオニストの二極化社会から変わりつつあると言えるでしょう。外国人や若い世代など両派のどちらにも属さない人たちが増え、彼らにとっては政治的な主義主張より、日々の暮らしの向上と安定が大事。
なにせ2年間も議会が開かれなかったのですから、医療、教育、公共サービスなど暮らしに直結する問題が山積み。多くの人にとって不安な日々でしかなかったはずです。リーダーがどちらの勢力出身であろうと人々のために奉仕してくれるのであればそれで良く、まずは北アイルランド自治政府が再開してひと安心…といった印象。今後の北アイルランド議会の行方に注目したいところです。

※参照記事
Michelle O’Neill elected first nationalist First Minister in ‘new dawn’ for Northern Ireland politics(The Irish Times) など

※北アイルランドの成り立ちについてご興味ある方は、先日のイベントでお話しさせていただいていますのでご参考まで。(動画です)
山下直子が語るアイルランドの集い(ユーラシア旅行社 旅動画チャンネル)
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アイルランド公認ナショナル・ツアーガイドの山下直子です。2000年よりアイルランド在住。趣味はサーフィン、アイススケート、バラ栽培、ホロスコープ読み、子供の頃からのライフワーク『赤毛のアン』研究。長野県上田市出身。

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