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2つのターナー展、ダブリンのナショナル・ギャラリーにて

ダブリンに戻りました。
予想通りの曇天、ときどき雨&強風(笑)。信州の冬に比べれば寒さは大したことありませんが(こちらの方が断然マイルド!)、何せこの低い空のもと、家でまったりしてしまうと本気で時差ボケてしまうので(!)、スーツケースの荷ほどきもそこそこに活動開始。
楽しみにしていたターナー展を見に、ナショナル・ギャラリー(National Gallery of Ireland, Dublin 2)へ出かけました。

日本でもファンが多い、イギリス・ロマン派の画家J.M.W.ターナー(Joseph Mallord William Turner、1775~1851)。モネに先がけること数十年前に、一瞬の光や空気をとらえる印象派的画風をすでに確立していたとされる天才画家ですね。
今、ダブリンのナショナル・ギャラリーでは2つのターナー展が開催されていて、そのひとつが昨年10月から行われている有料の企画展「The Sun is God」。
ロンドンのテート・ギャラリー所蔵作品からセレクトされた約90点のターナーを一挙に見ることができます
Turner: The Sun is God(~2月6日まで。大人12ユーロ、オンラインで時間予約すると若干安い)

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ギャラリー入口には、ターナーが愛したヴェネツィアの太陽をとらえた作品がど~ん!クレア・ストリート(Clare Street)沿いのミレニアム・ウィング入口にて

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この階段にはいつも、そのときどきの企画展の出展作品が描かれます。フェルメールやジャック.B.イェイツのときに比べるとわかりにくいですが…。ターナーの水彩の一枚、スイスのシュレネン渓谷の「悪魔の橋」を描いたもの

ターナーは以前から好きで、かれこれ20年ほど前、ロンドンでターナーばかりを見て回ったことがあります。10月にこの企画展が始まってからずっと気になっていましたが、10月、11月は仕事に旅行と気忙しかった上、行こうと思うと天気が良くなり、何もこんな日に美術館にこもらなくても…と戸外に行ってしまって延び延びに。
でも、こうして1月来ることになってかえって良かった。とういうのも、今月はダブル・ターナー展で、毎年恒例のもうひとつの展示と合わせて見ることができるからです。

ダブリンのナショナル・ギャラリーはターナーの水彩画を31点所蔵していますが、常に展示されているわけでなく、毎年1月の一ヶ月間のみ公開されます。
もうひとつのターナー展がそれで、「ヘンリー・ヴォーン遺贈展」として館内プリント・ギャラリーで開催中。
Turner: The Henry Vaughan Bequest(~1月31日まで。入場無料)

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ヴェネチアのドゥカーレ宮殿を描いた一枚がポスターに

ヘンリー・ヴォーン(Henry Vaughan、1809–1899)さんとはイギリス人の美術収集家で、1900年、彼が所有するターナーの水彩画がロンドン、エディンバラ、ダブリンの各国立美術館に条件付きで遺贈されました。ロンドンに23点、エディンバラに38点、ダブリンに31点。
その条件とは、無料で、毎年1月に限り公開すること。なぜなら、1月は自然光が弱く、絵に与えるダメージがもっとも少ないから。ダブリンのナショナル・ギャラリーではヴォーンさんの遺言を、1901年の最初の展示から120年以上経った今も守り続けているわけです。
(ちなみにエディンバラのナショナル・ギャラリー・オブ・スコットランドでも、1月のみの公開を続けています)

現在は自然光を遮断し、絵にやさしいLEDライトを使用して展示しているので1月にこだわる必要はないのですが、新春のターナー展は今やダブリン恒例の文化行事。いわば伝統ですね。
思うに、1月のダブリンは天候も悪く気が滅入りがちな上、クリスマス明けで懐も寂しくなるときなので、このような無料のインドア・イベントがあるのは何ともありがたい。毎年楽しみにしているダブリンっ子は、私も含め多いはず。そもそも絵の保護が理由だったとは言え、1月に仕掛けてくれたヴォーンさん、あっぱれです。

