そもそも芸能に秀でたお国柄とは言え、この小さな国から14のノミネートとは素晴らしい!
昨日発表された本年度のアカデミー賞候補ですが、アイルランドの作品/俳優/制作陣が目白押し。14のアイルランド作品/アイルランド人がノミネートされるという記録的快挙にメディアは沸き立ち、関係者の喜びの声がSNS等で次々に伝えられています。
以下、アイルランド作品/アイルランド人のノミネート一覧です。
【作品賞】
『イニシェリン島の精霊(The Banshees of Inisherin)』
【監督賞】
マーティン・マクドナー(Martin McDonagh) 『イニシェリン島の精霊』
【主演男優賞】
コリン・ファレル(Colin Farrell) 『イニシェリン島の精霊』
ポール・メスカル(Paul Mescal) 『アフターサン(Aftersun)』
【助演男優賞】
ブレンダン・グリーソン(Brendan Gleeson) 『イニシェリン島の精霊』
バリー・キョーン(Barry Keoghan) 『イニシェリン島の精霊』
【助演女優賞】
ケリー・コンドン(Kerry Condon) 『イニシェリン島の精霊』
【脚本賞】
マーティン・マクドナー 『イニシェリン島の精霊』
【編集賞】
『イニシェリン島の精霊』 ミッケル・E・G・ニルソン(Mikkel E G Nielsen)
【作曲賞】
『イニシェリン島の精霊』 カーター・バーウェル(Carter Burwell)
【国際長編映画賞】
『ザ・クワイエット・ガール(An Cailín Ciúin/The Quiet Girl)』
【短編実写映画賞】
『アン・アイリッシュ・グッバイ(An Irish Goodbye)』
【視覚効果賞】
リチャード・ビネム(Richard Baneham) 『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』
【編集賞】
ジョナサン・レドモンド(Jonathan Redmond) 『エルヴィス』
ご覧のとおり、いよいよ明後日(1月27日)より日本でも公開される『
イニシェリン島の精霊(The Banshees of Inisherin)』 が8部門9ノミネートと、「バンシー」旋風を巻き起こしていますね!
※過去ブログ参照→
100年前のアラン諸島が舞台、『イニシェリン島の精霊』(2022年11月)

鑑賞後は、眉毛がハの字に下がりっ放しのコリン・ファレルと、愛しいジェニー(←ロバ)のことが頭から離れなくなること、間違いなし。そして、とある食べ物は、しばらく食べられくなるでしょう…ひぇ~
この『イニシェリン島…』の快挙に加え、今回のノミネートで注目に値することがいくつかあります。
まず、主演賞・助演賞候補の5人のアイルランド人俳優全員が、初のアカデミー賞ノミネートであること。
大御所ブレンダン・グリーソンも、すでにベテランの域に達したと言えるコリン・ファレルも、これまで一度もノミネートされていなかったとは意外。大作/インディーズ問わず、どうしてもアイルランド映画、アイルランド人俳優出演映画を多く見がちな私には、2人の露出は非常に多く感じますが、国際的には、それもUS市場では(ということは日本市場でも)そこまでではなかったのか?
そして、ブレンダンもコリンもダブリン出身だけど、それ以上に今、ダブリンの下町を熱くわかせているのが、『イニシェリン島…』で完全に目がいっちゃっているようなキテレツな演技をかましてくれた、バリー・キョーン君のノミネートです。
ダブリン・ノースサイドの下町で育ち、12歳で依存症だったお母さんを亡くし、お祖母ちゃんや伯母さんに引き取られるまで13軒もの里親家庭を転々として育ったという、若き苦労人のキョ―ン君。
少年時代は、ダブリン・シティセンターのパーネル・ストリート(Parnel Street)のシネワールド(映画館)にこっそり忍び込み、映画をのぞき見していたと言います。
彼のバックグラウンドを知れば知るほど、大変失礼ながら、あの演技は地だったのか、と思えてなりません。あの目つき、やぶれかぶれ感、呆けたしゃべり方は、ダブリン・ノースサイド「あるある」だから。
こちらの映像クリップは、2018年に人気トークショーに出演したときのキョ―ン君。The Late Late Showは日本で言うところの『徹子の部屋』みたいなもので、ついにここに出演出来たぜ、イェ~イ、天国の母ちゃん、見てるか~、客席のお祖母ちゃんも大喜び~…と、暗さをまったく感じさせないノリがいい。
今回のアカデミー賞ノミネートで、下町の彼の行きつけのパブは祝賀ムードいっぱいらしい。お祖母ちゃんもきっと大喜びでしょうね。
そして、同じく『イニシェリン島…』でコリンのお姉さん役を好演したケリー・コンドンもノミネート。
アイルランド南東部ティペラリー県ターレス(Thurles, Co. Tipperary)出身、舞台劇も含め、マクドナー監督の多くの作品に出演している女優さんです。
アイルランドは男優の国際的活躍は多いけど、女優はシアーシャ・ローナン(Saoirse Ronan)くらいしか名前が挙がってこないので、こうして国際的に名の知れる女優さんが増えるのは嬉しいですね。
次に、ポール・メスカル。実は昨日、行きつけのライトハウス・シネマ(Lighthouse Cinema)で彼のノミネート作品をちょうど観たところでした。

