ウクライナの惨状を伝えるショッキングなニュースに、怒りや悲しみが募るばかり。
先ほど夜のニュースで、アイルランドに20年住んだウクライナ人の男性が激戦地で戦死したことが報じられました。祖国のために戦うべく、ロシアの侵攻後まもなく帰国した40代のごく普通の男性。
ほんのひと月前程まで私と同じようにいち外国人としてここで幸せに暮らしていた人の命が、こんなに形で失われてしまうなんて。
今アイルランドには一日平均580人のウクライナからの避難民が到着していて、昨日でその数は1万8000人に。アイルランド政府は今後も無制限で受け入れるとしていて、来週末のイースター休暇までに2万6000~3万2000人になると見込まれています。
早く到着した人の中にはアイルランドですでに仕事に就いている人もいて、子どもたちもこちらの学校に通い始めています。知り合いなど直接の受け入れ先のない人はホテルやB&Bなどに一時滞在していますが、間もなくそれも足りなくなることが懸念され、政府は仮設施設の準備を進めているよう。
約2万件の一般家庭が受け入れを申し出ていますが、ホスト先へ移動出来ている人はまだ少ないようです。
日本の国会でもウクライナのゼレンスキー大統領がオンライン演説を行いましたが、本日アイルランド国会でも行われました。
主な内容はアイルランドへの感謝とお願い。中立国であるにも関わらず、アイルランドが(政治的)中立の立場を破ってウクライナに迅速かつ惜しみない人道支援、経済支援をし続けていることや、避難民を受け入れシェルターを与え続けていること、ロシアへ制裁を加える諸外国に足並みをそろえていることなどに謝辞が述べられました。
そして、今後もさらなる制裁を加え続けるようEU諸国に働きかけて欲しい、反戦へのリーダーシップを取り続けて欲しい、さらには戦後のウクライナ復興の支援もお願いしたい、との内容でした。
ゼレンスキー大統領はこれまでも各国の国民性や歴史的背景に合わせた演説をしてきましたが、19世紀にジャガイモ大飢饉で「飢え」を経験したアイルランドにはそれになぞらえた話を。ロシア軍は食糧や燃料、農業用具の倉庫をねらってミサイル攻撃をしかけている、そうして相手を「飢え(hunger)」させることがロシアの新手の武器なのだ、と。
ご興味ありましたら、こちらがYouTube上に公開された14分強の演説の動画です。(英語の同時通訳)↓
そして、今朝のレンスターハウス(アイルランド国会議事堂)には、ゼレンスキー大統領の演説に合わせて多くのウクライナ人が集いました。ダブリン市内の小学校に通う避難民の子どもたちが胸に手を当ててウクライナ国歌を歌う姿を見て、この子たちのお父さんは今祖国で戦争をしているかと思うと、胸がえぐられるような想いに…。
ちなみに、日本では外国のリーダーが国会で演説するのは異例とのことですが、アイルランドでは過去に多くの事例があります。ケネディ元米大統領、ネルソン・マンデラさん、クリント元米大統領、トニー・ブレア英元首相など。
でも、戦時下の国のリーダーが演説するのは初めてでした。
実はゼレンスキー大統領は、今回のオンラインでの登場以前に、実際にアイルランドの地を踏んだことがあります。
ゼレンスキーさんの前職がウクライナを代表するコメディ俳優であったことは今や広く知られていますが、まさか彼がのちに大統領になろうとは誰も予想をだにしなかった2017年11月に、アイルランドに公演旅行に来ていたのでした。
アイルランド在住のウクライナ人プロモーターの仲介で、自身の制作会社のチームを率いてやって来たゼレンスキーさん。ドロヘダのTLT劇場で、一夜限りの歌とダンスのショーが披露されたそうです。
※参考記事→
Zelenskiy in Drogheda: ‘He was very happy to be in Ireland’(Irish Times)

こちらがその時のポスター(写真は上記記事より転載)。右から2人目のシャンパンボトルを手にしているのがゼレンスキーさんですね
公演はゼレンスキーさんの第一言語であるロシア語で行われ、大盛況だったそう。アイルランド在住のウクライナ人はもちろん、ロシアや旧ソ連の国々の人も多く会場に集ったそうです。
公演後、ゼレンスキーさんは奥さんと共にアイルランドに3日間滞在し、ギネスストアハウスやモハーの断崖を見物したそう。アイルランドを非常に気に入り、政治家と国民の距離が近いことに感心していたと言いますから、この時のアイルランド訪問の経験が今のゼレンスキーさんの国民に寄り添う大統領としての姿勢に何らかの影響を与えたのでは…と想像したくなります。
コメディ俳優時代のゼレンスキーさんが、2015~2019年、「国民の僕(しもべ)」というドラマでウクライナ大統領の役を演じて人気を博したというエピソードも今ではよく知られていますね。一介の歴史教師がひょんなことから大統領に当選してしまい、陰謀が渦巻く政界で奮闘する…というコメディドラマ。
アメリカではNetflixで再配信中だそうですが、「Servant of the People」の英語タイトル&英語字幕付きで、今のところYouTubeにもシーズン1の全24話あがっています。私もちらっと見てみたところ、まるで現実のゼレンスキー大統領を見ているかのような錯覚に…。
今となってはなんだか、暗殺の危険と隣り合わせの戦時下で、SNSを駆使したりして世界に窮状を訴え続けるホンモノのゼレンスキー大統領の方がよっぽど現実離れして見えます。皮肉なことに、そちらの方がドラマかのよう。
ドラマと現実が逆だったらどんなにいいことか…と思わずにはいられないのでした。
※過去関連ブログ
→
広がる支援、ウクライナへ(2022年3月)
→
アイルランドはウクライナへの武器供与は行わず(2022年3月)
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コメント
yuji ikeda
貴重な情報発信ありがとうございます。
ウクライナ避難民を無制限で受け入れるとのアイルランド政府に敬意を表します。
アイルランドの暖かい国民性が感じられます。
日本もそんな国でありたいと願っております。
平和・自由・平等とはなんと脆いものなのか?と思い知らされ、怖れと怒りと虚しさを感じております。日本人は与えられた民主主義の上に胡坐をかいている?などと言われます。他人ごとではない現実を感じております。今は早く、戦争を止め、ウクライナの明るい未来を願うばかりです。
2022/04/07 URL 編集
naokoguide
怖れと怒りと虚しさ、私もまさに同じ気持ちです。そして、日々いろいろなことを考えさせられます。平和とは、中立とは、人権とは何か。どうやって守っていったら良いのか。政治とは、外交とはなんなのか。
メディアでのキャリアのあるゼレンスキー大統領の発信力はすごいですね。そして、正義が勝つことを100%信じて、すでに戦後の復興のことを念頭においていることにも驚かされます。
2022/04/08 URL 編集
fairy
1番驚いたのは2017年に来られていたという事でした。あれから数年後こんな未来が待っていたとは誰が予想した事でしょうか。
毎日の報道は目を覆いたくなるものですが、目を逸らしてもいけないという思いで見ています。平和である事は当たり前ではないと改めて思うのでした。
2022/04/08 URL 編集
naokoguide
本当ですよね、戦時下に国を指揮する大統領になるとは。ドロヘダの地元の方々もびっくりですよね。
私も、もうこれ以上見たくない、って思うこともありますが、見ておかなければ、知っておかなければ…という想いです。
アイルランドも中立についての議論が叫ばれ始めていますし、この戦争によりいろいろなことが変わっていくでしょうね。考えさせれることの多い日々です。
2022/04/09 URL 編集