昨日夕方、友人と会うために街へ向かうルアス(路面電車)に乗っていたところ、周囲から「あ、クィーンが…」との声がもれ聞こえ、エリザベス女王崩御のニュースを知りました。
チャールズ皇太子夫妻(今や新国王夫妻)やウィリアム王子らが急きょスコットランド入りしたことが報じられていたので、おそらく危篤なのだろうとは思っていましたが、ほんの2日前にリズ・トラス新首相と面会され、タータンチェックのスカートを履いた女王のお変わりないご様子の写真が公開された矢先でしたので、驚きました。
享年96歳。旅立つ直前までご公務を続けておられたんですね。
70年にわたり英国を統治した、英国史上最長の君主。72年間フランス国王の座に君臨したルイ14世に次いで、世界史上2番に長い在位期間だそう。
私たちの暮らしからは遠いところの方ですが、私が生まれた時からずっと英国君主と言えばこの方でしたから、そういう意味では身近だったとも言える方。「象徴」として当たり前のように存在する人もこうして逝ってしまう時が来るんだなあ、といった気持ちは、生まれた時からずっと天皇だった昭和天皇が崩御されたときに感じたのと似ています。(←私が高校生のとき!)
アイルランドでも昨晩はニュースの時間枠を延長して隣国君主の悲報を報じ、ミホール・マーティン首相はガバメント・ビルディング前で追悼スピーチを、マイケル・D・ヒギンズ大統領はメッセージを発表、女王との思い出を語りました。
エリザベス女王と言えば思い出されるのは、2011年のアイルランド訪問時のさまざまなエピソード。アイルランド独立後初となる、それこそ100年ぶりの英国君主の訪問は、両国の政治的軋轢の払拭と友好関係を再確認する上で意義深いものでした。
女王は4日間にわたりダブリン、キルデア、キャシェル、コークを訪れ、滞在中ずっとダブリン市街地の上空を警備のヘリコプターが旋回していたことや、街の通りが突然に人払い・車払い状態となり、警備員だけが等間隔に立ち並ぶ道路を黒塗りの車列が通り抜けて行ったことなどが思い出されます。
ある日、グループツアーのお客様をお連れして市内を歩いていたときにそれが起こり、目の前を女王を乗せた車が通り過ぎていきました。私は見えなかったのですが、お客様の中には窓越しにしっかり女王のお顔を拝見した方もおられ、大喜びされていたことを思い出します。
昨晩のニュースに出演した駐アイルランド英国大使の話では、4日間の訪問を終えコークからご帰国される女王が「アイルランド訪問は悲願であり、生きているうちに必ず果たしたいことだった」とおっしゃられたそうです。
当地のニュースでも女王の訪問時の名場面映像をさかんに流して追悼していますが、こちらはダブリン城で行われた晩餐会での、多くの人の心に触れた女王の名スピーチ。北アイルランド紛争の傷を癒し、友好関係を強めて将来につなげていきましょう、といったことを、具体的かつ明確に述べておられます。女王の右に当時の大統領メアリー・マッカリースさん、左には当時の首相エンダ・ケニーさん。冒頭のアイルランド語での女王のご挨拶がチャーミングです。
これから英国はクイーンからキングの国なるので、書面や名称の「Her Majesty」はすべて「His Majesty」に直されるそう。国歌も「God Save The Queen」から「God Save The King」に。「クィーンズ・イングリッシュ(Queen's English)」も、これからは「キングズ・イングリッシュ(King's English)」と言わねばなりませんね!
女王の肖像入りの英国ポンド紙幣も、約2年かけてチャールズ新国王の肖像に変わるのだとか。
それにしても今年2022年というのは、時代の転換を感じさせる出来事が次々に起こりますね...。
ロシアのウクライナ侵攻に始まり、ゴルバチョフ元大統領の死去、そしてエリザベス女王の崩御。ポスト・パンデミックに向かって社会が痛みやひずみを経験している最中でもあり、なかなかタフな年と言わざるを得ませんが、これが良い方向に転換していくことを願うばかりです。

我が家の軒先では秋バラ(3番花)がさかり。どれもイングリッシュ・ローズで、こちらは「セプタードアイル(Scepter’d Isle)」という名。シェークスピアの悲劇『リチャード二世』で、イングランドを意味して語られるフレーズです→
バラの花でちょっぴり英文学…セプタードアイル(2013年6月)
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コメント
WADA
今夜は中秋の明月。東京では満月が輝いています。
エリザベス女王が崩御されたことは日本でもここ数日のNEWSの中心です。
さて、2011年の女王のアイルランドでのスピーチですが素晴らしいですね。
両国間の歴史的事実に正面から向き合って、さらに未来に向かっての指針を述べられていますね。
政治的な発言を極力控えることに努めている日本の皇室との、英国王室の違いを感じました。
直子さんが書かれているように、今年は歴史の大きな転換点なのかもしれませんね。
2022/09/10 URL 編集
naokoguide
あのスピーチは政治的な内容がとくに具体的に話されていますよね。あのように話すことで、女王が自国民だけでなく、隣国の人々の気持ちにも配慮していることが理解されたと思います。
女王の追悼映像などを見ると、英王室の人が一般の人の前にお出ましになる時、直接握手をするなど昔に比べて人々との距離がとても近くなりましたよね。ダイアナ妃がしたときはまだまだ異例でしたが、今ではすっかりそれが普通に。
満月きれいでしたね。ダブリンも良いお天気できれいなお月様を見ることができました!
2022/09/12 URL 編集