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「血は水より濃い」、福井県のご先祖の村へ

先日再読したモンゴメリ作『エミリーはのぼる(Emily Climbs)』(村岡花子訳・新潮文庫、第21章)に、「血はいかなるときにも水よりも濃い(Blood is always thicker than water)」という、古くからの諺を引用した一文がありました。
しきたりを重んじる厳格な伯母に育てられる少女エミリーは、旧家マレー家の一員として周囲の人々から一目置かれるも、時に妬まれたり、気位ばかりが高いと揶揄されたりすることも。マレー家の誇り、マレー家の威厳、マレー家のやり方、マレー家らしい態度、マレー家風の目つき(!)…といったことが一族の間では重要で、「マレー家の者ならこんなことはしない」という価値観にしばられて育ちます。
感じやすく、自立心旺盛なエミリーは、それを理不尽に思い反発するも、心の底では旧家の血を引くことを誇りに感じている部分もあり、物語を読み進めながら、ああ、わかる、私も同じだった!と共感しきりでした。私も、旧家の伝統を受け継ぐ一族の中で育ったから。

私は信州育ちですが、父は九州天草、母は福井県の出身で、信州に移住していた母方の親族に囲まれて育ちました。エミリーになぞらえて言うならば、父方は(自由な)スター家、母方は(気位の高い)マレー家、といったところでしょうか。
エミリーの母方には個性的な伯父伯母がたくさんいますが、私も同じで、21人いる母方のいとこの最年少として、いくら水で薄めても決して薄まることのない濃~い血縁関係の中で育ちました。
子供にとってはにぎやかで楽しいことの方が多く、いちばん小さかった私はエミリーほど厳しく干渉されることはありませんでしたが、それでもやはり「○○家の者はこうあるべき」というナゾの価値観があって、それを窮屈に思うことも多かったものです。
でも、一族の顔をつぶすようなことはしてはならない、というこれまたナゾの自負も同時に持ち合わせていて、今振り返ると、それが自我が強すぎるくらいだった私を律し、健全な自尊心を育む手助けをしてくれたようにも思うのです。

そんな母方の一族は、信州に来て何十年も経っているにもかかわらず、今も日常会話は福井弁。母たちの故郷での思い出話を繰り返し聞いて育ちましたので、エミリーの物語で語られる先祖のエピソードには、どこそこ親近感を覚えずにはいられません。カナダのプリンス・エドワード島を福井県に重ね合わせるのもどうかと思いつつ…(笑)。
その福井の先祖の村へ母たちがお墓参りに行くと言うので、ちょうど帰国中だった私も仲間に入れてもらい、思いがけず福井へ行ってきました。

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長野県から新潟、富山、石川を越えて福井県へ。道中、山桜がきれいな早春の山あり、雪山あり、日本海あり(写真の海は新潟県)、チューリップ畑あり…と北陸の景色を満喫。金沢付近では、いとこたち行きつけのお寿司屋さんで海の幸を満喫

私が母たちが生まれ育った村を訪れるのは、それこそ数十年ぶり。町から離れた田舎道のどんずまりにあり、今ではすっかり過疎化した人口数十名の寒村で、昔話に出て来る大蛇が今でもいそうな村。
昔はここで洗濯をしたという川沿いに、古くからの集落が連なっていました。

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谷間の寒村ですが、母たちの思い出話に彩られているからでしょう、私にはちょっとメルヘンな村に見えました(笑)。村の周辺は「ウチの山」ばかりらしい

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ご先祖のお墓はカエルが守ってくれていました!(「墓」の字の右払いのところに…🐸)

母たちは、村にあるほぼすべての民家を把握しており(しかも屋号+ファーストネームで呼んでいる)、あの人は今どうなったとか、どこにいるとか、村を離れて半世紀以上経っているのに何でも知っている(笑)。
ゆっくり車で走ると、この川で蛍を見たのう、××小学校の分校はここだったかのう、あの松林を通るのがおとろしかったのう、ここを上がったところに古いお墓があったげのう(←福井弁)…と、母や年長のいとこの記憶の箱が開き、思い出話が炸裂。
今はよその人が住んでいますが、母たちが生まれた家もそのままに残されていました。いたずらをして閉じ込められたという土蔵は取り壊され、代わりにプレハブが建っていましたが。

