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『イニシェリン島の精霊』トリビア② コリン・ファレルが着てたアランセーター

公開中の映画『イニシェリン島の精霊(The Banshees of Inisherin)』について、今回はアラン伝統のセーターについて触れたいと思います。
※これまでの関連過去ブログ
100年前のアラン諸島が舞台、『イニシェリン島の精霊』(2022年11月)
アイルランド、オスカーノミネート大豊作!コリン・ファレルもポール・メスカルも、キテレツ演技のバリー・キョ―ンも!(2023年1月)
ついに日本公開!『イニシェリン島の精霊』トリビア① ロケ地のこと、ロバのジェニーのこと(2023年1月)

石だらけのアランの景観も、コリン・ファレルのハの字眉毛やバリー・キョ―ンのキテレツ演技も、ロバのジェニーをはじめとする動物たちもインパクト大ですが、コリンら島の男を演じる俳優たちが身に着けていたアランセーターのセンスが、これまた深読みせずにはいられないシロモノ。

先日、静岡の洋服店ジャックノザワヤさんの店主、野澤弥一郎さんがお仕事でアイルランドにいらっしゃいました。
日本での公開前でしたが、試写ですでに鑑賞済みという野澤さんと「イニシェリン島」談義をしたいっ!と心待ちにしていた私は、約束の時間より早く現れ(笑)、まだお仕事中の野澤さんに、「コリン・ファレルが着ていた、あの赤いセーター!1923年に、あんなおしゃれなモノはまだ島にはなかったですよね、ね!」と興奮してまくしたてたのでした。

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高品質の伝統ニットやクラフトを取りそろえたダブリンの老舗店クレオ(Cleo)にて、『アイルランド/アランセーターの伝説』(繊研新聞社)の著者でもあるアランニット博士の野澤さんと「イニシェリン島」談義で大盛り上がり!笑

コリン・ファレルが赤いセーターを着て登場するのは、物語中盤あたりだったでしょうか。ひと目見て、なんて可愛らしいセーター!と目を奪われました。
やや暗めの赤で、えんじ色と言うのでしょうか。襟付きで、身頃に「ダイヤモンド」と「ブラックベリー」の2種類の代表的なアラン模様がやや控えめに編み込まれています。裾をズボンにインした着こなしもいい。ネタバレるのであまり言えませんが、家の玄関前で、例の「アレ」を拾い上げようとかがみこんだ時に、模様のデティールがアップになってよく見えました。
どんなセーターなのか、こちらの記事に写真が掲載されています。
The Banshees of Inisherin Is Filled With Beautiful Colin Farrell Sweaters (GQ)
The Sweaters of Inisherin (Vanity Fair)

アランセーターと言えば純白の生成りで、島の漁師が着ていたフィッシャーマンズセーターだと誤解されがちですが、実は浮き彫りのようなアラン模様が網や針に引っかかりやすいので、海での仕事には不向き。島の人たちが仕事着、普段着として着ていたセーターは模様の少ないシンプルなもので、手の込んだ模様が豊富に入ったセーターは、日曜日のミサや結婚式に参列するときに教会へ来て行く晴れ着だったのです。
また、当時のアラン諸島では男性は紺色、女性は赤(えんじ)色、子どもは白色を身に着けるのが定番だったとか。そう言えば、コリンも赤のほかに着ていたセーターは紺色でしたし、ドミニック役のバリー・キョ―ン君が着ていたのは紺色の襟付きセーターでしたね。

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何年か前にイニシア島のニッターさんのお宅で見せていただいた、子ども用の生成りアランセーター。同じく島の名ニッターだった今は亡きお母さんが、かれこれ半世紀ほど前にお孫さんのファースト・コミュニオン(初聖体式)のために編んだものだそうです、美しい!(2/3追記:ファースト・コミュニオンじゃなくて、コンファメーション(堅信礼)だったかもしれません)

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こちらは、ゴールウェイの老舗ニット店オモーリャ(O'Maille)さんで販売されていた、女性用のポンチョ風ニット。前述の記事によると、コリンの赤いセーターは2色編まれ、モダンすぎるとの理由から起用されなかった別のもう一着はこのくらい明るいレッドでした

ちなみに、当時の女性はセーターは着なかったようですが、ポーリックのお姉さんシュボーンが着ていたのは鮮やかなレッドのコートでしたね。(最後にコートの色が変わるのは、彼女の心境の変化を表していたのでしょうか)