さて、この2つのターナー展を、3時間ほどかけてじっくり鑑賞。まずは有料企画展「The Sun is God」を、続いてヴォーンさん遺贈コレクションを。
たまたま居合わせた仲良しの美術館員アンソニーさんに質問しながら、時差ボケも吹っ飛ぶくらいによ~く見ました。最後はクラクラと酸欠気味になり、絵の見過ぎなのか、時差による寝不足のせいかわからなくなったので、時差ボケ対策は大成功だったと言えましょう。(笑)

以下は私の覚え書き含む、感想などつれづれ。

ターナーと言えば、荒れ狂う海を漂う帆船…みたいな絵を真っ先に思い浮かべていましたが、今回の企画展ではそのモチーフは少なく、色使いが全体的に黄色、オレンジ、ゴールド。
まさに企画展のタイトル、「The Sun is God(太陽は神だ)」に沿ったセレクトなわけですが、これはターナー自身が死の1週間前に口にした言葉なのだそう。太陽のキラキラした光をとらえて、キャンバスに再現することに生涯をかけた画家だったんですね。
以前に何かで読んだのですが、ターナーは絵にグリーンを使うのが好きではなかったとか。木を描かなくていいのならどんなにいいだろう、と言っていたそうですが、確かに彼の絵の中の木はグリーンというより黒っぽい。でも、木の葉って一枚一枚はグリーンでも、密集したところに光が当たると黒っぽく見えませんか。
光を色にするってそういうことで、既成概念を打ち破るようなチャレンジを生涯し続けていたんでしょうね、ターナーは。天才は才能だけで出来上がるものではなく、やはり、こだわり&しつこさの賜物なのでした。

ところで、テートのターナーは以前にほぼ全て見ているはずなのに、今回の展示の中で記憶にあったのは、有名な雪崩の絵くらい。カルタゴ建国神話を題材にしたものは見覚えがありましたが、そのほかにもギリシャ神話をモチーフとしたものがこんなに多くあったことにも驚かされました。
そして、産業革命の時代を生きた画家らしく、煙突の煙や汽車のスピードを描くことにもこだわり、自然の情景に効果的に描き込んでいたことに、今回初めて気が付きました。

イタリアやスイスなどヨーロッパを精力的に旅したターナーですが、ヴェネツィアと、スイスのルツェルン湖から眺めるリギ山にとくに魅了されていたようですね。
ヴェネツィアを題材した絵がとにかく多く、説明によると、1819年に初めて訪れその光に魅了され、5日間の滞在で160ページものスケッチをしたそう。その後1840年代までに滞在した期間はトータルして4週間弱であったにも関わらず、毎年2作の完成作品をロイヤル・アカデミーに出展し続けたと言いますから、本気でヴェネツィアLOVEだったんですね。
300冊現存するというターナーのスケッチブックのうち3冊が展示されていましたが、そのサイズが小さいことにびっくり。旅に持参するにはその方が便利だったのでしょうが、手帳やメモ帳サイズのものに鉛筆でざっくり描いてあるだけなのです。
写真もなかった時代、このスケッチを頼りに描き起こしていたとはすごいですね。

続けて見た「ヘンリー・ヴォーン遺贈展」ですが、今年は31点の水彩画のほか、5点の水彩画と8点の銅版画(エッチング)も展示されていました。追加作品はいずれも企画展に関連したもので、同じテーマの作品が企画展に出ています、とか、銅版画はオリジナル絵画が企画展にあります、などと書き添えられているのですが、あまりにたくさん見たあとでもう頭がごちゃごちゃ。そんな絵あったかなあ状態に。
出来れば、企画展の方に並べて展示して欲しかったかも。

絵もさることながら、圧巻はなんと言っても、遺贈展の展示室真ん中にディスプレイされた「ターナー・キャビネット」でしょう。ヴォーンさんにより特注された絵画保管用の専用ダンスで、31点の水彩画は、1900年、このタンスにしまわれてダブリンにやって来ました。
絵を立てた状態で一枚一枚しまい込むことができ、それをスライドさせて出し入れできるようになっています。エディンバラへも同様のタンスで送られたとようですが、そちらは現存しておらず、今ではダブリンにのみ残る貴重品とのこと。
それが120年前から変わらず、今も使用され続けているというのがスゴイ。31点の水彩画は、1月の展示期間が終わると同時にこのダンスにしまわれ、次の1月までまた倉庫に戻されるそうです。

久しぶりの美術鑑賞に心躍り、長々と書いてしまいました。
平日にも関わらず美術館は結構なにぎわいでしたが、カフェでランチしたり、社交しているだけの人も多く(笑)、有料企画展はオンラインでの事前予約なしでもすぐに入れました。
帰宅してメモを見返していたら、あら、これ見たっけ?と記憶が飛んでいるものもあり、やはり一度では消化できなかった。もう一度行って確かめなければ…と思っているところです。
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コメント

Yuko

おかえりなさい
おかえりなさい、直子さん!!