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こちらは村の神社で、母たちが夏休みにラジオ体操に来たり、子ども会の反省会をしたという場所。話に聞いていたのはここだったのか、と私も懐かしいような気持ちになりました。お堂の前の2頭の狛犬さんは、一族の長であった亡き伯父が寄贈したもの

この神社は石段を登ったところにあり、80歳を越えた母にはきついかなと思いましたが、懐かしさパワーが充電された母の足取りは軽く、その表情はすっかり少女に戻っていました。
私も歳を重ねておぼろげながら分かってきましたが、良き思い出は人を若返らせ、元気にする力がありますよね。

村の奥に大きな滝があるというので、見に行きました。滝までは100メートルほどの登り坂でしたが、ここでも母は、もう来られんかもしれんから…とつぶやきながら、坂を登り切ったのでした。

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市野々不動滝、高さ62メートル。ここからさらに上へ登っていくと、ほかにも幾つも滝があるそう

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滝の周辺は一面、ニリンソウのじゅうたん!

狛犬を神社に寄贈した伯父が、一族の7代目だそう。私のマレー家の血はこの村から脈々と紡がれてきたのか、と思うと感慨深いものがあります。
流れる滝を見上げながら、「水より濃い」血の重みを感じ入ったのでした。

『エミリーはのぼる』で、普段はエミリーの素行をとがめてばかりいるルース伯母さんが、いざエミリーが他人に悪口を言いふらされ窮地に陥ると態度を一変。上等の服を着こみ、あっけに取られているエミリーを残して敵陣に乗り込んでいく場面があります。
すべてを収めて戻って来たルース伯母さんは、力強くこう言います。

もうこんなことは二度と考える必要はないよ、エミリー。あんたのうしろには家族がいることを憶えていなさい(Don't you give this thing another thought, Emily Remember, you've got a family behind you)

我が福井県発祥のマレー家にも、ルース伯母さんみたいな伯母がいる、いる(笑)。
若い頃には血の濃い「家族」を足かせのように感じたこともありましたが、今となっては、背後についているファミリーの重みがなんともありがたく、大切に感じられてなりません。

※『エミリー』に関する過去ブログ
オンライン読書会 『エミリー』、想うこといろいろ(2022年1月)
『エミリー』とアイルランド① カッシディ神父と妖精レプラコーン(2022年2月)
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コメント

Jun

 初めてコメントします。私も今アイルランドに住んでいて、Naokoガイドさんのブログを楽しみにしています。
 福井県は私の生まれ故郷で、思わず懐かしさがこみあげてきます。地味で目立たない県だけど、日本有数の?幸福県です。子供のころから、福井県から出たくて出てしまいましたが、歳のせいか懐かしさが年々増します。

naokoguide

Junさんへ
コメント&いつも見て下さり、ありがとうございます!
なんと!福井県出身の方にアイルランドでお会いすることはめったにないので、とても嬉しいです。
福井県は幸福県なんですね!半分、ルーツがある者として、なんだか嬉しい♪
私たちは信州に住みながら、いつも福井のお蕎麦(おろし蕎麦)を食べ、焼きサバ、焼きガレイを取り寄せ、その季節になるとせいこガニ、でっち羊羹を取り寄せて食べていました!美味しいものが多いですよね、福井は。
私の故郷は信州上田ですが、やはり母の影響で食の故郷は、福井かもしれません!(笑)

chikako

墓石の文字の掘られたところにカエルがいるのは、あるあるですね。
たまに墓参りに行くと結構な確率であります。
亡くなった父の化身かな?会いに来てくれたのかな?とうれしくなります。

naokoguide

chikakoさんへ
そうなんですね!
カエルの活動時期に日本にいることが少なかったので、初めてみました(笑)🐸🐸🐸
お墓に生き物がいてくれるのっていいですよね。守ってくれているみたいで♪
非公開コメント

naokoguide

アイルランド公認ナショナル・ツアーガイド。長野県上田市出身、2000年よりアイルランド在住。趣味はサーフィン、バラ栽培、ホロスコープ読み、子供の頃からのライフワーク『赤毛のアン』研究。

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