さて、コリンの赤(えんじ)色のセーターに話を戻しましょう。
「1923年に、あんなおしゃれなセーターは島にはなかったですよね、ね!」と詰め寄った私への野澤さんの回答。もちろん、当時の男性が着たセーターとしては色もデザインも一般的とは言えず、その意味では「ファンタジー」なんですが、まったく存在しなかったというわけではない、と。なぜかと言えば、色は違えど、コリンが着ていたものを彷彿させるような、襟付き+「ダイヤモンド」模様がほどこされた20世紀初頭のセーターが、アイルランド国立博物館カントリーライフ館(National Museum of Ireland Country Life, Turlough Park, Castlebar, Co. Mayo)に残されているというのです。
その件含め、「イニシェリン島」の服飾をはじめとする野澤さんの考察が面白いので、ご興味のある方はぜひご一読を。シュボーンのタラ・ブローチ、ミセス・マッコ―ミックのクリス・ベルトもしっかりチェックしているところが、さすが野澤さん。
JACK NOZAWAYA 倶樂部余話【412】映画「イニシェリン島の精霊 (原題 The Banshees of InishErin)」を観て(2023年1月27日)

「この茜色のセーターはバードリイグのちょっと中性的な(女々しい?)性格を暗示させていたのかもしれません」…に深く共感。そうそう、その「女々しい」コリン・ファレル、いやポーリックがついに大人(男)になり、独り立ちする!(その時にはもう、「女々しい」セーターは着ていません!)…というのが、この物語のポイントなのかもしれないなあ、なんて思ったりしたのでした。
中年農夫ポーリックの、ちょっぴり遅い成長物語?笑

衣装担当のイマー・ニ・ウィルドウィク(Eimer Ní Mhaoldomhnaigh)さんは、当時のアラン諸島の写真の中に襟付きのセーターを着ている男性を見つけ、それを参考にしたと上記の記事内で話しています。そのデザインが一般的だったかどうかはわからないけれど、襟付きだとセーターの下にシャツを着なくて良いので、その方がいいという人もいたのでは、とラジオ出演時におっしゃっていました。

ちなみに、コリンのセーター含め「イニシェリン島」の主要なニットウェアを編んだのは、カウンティー・ウィックロウのグレイストーン(Greystone, Co. Wicklow)にお住まい83歳の現役ニッター、デリラ・バリー(Delila Barry)さん。
コルム役のブレンダン・グリーソンは、映画の中ではセーターを着ていた印象がありませんが、私生活ではニットが大好きで、デリラさんにお願いしてご自分用のお気に入りを編んでもらったそうです!
The Knitwit Of Kindlestown(Greystone Guide)
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コメント

yaichiro Nozawa

Thanks
紹介ありがとう。
あの夜の会話はたしかに盛り上がったね。直子さん、しゃべりたくてうずうずしてる、って感じでした。「女々しい」に大いに共感してくれて嬉しかった。しかし、あんな写真、CLEOでいつ撮ってた?
Bansheeのペチコート逆さかぶりコートの縁取りのクリスはLiz Christyが提供したものだって、Liz本人がそう言ってたよ。
イニシイアの白いVネックアランの写真の後ろに見えるショーン・キーリングの絵の表紙の本は、恩師パドレイグ・オシォコンの著書。だから、多分、その女性は、イニシイアのまとめ役をやっていたブリッドの一家か親族だと思います。
バニティフェアの記事は初めて読んだ。あさって、静岡市でアフタートークをやるので、役立ちました。
http://www.cine-gallery.jp/cinema/2023/event/inisherintounoseirei/inisherin_2022.html

naokoguide

Re: Thanks
Nozawaさん、こちらこそありがとうございます。楽しい夜でしたね~!
さすが、野澤さん。そう、写真のセーターはブリッドがお孫さんのために編んだもので、見せてくださったのはブリッドの娘さんです。
『イニシェリン島…』ですが、登場人物が着ているものや景色をもっと細かく見たい!と思い、YouTubeMovieで購入し、気になるところで動画を止めながらもう一度観ました。Liz Christyさん提供のクリスベルトもじっくり見て、さらにLizさんのHPで見て、これかなあ~、私も一本欲しいな~って買いそうになりました(笑)。
港の場面で皆さんが着ているセーターや女性のカラフルなマントもよ~く見て、あらためて感激。シュボーンのソックスがいかにも手編み、かつ、コートと同じ緋色なのに気が付きました。カラフルで素敵。
この映画、野澤さんと一緒に、あー!あれ、あれ!って言いながら観たら面白いだろうなあ、と夢をふくらませていますが、いちいち止めちゃって、すっごく時間かかりそう(笑)。
静岡のトーク、きっと素晴らしいものとなるでしょう。どなかたに動画を撮ってもらって、あとで私にもこっそり見せて下さい!笑
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naokoguide

アイルランド公認ナショナル・ツアーガイドの山下直子です。2000年よりアイルランド在住。趣味はサーフィン、アイススケート、バラ栽培、ホロスコープ読み、子供の頃からのライフワーク『赤毛のアン』研究。長野県上田市出身。

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