『Aftersun(アフターサン)』(2022)
別居した両親の、お母さん方に育てられているのであろう11歳の少女が、トルコのリゾート地でお父さんと夏休みを過ごす日々をつづった物語。とくに大きな出来事が起こるわけでなく、成長期の少女の姿、外の世界からの何らかの重圧に苦しんでいるのだけれど、それを隠して娘と過ごす父親の姿を、回想やフラッシュバックで心理状態を垣間見せつつ描いた作品。
このお父さん役を演じたのが、パンデミック初期にアイルランドのお茶の間の話題をさらい、一種の社会現象にまでなったTVドラマ『ふつうの人々(Normal People)』のコネルこと、ポール・メスカルです。(私のアイルランド人の友人たちの間では、今でもコネルの口癖、「I suppose...」が流行ってます・笑)
※過去ブログ参照→
スライゴ&ダブリンが舞台のTVドラマ『ノーマル・ピープル(Normal People)』(2020年5月)、
マリアンとコネル、日本上陸!タイトルは「ふつうの人々」(2020年8月)など
映画を観終わり、スマホを見たタイミングで、彼のノミネートを知りました。まるで私が観たからノミネートされたみたいだ!(笑)
キルデア県メイヌース(Maynoon, Co. Kildare)出身の26歳、『ふつうの人々』のコネル同様、地元G.A.A.(アイルランド国技のスポーツ)の花型で、名門トリニティー・カレッジ卒という秀才。
主演男優賞はコリン・ファレルが有望視されていますが、その同じ賞レースに自分が参戦することになるとは、本人がいちばん驚いたのではないでしょうか?インタビューに「This is bananas(どうかしてるぜ)」と答えたとされており、メイヌースのお父さんもお母さんも、家族中大騒ぎだと言いつつも、「オスカーっていったら、ふつう、ダニエル・デイ・ルースとか、ブレンダ・フリッカーだよね?(いずれもアイルランド人の名優)」と、我が子の活躍に嬉し驚き…な反応なのが可笑しかったです。
もうひとつ特筆すべきは、アイルランド語作品が初めてノミネートされたことです。

『An Cailín Ciúin/The Quiet Girl(ザ・クワイエット・ガール)』(2022)
この作品はしばらく前に観ましたが、前評判どおり、エンディングで号泣してしました。
設定は1980年代初頭のアイルランドの田舎。子だくさんで貧しく、ネグレクト気味な両親のもとで育つ9歳の少女カイトは、引きこもり気味な「静かな少女」。母親の出産を機に遠縁の中年夫婦の農場に預けられ、そこで温かく迎えられ、愛情と注意を示されることで心を開いていきます。
作品全体が暗~いトーンなのは、自閉気味なカイトの性質に呼応しているのかと思いきや、物語が進むにつれ、カイトを預かる夫婦にある秘密があることが明らかになっていくのでした。
YouTubeMovieの配信(有料)で見られますので、ご興味のある方はぜひ。アイルランド語部分は英語のサブタイトルが出ます。
そのほか、短編映画『アン・アイリッシュ・グッバイ(An Irish Goodbye)』は北アイルランドの作品で、ダウン症の俳優さんが素晴らしい演技をしているそう。まだ観る機会がないのですが、ぜひ見たい。
そして、『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』で視覚効果賞のリチャード・ビネムさん、『エルヴィス』で編集賞のジョナサン・レドモンドさんもいずれもダブリン出身のアイルランド人です。
こういう嬉しいエンタメ・ニュース、気持ちが盛り上がりますね。
授賞式は日本時間3月14日(月)。オスカーは誰の手に輝くのか、楽しみ!
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