アカデミー賞8部門9ノミネートを達成した、アラン諸島を舞台とした話題昨『
イニシュエリン島の精霊 (The Banshees of Inisherin)』が、本日ついに日本公開となりましたね。
※関連過去ブログ→
100年前のアラン諸島が舞台、『イニシェリン島の精霊』 (2022年11月)、
アイルランド、オスカーノミネート大豊作!コリン・ファレルもポール・メスカルも、キテレツ演技のバリー・キョ―ンも! (2023年1月)
早速観てきました!という友人知人やお客様が次々にご連絡くださり、昨年11月にダブリンの映画館で観て以来、早く誰かと語りたい~!と悶々としていた私の内なる想いが晴れて解き放たれ、スッキリ(笑)。
(アイルランド人の友人たちの間でも多少は話題にのぼりましたが、皆それほどハマっていない様子。背景にあるアイルランドの内戦はアイルランド人には忌まわしい記憶でしかないし、設定もブラックな結末もアイルランド映画としては「あるある」&ベタな感じに映るんでしょうか)
コリン・ファレル演じるポーリックが着ていたアランセーターのことや、作品をより理解するために知っておきたいタイトルの「バンシー(banshees)」(邦題は「精霊」)のこと、そして
以前のブログ でも触れたアイルランドの内戦のことなど、いくつか考察したいことがあるのですが、本日ちょうどアラン諸島イニシュモア島(Inishmor, Aran Islands, Co. Galway)をほぼ毎年訪れておられる
写真家の和田直樹さん とメッセージを交わし、ロケ地のこと、ロバのジェニーのことで盛り上がったので、まずはそれについて、和田さんがご提供くださった写真を交えながら記しておきます。
ロケ地となったイニシュモア島は石灰岩の岩盤の島!2021年夏、まさに映画ロケが始まろうというときに島を訪れた和田さんが、撮影前のセット付近からカメラに納めた一枚(写真:和田直樹さん撮影・提供)
アラン諸島はイニシュモア、イニシュマーン、イニシアの3島で構成されており、物語の原作の舞台はアイルランド本島に最も近いイニシア島。映画ではイニシェリン(当地の発音はイニシュエリン)という架空の島とされたものの、本島から内戦の爆撃音が聞こえることや(ほかの島だったら遠すぎて聞こえない)、本島カウンティー・クレアのリスドゥーンバーナ(Lisdoonvarna, Co. Clare)からミュージシャンが来ていることから、やはりイニシア島を念頭に置いていると思われます。(本島からの船がクレアから直で来るのは今も昔もイニシアだけ)
しかし、撮影はイニシア島では行われず、イニシュモア島と、アラン諸島ではないカウンティー・メイヨーのアキル島(Achill, Co. Mayo)で行われました。
2島の景色を上手にブレンドしているので、一般的には違和感はないと思いますが、観光ガイドの私の眼はごまかせません(笑)。コリン・ファレル演じるポーリックの家は
イニシュモア島の断崖絶壁の名所ドゥーン・エンガス のふもとにあるのに対し、ブレンダン・グリーソン演じるコラムの家は
アキル島のキーム・ビーチ 。
イニシュモア島に建設されたポーリックの家。なんと和田さん、2021年夏に島を訪れた際、撮影開始直前のこの家を目撃したそう!(写真:和田直樹さん撮影・提供)
まさに仕上げの真っ最中。映画でコリン・ファレルが出入りしていたペパーミントグリーンのドアが取り付けられる前ですね。この家は撮影後は取り壊された?と思います。昨年夏に行ったときは見かけなかったので(写真:和田直樹さん撮影・提供)
ちなみに、ケリー・コンドン(シュボーン役)と、バリー・キョ―ン君(ドミニック役)の湖のほとりの名シーンはアキル島です。
昨年夏にアキル島へ行ったとき、友人たちとハイキングしていて迷って偶然に見つけた、あの湖に違いありません。(このブログの写真2枚目→
アキル島の週末② アイルランドいち高い海食崖を目指してクロ―ホン山に登ったつもりが… (2022年8月))
VIDEO そのほか、パブ、港、教会のシーンも景色からアキル島であることがわかります。教会はおそらく、アキル島北部ドゥゴート(Doogort)のセント・トーマス教会でしょう。
比重としてはアキルでの撮影部分の方が多いように思いますが、石灰岩の断崖絶壁、ストーンウォールに囲まれた迷宮のような小径が続くアラン独特の景観のインパクトが強烈で、アキルのシーンをすっかり飲み込んでしまっているかのような印象ですね。
石を積み重ねただけのウォールが延々と連なるイニシュモア島。かつての小作農制度の農地区画の名残りです。行く手に見える古代の砦のある断崖絶壁が、ポーリックとドミニックが岩に腰かけて語らうドゥーン・エンガス(Dún Aonghasa)。ポーリックの家はこのふもとでした
ところで、この作品のもう一人の主役は、なんと言ってもポーリックの相棒、ロバのジェニーでしょう。
うなだれるコリン・ファレルとロバ。シュールな映像の数々が圧巻でした!