私も年末年始に日本に一時帰国をしました。
沢山のお土産を購入したため、機内持ち込み可能なスーツケースを1個買うことを余儀なくされました(笑)
そもそも旅行慣れしていないので、余計な荷物(予備)を運んでしまうこともあり、次回の旅行は最小限にしようと思いました。

そして初めての時差ボケを経験しました。というのは、帰りのフライトが、日本出発前にキャンセルになり、航空会社が代替えのフライトを取ってくれたのですが、乗り継ぎが13時間もありました。スキポール空港は面白そうな空港だから散策でもしよう、と。しかしながら到着したのは夜。到着時間は知ってはいたものの、もちろんお店は閉まります。一部のカフェは24時間営業ですが、ずっと居座るのも気が引け、最終的にどの椅子が座り心地が良くて体を横にできるかを考え、座り心地を確かめては移動、を繰り返していました(笑)。これでは眠れませんね。
ダブリン到着後、土産話とお土産配り、荷解で忙しく、翌日は仕事があったため通常通り、時差ボケは無し、と思っていたのですが、その翌日から2日間と半日、ベッドの中で眠りっぱなしでした(笑)
ビギナーあるある、な旅行話でした(笑)

長々と個人的な、しょーもない話にお付き合い下さり、有り難うございます。
2回目のブースターも打ち終わりましたが、コロナ、インフルなどに気をつけて過ごしていきたいと思います!

それでは、また!!

naokoguide

Re: おかえりなさい
Yukoさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
Yukoさんもおかえりなさい!この年末年始は3年ぶりに制限なしで日本へ帰れるお正月…ということで、一時帰国を果たした方が多かったようですね。
フライトのキャンセル、大変でしたね。レイオーバーが長いと疲れますよね。13時間…って言われたら、せっかく振り替えてもらっても拒否するかも(笑)。
ゆっくり休まれて良かったです。時差ボケによる寝不足は、身体が酸欠状態みたいになるので、単なる寝不足よりキツイですから…。
お互い元気に、アイルランドの冬を乗り切りましょう!

Mkwaju

好きな美術館です
ナショナル・ギャラリー、とても好きな美術館です。ナッソーストリートを歩いていて少し時間に余裕があればフラフラと魅入られたように入ってしまいます。1992年以来7回は訪れているでしょうか。ここでJack Butler Yeatsのかなりの数の展示を観ることができたのは幸運でした。あまり広すぎず作品点数も多すぎないことが幸いして、お目当ての絵画以外もじゅうぶん目配りできるのがうれしいです。

ダブリンではトリニティ・カレッジのThe Douglas Hyde Galleryにも必ず足を運びます。1992年に観たセバスチャン・サルガドの写真展は展示構成と作品数、会場のバランスがとてもよく、その後の東京都写真美術館やBunkamuraでの作品数の多い展示よりも強い印象が残っています。2004年の須田悦弘さんと小金沢健人さんの展示もそれは素敵なものでした。

naokoguide

Re: 好きな美術館です
Mkwajuさん、こんにちは。
そうなんです、街へ行ったついでにふらっと立ち寄って、今日はこの絵を見よう〜といったふうに気軽に見られるのがいいですよね。まさに市民のギャラリー、市民の憩いの場として存在している美術館。
ダグラスハイドギャラリーは長いこと入ってないので、Mkwaju さんのコメントを見て久しぶりに行きたくなりました😊
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naokoguide

アイルランド公認ナショナル・ツアーガイド。長野県上田市出身、2000年よりアイルランド在住。趣味はサーフィン、アイススケート、バラ栽培、ホロスコープ読み、子供の頃からのライフワーク『赤毛のアン』研究。

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