先日、
絵本に出てくるみたいなキノコを見つけたのは、ゴールウェイからさらに1時間半ほど西へドライブしてやっとたどり着く、カイルモア・アビー(
Kylemore Abbey, Connemara, Co. Galway)。
「コネマラの宝石」と称される19世紀の大邸宅で、人気の観光名所なのですが、なぜかここ数年ご案内のチャンスがなく、久しぶりの訪問。懐かしかったと同時に、あらためてその美しさに魅せられました。

荒涼としたコネマラの景色の中にたたずむ、ビクトリア時代の大邸宅
アビー(修道院)と呼ばれる通り、現在はベネディクト派の修道院の敷地ですが、もとは1868年にミッチェル・ヘンリー(Michelll Henry, 1826–1910)さんという英国マンチェスター出身の大富豪によりお屋敷として建設されました。
現在の北アイルランド、カウンティー・ダウン(Co. Down)出身のマーガレットさんという女性と結婚したヘンリーさん。ハネムーンで2人が訪れた思い出の場所がコネマラだったそう。
建設には4年を費やし、100人以上の地元の人たちが雇われました。完成後も屋敷の維持のため地元の人たちを雇用し続け、自前の消防団が常駐していたのは有名な話。ジャガイモ大飢饉で大きな痛手を被り、ますます貧しい暮らしを強いられていたコネマラの人々にとって、大量の雇用を生み出し人々の暮らしを助けたヘンリーさんは「全能の神に近い存在」とあがめられたそうです。

70を超える部屋があるという屋敷内の一部が公開。書斎では、ヘンリーさんご夫妻が屋敷のヒストリーを語ってくれます

ヘンリー家の紋章入り食器が使用されたダイニングも再現

当時のレシピ本。野ウサギの調理法が生々しい…

女性たちがくつろいだ居間。お針道具やお茶の道具が素敵

マーガレットさんの肖像。ヘンリー夫妻は9人のお子さんに恵まれ幸せに暮らしていましたが、マーガレットさんがエジプト旅行中に赤痢にかかり、45歳で死去。カイルモアの完成から7年後のことでした…
私がカイルモア・アビーを初めて訪れたのは1998年。屋敷内の展示のレイアウトや内容はだいぶ変わりましたが、このマーガレットさんの肖像は24年前から変わらず同じ場所にあります。
あらためて見ると、彼女も
先日ブログでお話したブラック・アイリッシュですね!
マーガレットさんの死後、ヘンリー家はカイルモアで過ごすことが少なくなり、1903年に売却。新たな持ち主となったマンチェスター公爵夫妻は、ヘンリー家がこよなく愛した調度品やステンドグラスを取り去るなどし、地元の人たちからあまり好かれなかったようです。
この夫妻がギャンブルで資産を失い屋敷を離れると、1920 年、第一次世界大戦でベルギーのイーペルからイギリスに避難していたベネディクト派の修道女たちが新たにこの地を購入し、カトリックの子女を教育するためのインターナショナル・スクールを開校しました。2010年に閉鎖されるまで、ここには寄宿制の女子校があり、かつては制服姿の女生徒さんたちに行き合うこともあったものです。

屋敷の見学後、湖沿いを歩いてチャペルへ。巨木が多くありますが、中でも目を引くのは、枝が伸びすぎて湖面についてしまっているモントレー松(Montrey Pine)

マーガレットさんの死後、ミッチェル・ヘンリーさんが亡き妻の思い出に建設したチャペルは、ネオゴシック様式のミニチュア大聖堂

内部にはアイルランドの国花シャムロックの彫刻や、アイルランド各地の石の柱が。緑はコネマラ、黒はキルケニー、赤はコーク産
かれこれ8年も前のことになりますが、このチャペルで黒坂黒太郎さんのコカリナ・コンサートをしたことがありました。高校も大学も同窓という、ご縁の深い黒坂さん。懐かしい思い出です。
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上田高校同窓生 コネマラに集う(2014年11月)
チャペルの先にはヘンリーさんご夫妻が眠る霊廟がありますが、この日はそこへは行かず、代わりに屋敷の近くから出ているシャトルバスに乗ってビクトリア式ガーデンへ行きました。
屋敷の建設と同時期に造園された、菜園、果樹園、温室などを備えた大庭園。当時は21の暖房付き温室が稼働しており、40人の庭師が雇われていたそう。アイルランドにおけるビクトリア朝最後のウォールド・ガーデンのひとつで、当時はロンドンのキュー・ガーデンに並ぶ最新モダンな庭園でした。
修道院所有となってからも、自給自足で暮らす修道女たちがここで野菜を育てるなどして使用され続けていたそう。

2000年、5か年にわたる修復・整備を終え、1901年以前の植物を再現したヘリテージ・ガーデンとして一般公開されました。コネマラの山を借景にしたフラワー・ガーデンは、花の多い夏の時期だったらもっと美しかったことでしょう

暖房付き温室の基壇部分。バナナ、メロンなど当時のアイルランド・英国では手に入りにくかったトロピカル・フルーツをここで育て、ヘンリー家の英国の本宅にも運んでいたそう
こんな荒涼としたワイルドな景色の中に、このような見事な屋敷があったとは…!と、ご案内したお客様も驚かれた様子でした。
秋の薄日の中、ロマンチックなお屋敷と森林浴を楽しみ、アイルランド西海岸の景色の中でもとくに印象的だったようです。
この日は立ち寄りませんでしたが、カフェやショップも充実していて、カイルモア・アビー・ブランドのジャムやバター、チョコレートもあり。オンラインショップでのぞけます→
Kylemore Abbey Online Shopちなみにこの辺りは西洋シャクナゲの一大生息地で、5月下旬~6月頃に来ると、ピンク色の大輪の花が見事に咲き誇ります。
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野生のシャクナゲ、八分咲きから満開(コネマラ地方)(2014年6月)
そんな頃にまた再訪したいものです。

ガーデンからのシャトルバスを待つ間に、コネマラ原産の馬、コネマラ・ポニーにも会えました
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