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ハイジの泉、そして「山が燃えてる!」(ハイジの舞台を訪ねて③)

アルムの山に来ています!(ハイジの舞台を訪ねて①)
ハイジの村とアルムの山小屋、そしてシュピリの・散歩道へ(ハイジの舞台を訪ねて②)…の続き。

小学生のときに初めて自分のお小遣いで買った文庫本は、『ハイジの国から』(草鹿宏・著、中島正晃・写真、集英社文庫)という写真本でした。
優しい文章が添えられた美しいスイスの景色や笑顔いっぱいの人々の写真は、私の「ハイジの国」への想いを大いにかき立ててくれました。写真家の中島さんはグリンデルワルト在住で、ホテル・べラリーという宿を経営していると書かれていたので、いつかグリンデルワルトへ行ったらそこに泊まってみたい!と思ったものです。
(いまだ実現していませんが、近い将来、きっと!)

小学校の自由研究で机上旅行をした時の行き先がスイスだったのも、中学生になってラジオのドイツ語講座を聞き始めたのも、『ハイジ』の影響はもちろん、その写真本を食い入るように見ていたことも大きかったでことしょう。海外の風景が今のように簡単に見られる時代ではありませんでしたから、子どもがお小遣いで買える値段の写真本があったなんて、とても貴重だったと思います。
その中に『ハイジ』の舞台マイエンフェルトの写真もあり、「ハイジの泉」が写真とともに紹介されていました。確か、子どもたちが楽し気に泉によじのぼっている写真だったような気がします。
当時はまだ「ハイジ村」(1997年オープン)などなかった時代。ハイジ関連の唯一のモニュメントがその泉だったのでしょう。
いつかスイスへ行き、マイエンフェルトに行ったら必ずここを訪ねよう!と思い続けて40年、ついにその日がやって来ました。

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宿泊していたハイジホフより「ハイジの道(Hiediweg)」に沿って歩くこと約20分。素敵な森を抜けて行きました

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見つけた、公園の脇に!40年前に中島さんの写真で見たとおり、岩によじのぼるお転婆なハイジ、そして隣りにヤギのユキちゃん

この泉は1953年、地元の子どもたちの寄付によってつくられたそうです。観光誘致を目的に設置したのでなく、地元の人たちが『ハイジ』と作者ヨハンナ・シュピリを記念するモニュメントをこの地に...と望んでいたことがうかがわれます。
今やマイエンフェルトのハイジ関連の名所といったら「ハイジ村」がいちばん人気で、この泉を訪れる人は少ないのかもしれませんが、私にとっては子どもの頃から憧れ続けた「ハイジの聖地巡礼」の重要なステーションのひとつ。
つくられて70年近く経ち、どんな様子になっていることやら…とちょっぴり心配でしたが、きれいに維持されていて、地元の人たちに大切にされているようで嬉しかったです。

ここで私がしたかったことは、泉の水の「ハイジ飲み」。ハイジがマイエンフェルトに初めて来たとき、蛇口の下で口をあけて直飲みしてましたよね、町の大きな泉で。さすがに町でそれをする勇気はなかったので、ここでさせてもらいました(笑)。
ちなみにスイスでは、駅のホームや町中で公共の泉(噴水)を頻繁に見かけますが、いずれもドリンキング・ウォーターなのだそう。(飲んではいけません、と書かれていない限りは)
私もここへ来てからずっと、通りがかりの泉でペットボトルに汲み足しています。冷たくてとてもおいしい。

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野山や小道ばかり歩いていて、マイエンフェルトの町は到着時に歩き抜けただけだったことに気が付き、もう一度散策。写真中央のカフェでランチ休憩

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マイエンフェルト滞在中に食べた中でいちばんおいしかったのがコレ、ワインのスープ。土地の白ワインがたっぷり入っているそうです。おそらくバターもたっぷり、濃厚なお味でした!

スイスに来てからというもの、初日の夜に少し雨が降っただけで、その後は連日素晴らしいお天気に恵まれています。日中25~30度近くまで気温が上がり、暑がりの私には暑すぎるくらい。
「アルムの山」に来たら、ハイジが見たような夕日に染まる山を見たいとずっと思っていました。はじめてペーターと山の牧場へ行った日、「山が燃えてるわ!」とハイジが歓喜した光景。
空ではなく、山が染まるのです。はじめは火事のように燃えて、それからバラ色になるんですよね。

ハイジホフの私の部屋から朝日も夕日も見えたのですが、ハイジが「燃えてる」と言ったフェルクニス山やケサプラナ山(原作に実名で出ている山々)はちょっと見えにくいので、山での滞在の最終日、夕暮れ時に近くの丘へ行きました。

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午後6時26分。あ、フェルクニス山やケサプラナ山が本当にバラ色になってきた!

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午後6時43分。太陽が深く沈むにつれ、空にバラ色が散り始めました

おそらく夏には太陽の沈む位置がもっと「アルムの山」(フェルクニス山&ケサプラナ山)寄りになるので、ハイジが言うような「燃えてる!」赤さになるのでしょうね。
シュピリはその光景を何度も目にしたのでしょう。物語に書かれているとおり、本当にフェルクニス山とケサプラナ山に夕暮れの光が当たることが分かり、感激しました。

この丘で夕暮れ時を過ごす間ずっと、カウベルの音が鳴り響いていました。実はカウベルの音は、山では朝から晩までずっと聞こえていました。翌日からこれが聞こえなくなってしまうと思うと寂しくて…。思わず動画を撮りました。(午後6時45分)



こうして「アルムの山」で夕暮れ時を過ごすことができて感無量。おじいさんがハイジに言った、「太陽は山におやすみを言うために、最高の光を投げかけているんだよ」という言葉や、ハイジがフランクフルトから懐かしい山に帰って来たときもやはり夕暮れ時だったなあ、なんてことを思い出して胸がいっぱいになり、目頭が熱くなりました。