マクドナー監督がすっかり惚れ込み起用されたというジェニーは、映画初出演。通常のロバより体が小さいミニチュア・ドンキーですが、ミニチュア・ドンキーとしてもとくに小さい子だったそうです。
VIDEO 撮影開始は2021年9月でしたが、ジェニーの演技指導は同年1月から行われたそう。映画やTVに出演する動物調教の大ベテラン、リタ・モローニ―さんがジェニーの指導に当たったそうです。
リタさんへのインタビュー記事によると、保険の関係でダブル・キャストにする必要があり、別のロバを探すも難航。かなり遅れてはるばるイングランドから現場入りしたもう一頭のロバはジェニーに比べて人慣れしており、自信満々なタイプだったらしい。ノージー・ロージーと名付けられ、ジェニーのお友達兼、代役を務めたそうです。
マクドナー監督の意向により、これ以上、ジェニーを商業的に利用することはしないで欲しい、この映画の撮影が終わったら、どうかジェニーをふつうの女の子、いや、ふつうのロバに戻してあげて!とのことで、この一作を最初で最後にジェニーはリタイア。今はカウンティー・キャヴァン(Co. Cavan)のロバの保護施設で、のんびり余生を送っているそうです。
そう言えば、ゴールデングローブ賞受賞スピーチで、コリン・ファレルも「ジェニー、楽しい引退生活を」といったメッセージを発していましたね。
※参照記事→
Jenny the Donkey's handler: Martin McDonagh 'was besotted by her' (NewsTalk)、
Meet Jenny the Donkey, Banshees of Inisherin Scene-Stealer (Vulture) など
和田さんは、やはり2021年夏のイニシュモア島訪問時に、ジェニーとおぼしきミニチュア・ドンキーを目撃したそう。
この手前の子がジェニーでは?とおっしゃる和田さん。確かによく似てる!笑(写真:和田直樹さん撮影・提供)
和田さんがジェニーなら、私はこの方を島で目撃!出てましたよね、一瞬。物語の中盤あたりだったでしょうか(笑)。
じゃ~ん、この角と髭、まるで賢者のような風格のヤギ!(2018年7月撮影)
ちなみに、ブレンダン・グリーソン演じるコラムの相棒のボーダーコリーは、調教師リタさんの愛犬だそうです。雨降る夜、パブの外でジェニーと仲良く飼い主を待つ姿が印象的でしたが、この2人(2匹)は演技外でもリタさんを介して仲良しだったに違いあるまい!
余談ですが、本年度アカデミー賞には、ロバが出てくる映画がほかにもノミネートされています。アイルランド語映画『The Quiet Girl/An Cailín Ciúin』の対抗馬として国際映画賞部門にノミネートされたポーランド映画『EO』。
アイルランドでも来週公開されるので、観に行くつもりです。最優秀ロバ賞は、ジェニーとその子とどちらの手に?笑
次回はコリン・ファレルが着ていたアランセーターのことを取り上げます♪
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コメント
アイ
NHKBSで、藤原帰一先生が映画紹介の最後に見せた楽しそうな表情が気になり
先週早々に見に行きました。ずーっとハラハラドキドキだったのですが、最後に呆然。帰り道では笑いがこみ上げました。見覚えのある風景で、アラン島もアキル島ももう一度行きたい所です。
私にとっての主人公はドンキーです!
それにしてもこの映画、みんなに勧めたくとも、説明が難しい・・・です。
2023/02/05 URL 編集
naokoguide
わかります、どうやって人に勧めたら良いやら、この映画。これを見た後はソーセージは食べられなくなるから買わないようにね、とか言って、みんなを???にしちゃったりして(笑)。
私も、主人公はジェニーだと思う!ジェニー、この一作でリタイアとは残念ですが、ふつうのロバとして幸せになってね!と願ってます💓
NHKBSの映画紹介、見てみたので探してみます。
2023/02/05 URL 編集
Mkwaju
ロングショットの島の風景になるとスクリーン全体をピンチアウトして拡大できたらと思うことしきり。「ライアンの娘」を50年以上前の公開時に70ミリの大スクリーンで観た世代の私にはとても残念です。昔は簡単にできたことが今はどうしてもできないという典型的な例が映画のスクリーンサイズ。もっとも大スクリーンを前提にしたら、この映画のルックはまったく違ったものになって演出も変えているでしょうが。シネコンのスクリーンサイズという限界でとてもよくやっていると思いました。
2023/02/19 URL 編集
naokoguide
映画を見に行くときに、内容に合わせた支度で出かけるという発想が素敵。
なるほど、映画を見る時にスクリーンサイズを考えたことがなかった(笑)。
「ライアンの娘」公開時にご覧になったときは、感激なさったことでしょう。当時は映画撮影に1年まるまるかけたそうですから、今とは映画制作に対する姿勢も今とはまったく違いましたね。
2023/02/19 URL 編集