『ONCE ダブリンの街角で(Once)』(2007)、『シング・ストリート 未来へのうた(Sing Street)』(2016)のジョン・カーニー監督の新作映画、『Flora and Son』を観ました。
先月、ダブリンの映画館で上映されていたのですが、ごく短期間で終了してしまい、話題作なのにどうして~と思っていたら、Apple TV+で配信されていたんですね。邦題は『フローラとマックス』、日本語字幕もあり。
前述の2作同様、本作も物語の舞台はダブリン。ダブリンのありふれた日常の中で「音楽が奇跡を起こす」、カーニー作品の真骨頂が存分に発揮されています!
個人的には、この3作の「ダブリン音楽映画」中もっとも胸に刺さる場面が多かったかも。(あ、いちばん「好き」な作品と問われたら、やっぱり『シング・ストリート…』って答えるかも…ですが)

シングルマザーのフローラと、盗みを繰り返しこのままじゃ更生施設行きの14歳の息子マックスが音楽をとおして心をかよわせていく…なんて言うとありきたりですが、どこそこ泥臭くてコミカルなダブリンの街や人々が塩辛~い味付けをたっぷりしてくれています!
カーニー監督の作品って、等身大の現実とフェアリーテールのバランスが絶妙なんですよね。登場人物はみな疲れていたり、怒っていたり、いきがっていたりするけれど、その実もろくて人情があって、良くも悪くも正直。現実と夢を行ったり来たりするのが人生なんだよ、って教えてくれているような。
かれこれ15年ほど前のことですが、『ONCE…』が日本で上映されるにあたり、
カーニー監督にインタビューをしたことがあります。そのときも確かそんな話をしてくれたなあ、と思い出しました。
ダブリンに暮らして20余年の私は、ときどきこの街に疲れ、近ごろのダブリンはすっかり変わっちゃったなあ…って嘆きたくなることがあります。最近ちょっとそんなモードに入っていましたが、この作品を観たら、ダブリンも捨てたもんじゃない、ほんとのところは変わってないじゃない、我が街ダブリン最高!…って気分になって、なんだか元気が出てきました。カーニー監督、ありがとう!
キャストも魅力的です。主人公フローラを演じるのはU2のボノの娘さん、イヴ・ヒューソン(Eva Hewson)。実生活では何不自由なく育った生粋のサウスサイダーなのに、下町ノースサイダー役がなかなかはまってます。(ダブリンは伝統的にサウスサイドが山の手、ノースサイドが下町と文化の棲み分けがあります)
フローラの元パートナーのイアンは、『シング・ストリート…』で、ヤサグレてるけどロックで粋なお兄ちゃん役だったジャック・レイナー(Jack Reynor)。今回も夢破れた系の役どころだから、あのお兄ちゃんがその後プチ成功して、またヤサグレちゃったのかしら…なんて、ついつい思ってしまう(笑)。ガーダ(警察官)役の俳優さんもどこかで見たことあるなあ、って思ったら、なんとシング・ストリート校のバクスター校長ではないですか。
フローラのギターの先生役の、ちょっぴりクリス・オダウド似?のアメリカ人の俳優さんもいい感じ。『リバー・ランズ・スルー・イット』で子役(子ども時代のノーマン)だった方だそう。
そして、アイルランドが誇るラグビー界の英雄ブライアン・オドリスコルの女優妻エイミー・ハバーマン(Amy Huberman)がカメオ出演していて驚いた!こちらは、サウスサイドの優雅な若妻役が私生活そのままに見えて、ここだけノンフィクションかのようでした。(なのでつい、彼女のインスタによく登場する犬やブライアンはどこ~って思ってしまった・笑)
英語にご興味ある方は、ダブリン訛りやダブリンらしい言い回しがたっぷり堪能できます。(Fxxxはじめ、スラングもいっぱい)
「ツアーガイド病」の私は、いつものようにロケ地が気になる。エクスチェッカー通りの楽器屋さん(Musickmaker, Exchequer Street, Dublin 2)、ルアス(路面電車)、リフィー川にかかるジェイムズ・ジョイス橋、ダンレアリ?の波止場、グリフィス・パーク(Griffith Park, Dublin 9)(←これは見ただけではわからず調べました)…など、ダブリンの街もたっぷり楽しめます!

フローラとマックスが自転車とぶつかりそうになったのはここ、Inns QuayとCharles Stの角。映画に映っていた角のパブ、Chancery Innは閉店してしまったようです

フローラとマックスが暮らす市営住宅はそのすぐ近くのここですね(Chancery House, Charles Street)
※ジョン・カーニー監督作品の関連過去ブログ
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『ONCE』の監督ジョン・カーニーを訪ねて(2007年9月)
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『ONCE』主演の2人・グレンとマルケタに会う(2007年9月)
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『ONCE』のロケ地めぐり!(2007年9月)
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『Once』のグレンとマルケタ、オスカーに輝く!(2008年2月)
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ジョン・カーニーの新作映画『シング・ストリート』、日本で上映中(2016年12月)
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シング・ストリートは実在します!…ロケ地いろいろ(2020年5月)
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