今回ここへ来るにあたり、『アルプスの少女ハイジ』を松永美穂さん(角川文庫)、遠山明子さん(光文社古典新訳文庫)それぞれの新訳で読み返しました。アニメのハイジもYouTubeにときどきあがってくるものを見たりして。
『ハイジ』のいちばんの魅力は、明るく元気なハイジ自身のキャラクターと、開放的な山の暮らし。ふかふかの干し草のベッドやトロリとろけるチーズ、山のお花畑やかわいい動物たち…と楽しいことをイメージする人が多いことと思います。私も子どもの頃はそうでした。
ところが大人になってあらためてアニメを見たり、原作を読み返してみると、胸が苦しくなるような悲しいシーンも多いことに気づかされます。とくにハイジがフランクフルトのお屋敷でアルムの山を恋しがり、その気持ちを口に出すことも出来ずに次第に心を病んでいくシーンは、涙なしには読み進めることができません…。
ハイジがどうして「山へ帰りたい」と言えなかったのか、その理由がまた悲しくいじらしくて。自分に良くしてくれるゼーゼマンさんやクララに迷惑をかけてはいけないと思って、想いを押し殺していたんですね。

もうひとつ、自分がハイジの年齢を通りこし、ハイジを取り巻く大人の年齢に近づいてきてわかったことは、これはハイジの成長物語というより、ハイジによって変わっていく周囲の人々の物語でもあったということ。
確か、NHKの「100分de名著」で、訳者の松永美穂さんが同じようなことをおっしゃっていたと思います。心に傷を負った人々が再生していく物語…といったような表現だったでしょうか。
ハイジと暮らすことで周囲に心を開いていくおじいさん、生きる希望を見出すペーターのおばあさん、ハイジがきっかけで家族の死から立ち直っていくお医者さま。クララも足が治ったというのは表面上のことで、心の問題だったようにも読めます。
(その点は『赤毛のアン』で、マシューとマリラがアンにより愛情に目覚めていくのと似ていますね)

子どもの頃からずっと来たいと思っていたこの場所に、どうしてこれまで来なかったのか。来ようと思えばダブリンからすぐに来れる距離だったのに…と、自分でも不思議に思っていましたが、夕暮れ時の「アルムの山」を眺めながら、ああ、今この年齢になって来たのは正解だったなあ、と思いました。私自身が成長してより深く感動できるようになるまで、時を待っていたんだな、と。

「アルムの山」での最後の晩は星もきれいでした。カウベルの音を聞きながら眠りつき、夜明け前に目覚めると、窓の外にひときわ輝く星がまたたいていたので思わず外に出ました。
それはシリウスで、隣りにオリオン座、その上に青白い半月が輝き、その隣りには赤い火星が瞬いていました。
モミの木が風にざわめく音も心地よく、ああ、気分はすっかりアルプスの少女。「おしえて~、アルムのモミの木よ~♪」(笑)。

こんなにもハイジの世界にひたりきってしまったので、山を降りるときは本当に悲しかったです。アルムを離れるハイジの気持ちが完全に乗り移ってしまったようで...。
再び背中に10キロのリュックを背負って山を降り、何度も何度も振り返っては、3日間お世話になったハイジホフと山々を見納め。するとどこからともなく黒い大きな蝶がやって来て、村へ降りる私の周りをしばらくヒラヒラ舞い続けました。そう、ハイジは黒い巻き毛で黒い瞳。もしかしてあの蝶はハイジの化身だったのかも。
だとしたら、ハイジ、見送ってくれてダンケシェーン♪

次の目的地はクララのおばあさんが、そして作者ヨハンナ・シュピリも滞在したバート・ラガーツです。

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ハイジホフで毎朝いただいたコーヒー。またいつか、このハイジのカップでコーヒーを飲みに来たい!

【追記】この旅の記録の続き
クララのおばあさまが滞在したラガーツ温泉にて(ハイジの舞台を訪ねて④)
ヨハンナ・シュピリの生まれ故郷ヒルツェルへ(ハイジの舞台を訪ねて⑤)
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コメント

アンナム

この旅のレポートはあなたの物語のようだと思って読んでいます。
今回は特にこの本の真の意味に気づいて
今ここに来たのは「時が待っていてくれた」というくだりには感動しました。
時間には量的時間と質的時間の二つの側面があり、それは時計によって示される
物理的時間と人生の様々な段階で何かをつかみ取るという質的時間のことをいうようです。まさに今あなたは何かをつかみ取ったのですね。それもつかむぞ、つかむぞといって
できるものではないので、何か大きな力が働いたのでしょうか。
よく「〇〇するに時あり」と言いますが「学ぶに時あり」ですね。

naokoguide

アンナムさんへ
アンナムさん、こんにちは。
読んで下さり、嬉しいコメントを下さりありがとうございます。
質的時間、いいですね。時間の流れが速く感じる時とゆっくり感じる時、として同じ24時間なのにとてもたくさんのことが出来る日とそうでない日があるのは、その質的時間が関係しているのでしょうかね。
つかみ取っている時と、そうではない時の違い?
パンデミックでそれまでの時間の流れが止まり、ひと呼吸おいたことで、いろいろなことに気づいたり、分かるようになった気がします。
学ぶに時アリ、いい言葉。最近まさに身をもって感じています。
非公開コメント

naokoguide

アイルランド公認ナショナル・ツアーガイド。長野県上田市出身、2000年よりアイルランド在住。趣味はサーフィン、アイススケート、バラ栽培、ホロスコープ読み、子供の頃からのライフワーク『赤毛のアン』研究。

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