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アイルランドにフィッシュアンドチップスをもたらしたのはイタリア移民だった!

昨日のハイキングのあと、友人たちとフィッシュアンドチップスを食べながら、なぜアイルランドのチッパー(フィッシュアンドチップス屋)にはイタリア系が多いのか、という話になりました。
アイルランドにお住まいの方ならピンとくるかと思いますが、近所にたいてい「Nico's」とか「Fusco's」とか「Gino's」とか「Bruno's」…といったイタリア人ファミリーの名、もしくは「Sorrento」なんてイタリアの地名がついたチッパーがあるかと思います。
私もアイルランドに来たばかりの頃はチッパーと言えばコテコテのアイリッシュ文化・アイリッシュ起源かと思っていたので、当時流行っていたメイヴ・ビンチー(Meave Binchy)の小説『イブニング・クラス(Evening Class)』にイタリア人のチッパーが出てきて、え?なんでイタリア人?と思ったものです。でも、よくよく周囲を見回せば「O'Connor's」とか「McGettigan's」なんて(アイルランド人ファミリーの名の)チッパーはどこにもなく、エキゾチックな名ばかり。
そう、今や国民食かのように言われ、レストランのメニューにもあるフィッシュアンドチップスは、実はアイルランドの伝統食などではまったくなく、この国にやって来たイタリア人がもたらしたものなのです。

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昨日食べたフィッシュアンドチップス。サクサクの揚げ衣のビールの風味と、ふっわふわの魚が絶品でした~

アイルランドにおけるフィッシュアンドチップ発祥秘話として一般に伝えられているのは、1880年代にアメリカへ移民する予定だったジュセッペ・チェルヴィ(Giuseppe Cervi)さんというイタリア人が第一人者だという話。アメリカ行きの船を、アイルランド南部のクィーンズタウン(現コーヴ)で誤って下船してしまい、そこから歩いて(!)ダブリンへ到達。パブの前で揚げたジャガイモと魚を売り評判になり、のちに現ピアース・ストリートにオープンした店がアイルランド初のフィッシュアンドチップス店だったと伝えられています。
チェルヴィさんはジャガイモではなく、栗をあげていると思っていたらしい(笑)。

でも、話はそれだけはないよう。スティーヴンが「イタリア人のアイスクリーム売りがチッパーになったんでしょ」と言うと、スザンヌが「そんなような話だけれど…。イタリア移民のチッパーに関する面白いドキュメンタリーがあるから観てみて」と動画リンクを送ってくれました。
約50分間のドキュメンタリー映画『Chippers: The story of the Italian community in Ireland』(2008)。今のところ、YouTubeで全編視聴可。→こちら
うちの近所にも何件かある「ボルザ(Borza)」というチッパー・チェーンのおそらく3~4代目オーナー、バルビ・ボルザさんと、そのほか多くのチッパーを営むイタリア人移民コミュニティーを深堀りした非常に興味深い内容です。

これを観て私がいちばん驚いたのは、アイルランドでチッパーを営むイタリア系のほとんどがイタリア南部のカサラティコ(Casalattico)という人口700~800人程の小さな村にルーツがあるということ。
1850年頃、拡張・分配し続けた農地がいよいよ足りなくなり、農地にあぶれた村人が国外へ移民するように。アルプスを越えてフランスへ渡り、ボトル詰め工場で職を得ますが、副業として夏はアイスクリーム、冬は焼き栗を売っていたそう。(なるほど、スティーヴンがアイスクリーム売りに言及したのも、チェルヴェさんがジャガイモを栗だと思っていたのもそのせいか!)
そこからどうやらイングランドへ渡り、すでにイングランド北部の人たちが常食としていた揚げた魚、イモ、マッシィ―ピー(潰したグリーンピース)を見て、これなら自分たちにできるぞ!とアイルランドに持ち込んだのではないか、と。

ボルザさんのご先祖は20世紀初頭からダブリンでフィッシュアンドチップス業を営んでいたようです。
アイルランドには揚げ物の文化はないけれど、イタリアにはいろいろありますよね。ミラノのカツレツとか、シシリーのアランチーニ(ライス・コロッケ)とか。中身は違うけれど、得意な揚げ物スキルでアイルランドにあるもの(魚とイモ)も揚げちゃおう、ってことだったのではないかと思う。
1950年代頃からチッパーが大ブレイクし始めた背景には、当時のアイルランドには安く外食できるところもなければ、出来合いのものを売っているところもなかった、手軽なフィッシュアンドチップスが食文化の隙間にうまくはまって需要が伸びた、ということのようです。

ドキュメンタリーでは、ダブリンのイタリア移民の子孫から成る「イタリアン人クラブ」なるコミュニティーの存在や、ボルザさんやそのご家族がご先祖の村カサラティコへ里帰りする様子、カサラティコで移民した人たちを称える「アイルランド祭り」が開催されていることなどが紹介されていました。さらに移民3世、4世といった人たちに「あなたはアイルランド人?イタリアン人?」と質問を投げかけ、それぞれの答えを伝えていたのも興味深かったです。答えは人によってさまざまでしたが、ある女性が、私たち移民はみな心の底に「故郷へ帰る」気持ちを持っているのよ、と言っていたのが印象的でした。
私も背景は違えど移民には違いないので、その気持ちはよ~くわかります。故郷あっての「Home away from home」なんですよね。

ちなみに上記ドキュメンタリーとは別のところで知った話ですが、私がよく行くダブリンでお馴染みのチッパー、ベショッフ(Beshoff)の創始者はイタリア人ではなく、ロシア(ウクライナ)人だそう。オデッサ近くのアイヴァン・ベショッフ(Ivan Beshoff、1882-1987)さんという方(アイルランドでは「ジョン」と呼ばれていた)で、なんと、かの有名な戦艦ポチョムキン号の乗組員だったそうです。

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先日クロンターフで食べたベショッフ→ビーチとフィッシュアンドチップス…でもなんだか夏じゃない!(クロンターフ)(2023年5月)

レーニンの紹介で同じ社会主義者のジェームズ・ラーキン(James Larkin、1874 – 1947)(←オコンネル・ストリートで両手を広げている銅像の人)のことを知り興味を持ち、カナダ行きの船を途中で下船してダブリンに。スパイ容疑で逮捕され、釈放されてからフィッシュアンドチップス店を開業して成功したという方。
100歳をこえてもお元気で、ビジネスが子どもから孫へ引き継がれて繁栄していくのを見届けたそうです。
※参考→From mutiny on the 'Potemkin' to fish and chips in North Strand(Irish Times)

いずれにしてもフィッシュアンドチップスはアイルランドの伝統のスピンオフで、移民がもたらした食文化のイノベーションだったんですね。
そして、揚げ物文化で育っている我々日本人の口にも実によく合う。イタリア人だろうと何人だろうと、故郷を遠く離れ揚げ油にまみれながら身を立てた先人たちのことを想いながら、これからもありがたくいただきます!
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アイルランド公認ナショナル・ツアーガイドの山下直子です。2000年よりアイルランド在住。趣味はサーフィン、アイススケート、バラ栽培、ホロスコープ読み、子供の頃からのライフワーク『赤毛のアン』研究。長野県上田市出身。

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