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「銀の森」のジュディばあやの奉公先?イェイツも魅せられたマクダーモット城

先日スライゴの「フェアリー・グレン」へお連れしたお客様が古城がお好きとうかがい、ダブリン方面へお送りする途中、せっかくなのでちょっと寄り道して、湖の中島にたたづむロマンチックな古城、マクダーモット城(McDermott's Castle)の見えるロックキイ森林公園(Lough Key Forest Park, Co. Roscommon)へご案内しました。

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湖畔からのぞむマクダーモット城。ザ・ロック(The Rock)またはキャッスル・アイランド(Castle Island)と呼ばれる小島に古城の塔が見えます

キャッスル・アイランドには12世紀からマクダーモット家の城がありましたが、1600年代末にクロムウェル戦争で略奪され廃墟に。現在の城は、新領主となったキング家により建てられた19世紀のフォリー(用途のない、装飾目的の建造物)で、それがさらに廃墟になったのか、初めから外壁しか造らなかったのか、屋根のないがらんどうです。



マクダーモット城と聞いて『赤毛のアン』ファンの私が連想するのは、作者モンゴメリが後年に著した別作品『銀の森のパット(Pat of Silver Bush)』に出てくるアイルランド人のジュディばあやです。ジュディは娘のころ、マクダーモットという名の城で奉公していました。
とても立派な城だったようで、ジュディはそこに仕えていたことを誇りに思っている様子。ある時、母の実家である「入江の家」の家具を立派だと褒めたパットに、こう言い返しています。

「このわたしに向かって立派だなんどと言えたもんじゃないだよ。若い頃にゃ、わたしはマクダーモットのお城にご奉公してただものね。立派だとね?ええかね、掛けぶとんはレースやサテンだし、白い大理石の階段にゃ金の手すりがついてるだよ。皿や小鉢は純金だし、金のかめにゃシャンぺーンが口まで入ってるだ。召使いは三十人ばかりいただが、その召使いたちがまた自分用の召使いを持ってるだ。クリスマスのご馳走の時なんど、大殿様が一ポンド金貨を盛った皿を回しなさるで、それをめいめいで取ったものさ。それにくらべたら、あんたの入江農場はどんなもんでござんすかね。…」
『銀の森のパット(上)』L.M.モンゴメリ作、田中とき子訳(篠崎書林)より


なんとまあ、豪華絢爛な夢のような城でしょう!ちょっと成金っぽいけど(笑)。
田中とき子さんの名訳が光っていますね。ジュディのアイルランド訛りの英語を、なんとも良い感じの日本語の訛りに再現してくださっています。
私がこの訳を、まるでジュディが乗り移ったかのごとく訛りバリバリで朗読するのが大好きなことは、昨年あちらこちらでさせていただいた「『アン』とアイルランド/ケルト」講座にご参加の方々はよくご存じのことでしょう。(笑)

これはあくまで私の推論どころか、勝手な空想/妄想なのですが、アイルランドに「マクダーモット城」はこのロックキイ森林公園のものをおいてほかにないので、ここがジュディの奉公先ということにしています。
物語の時代設定を考えるとジュディが仕えていたのは現行の城で、すでに居住用でなくフォリーでしたから、レースやサテンのふとんもなければ、金の手すりの階段や皿もなく、金貨をくれるお殿様も実際にはいなかったんですが。

でも、もしかしたら私の妄想以前に、そもそもジュディの「マクダーモット城」自体が夢か妄想だったのかもしれません。カナダに移民前のアイルランドでの暮らしがあまりに貧しく辛いものだったので、作り話をこさえて子どもだったパットに話して聞かせたのかも。
実は本当の奉公先の雇い主は酷い人で、近くのロックキイの森へ逃げてきては泣いていたジュディ。湖のほとりでこの城を眺めては、ああ、あそこで優しいお殿様につかえる身だったらどんなに良かったことでしょう…って想像していたのかもしれないなあ、なんて思うのです。(お姫様だったら…とは思わないところが控えめ)
もしそうだったら、ああ、ジュディ、辛い経験をしたのね~、銀の森屋敷に来てよかったね~、と勝手に物語のスピンオフ(←『ジュディが銀の森に来るまで』・笑)をこさえては、自分の妄想話にウルウルしたりして(笑)。
そしてもしそうだったら、ジュディの「マクダーモット城」はまるで『青い城』ではないですか!(モンゴメリ作の別の作品。主人公の理想郷としての城)

ジュディはあやの夢の城は、実は詩人W.B.イェイツの夢の城でもありました。こちらは本当の話です。
1895年4月、29歳の頃、のちにアイルランド初代大統領となったダグラス・ハイドをロスコモンに訪ねたイェイツは近くにあるこの城のことを知り、ここを「英雄たちの城」と名付け、ケルトの秘境センターに作り上げようと思い立つのです。この頃のイェイツはオカルト実験にはまっていて、モード・ゴンへの報われぬ片想いに胸を焦がしつつ、「次の10年間、イェイツは秘教の哲学を見出し儀式を創り上げる空しい企てに情熱を燃やし続けた」(※)のだそう。
(※)『祖国と詩 W.B.イェイツ』杉山寿美子(図書刊行会)より引用

この企ては実現しなかったものの、アイルランドの土地には目に見えない者たちが息づいてると考えていたイェイツですから、この城をケルト秘境センターにしようと思ったのには、何か特別なパワーを感じ取ったからかもしれません。
モンゴメリも霊感の強い人でしたから、魔女の血を引くと自称するジュディはあやに、たとえ名前だけの一致だとしても「マクダーモット城」を絡めたのは、単なる偶然ではなかったような気も…。

この城周辺が妖精の棲み処であることは、毎年5月初めに森一面に咲き乱れるブルーベルが証明しています。そう、ブルーベルの群生地は妖精の棲み処。→古い記事ですが…ブルーベルが咲き乱れる森へ(ロックキイ森林公園)(2009年5月)
ロックキイのブルーベルはしばらく見ていないので、今年はブルーベルのお花見をしつつ、ボートに乗ってキャッスル・アイランドへ行ってみたい。
定期的に運行される遊覧船で周遊するか、手漕ぎボートをレンタルして行くことになりますが、先日訪れたときはまだシーズンオフで運行していませんでした。残念ながら地盤がゆるいとのことで島に降り立つことはできませんが、いつも湖畔から眺めるばかりなので、今年はぜひ城に近づき、ジュディの夢、そしてイェイツの夢を間近で感じてみたいものです。

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停泊中のボート。湖畔にはカフェがあり、広大な森林公園内には各種アクティビティもあり
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naokoguide

アイルランド公認ナショナル・ツアーガイドの山下直子です。2000年よりアイルランド在住。趣味はサーフィン、アイススケート、バラ栽培、ホロスコープ読み、子供の頃からのライフワーク『赤毛のアン』研究。長野県上田市出身。

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