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北アイルランドのドキュメンタリー映画『ぼくたちの哲学教室』とコナー君の壁画

北アイルランド紛争終結から25年が経ち、負の遺産を次世代にどう伝えていくべきか。紛争地域に残る暴力の連鎖をどう断ち切るべきか。
それを模索し、実践しているベルファースト市内のある小学校の約2年間を綴った素晴らしいドキュメンタリー映画『ぼくたちの哲学教室(Young Plato)』(2021)が来月より日本でも公開されます!

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5月27日より全国順次ロードショー

昨年RTEプレーヤーで視聴し、感銘を受けました。紛争終結から25年経った北アイルランドの「今」を知る作品としても素晴らしいし、教育とは何か?を問う作品としても素晴らしい。
多くの人に見てもらいたいと思ったので、日本で公開されることになりとても嬉しいです。RTEプレイヤーにあがっている動画はTV用に短縮されたものだったので、You Tube Movieでレンタルしてあらためて全編を見直したところです。

内容は、北ベルファーストのアードイン(Ardoyne)地区にある、ホーリー・クロス男子小学校(Holy Cross Boys School)のケヴィン・マッカリヴィー校長先生と子どもたちの奮闘記。4歳から11歳までの男の子たちが通うこの小学校では、「哲学」の授業が必須とされています。
空手の黒帯を持ち、エルビス・プレスリーが大好きなケヴィン先生は、「哲学とは、人はみな違う考えを持っているということ。他者の考えを聞くこと、それによって自分の考えが変わるかもしれないから。自分が常に正しいと思わないこと」と言います。このこと、シンプルだけど見失いがちですよね。私自身も常に肝に銘じていることなので、心に刺さりました。
ケヴィン先生はじめこの学校では、先生たちが、つまり大人が子どもに何かしなさいと命じたり、それは間違ってるよ、と頭ごなしに意見を押し付けたりすることは一切ありません。大人は問いを発する役に徹し、子どもたちに考えさせ、答えなり意見なりを促すのです。
大人が先に意見を言っちゃうと、考えない子どもになっちゃうんですね、やっぱり。お母さんや先生がそれをしちゃうと、自立できない大人になっちゃうんだ!



北ベルファーストは古くからの労働者階級地域で、この小学校のあるアードインは、アイルランド系カトリック住民の居住区。北アイルランド紛争時代、隣接するイギリス系プロテスタント住民との抗争がとくに激しかったことで知られるエリアです。
アードインには紛争時代に建設された居住区を分け隔てる「ピース・ライン」と呼ばれる壁が今も残り、北アイルランド関係のTV番組の取材等で過去に何度か訪れたことがありますが、街の様子は、山の手の東ベルファーストの高級住宅街とは雲泥の差なのはもちろん、同じ労働者階級の西ベルファーストと比べてもいっそう殺伐とした感じであったことは否めません。

ケヴィン先生の「哲学」の授業で「殴られたら、殴り返してもいいのか?」という問いに対するディスカッションが行われますが、かつて暴力が横行していたこの地域ではとくに臨場感のある大切なテーマ。子どもたちの中には殴っても良いと言う子もいれば、良くないと言う子もいますが、先生は決して意見を言いません。
私事ですが、この様子を見ていて、自分の小学校時代の先生を思い出しました。小学校6年間で2人の担任の先生にお世話になりましたが、どちらも素晴らしい先生で、まさにケヴィン先生のようだったなあ、と。間違ったことをしてしまう子どもはそれが間違っていると知らずにしてしまうわけで、どうしてそれがいけなかったのか、先生が言ったところピンとこない。それを子どもに考えさせ、納得させてくれる先生でした
小学校5・6年の先生は、週に一度「青年の主張」という授業を設けてくれました。決まったテーマにそって全員がエッセイを書いてきて発表し合うのですが、それぞれが自分の意見を持ち、それをシェアすることの大切さを教えてくれていたのだと思います。

話がそれましたが、この映画に感銘を受け、すっかりケヴィン先生のファンになった私は、昨日のベルファースト滞在中に、いてもたってもいられずアードインの小学校へ車を走らせ、映画に出てくるコナー君の壁画を見てきました!

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ベルファーストを象徴する山、ケイヴ・ヒル(Cave Hill)を背後にしたコナー君。日本公開用ポスターの写真の男の子ですね。哲学者たちの顔と、「To find yourself, think for yourself(自分を見つけるには、自分の考えを持つことだ)」というソクラテスの名言が

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ホーリー・クロス男子小学校の入り口。ケヴィン先生が今にもエルビスを聞きながら現れそう…ですが、SNS情報によると、なんとケヴィン先生は今、映画のキャンペーンで日本をご訪問中だとか!

コナー君は今も元気に中学校に通っているかな?
今日は学校は閉まっていましたが、近所の住宅や空き地から子どもたちが遊ぶ元気な声がわーわーぎゃーぎゃー聞こえていました。きっとホーリー・クロスのケヴィン先生の教え子たちでしょうね。

昨年公開された映画『ベルファスト』と合わせて見るのも良いかもしれません。→映画『ベルファスト(Belfast)』、北アイルランド紛争と郷愁と…(2022年2月)
いずれも北ベルファーストが舞台ですが、『ベルファスト』はアードイン近くのイギリス系プロテスタント住民の居住区タイガー・ベイでの話。あちらは紛争が始まった頃、こちらはそれから半世紀経った「その後」を描いたものですので、まさに答えのないクエスチョン&アンサーのような関係の2作品と言えましょう。

※関連過去ブログ→北アイルランド紛争の和平合意から25年、未だ残る「ピース・ライン」(2023年4月)
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アイルランド公認ナショナル・ツアーガイドの山下直子です。2000年よりアイルランド在住。趣味はサーフィン、アイススケート、バラ栽培、ホロスコープ読み、子供の頃からのライフワーク『赤毛のアン』研究。長野県上田市出身。

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