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映画『ベルファスト(Belfast)』、北アイルランド紛争と郷愁と…

行きつけの映画館ライトハウスシネマ(Light House Cinema, Dublin 7)で、親しい友人たちと映画鑑賞の夜。
日本でも3月25日より公開予定の『ベルファスト(Belfast)』を観てきました。→映画『ベルファスト』オフィシャルサイト

Belfastmovie0222
今回の映画タイトルも然りで日本では「ベルファスト」と表記されますが、当地での発音は「ベルファースト」なので、街の名を言うときはそのように記すことにしますね(語尾が伸びるのが北アイルランド訛りの特徴なので!)

アカデミー賞7部門にノミネートされた話題作ですが、それ以上に私の関心は、タイトルが示すとおり舞台&ロケ地が北アイルランドの首都ベルファーストであるということ。
監督はじめ主要キャストのほとんどが北アイルランド(もしくはアイルランド)出身者で固められ、サウンドトラックもベルファーストが誇る世界的ミュージシャン、ヴァン・モリソンの往年のヒットソングの数々。(主題歌「Down to Joy」は書き下ろしのようですね)
過去20数年にわたり、仕事でもプライベートでも数えきれないほど訪れ、変化してく様子を見てきた馴染みの街ベルファーストがどんなふうに描かれているのかが楽しみでした。

1969年、北アイルランド紛争が激化し始めた頃のベルファーストで、プロテスタント系労働者階級の居住区に暮らす9歳のバディ少年とその家族を取り巻くストーリー。全編モノクロで描かれているのは、ケネス・ブラナー監督の少年時代がベースになっているからで、監督の思い出の中のベルファーストはモノクロだったからだそう。
笑いあり、涙ありのあっという間の1時間半で、期待以上の素晴らしさでした!主人公のバディ少年のちょっぴり舌足らずのベルファースト訛りが可愛くて、その可愛さが切なくて…。
アイルランドを描いた映画は、海外での評価をよそにアイルランド人にはどうもピンとこない…なんて場合も多々あるのですが、今回は違ったよう。映画が終わってエンドロールに切りかわる瞬間、隣りにすわっていた友人スティーヴンが静かに「Wow!」と声をあげ、ディヴィッドはこっそり目頭を熱くしていました。

時代に翻弄される人々のやるせない心のうちや、故郷へのLove & Hateな(それこそジェイムズ・ジョイスの時代から「アイリッシュあるある」の!)想いに心を刺激され、エンドロールが終わっても立ち去りがたい気持ちでおしゃべりを続けていた私たち。
「あのジョーク、可笑しかったねー」、「ベルファーストの街をちゃんと見たくなった!(ダブリンの人はあまり行ったことのない人が多いのです)」、「ヴァン・モリソン、最高!」、「バディ君、(友人の5歳の息子)オシーンに似てなかった?」、「あの年長の女の子はいとこなの?それとも近所の子なの?」…などなど話し込んでいるうちに、スクリーンが消えて明かりがついてしまいましたが、お掃除に入って来た若い女の子も「私も最初に見たとき涙が止まらなかったの~」と話の輪に加わり、空っぽの劇場で鑑賞後の熱い気持ちをしばし語り合ったのでした。(その後、話の続きは近くのパブへ移動して…笑)

バディ少年の体験はケネス・ブラナー(Kenneth Branagh)監督自身のもので、当時ブラナー監督が住んでいた北ベルファーストのタイガーズ・ベイ(Tigers Bay, near Shore Road, Belfast)が物語の舞台と思われます。
タイガーズ・ベイと言えば、北アイルランド紛争の歴史においては、泣く子も黙る過激なロイヤリストのエリア。隣接するリパブリカンのエリアと抗争が絶えなかった地域ですが、紛争が激化する以前は、プロテスタント系、カトリック系の住民が入り混じって平和に暮らしていたんですよね。物語の時代背景が、紛争が始まり街が変化していくまさにその過渡期であることも興味深かったです。

ブラナー監督のほか、お父さん役のジェイミー・ドーナン(Jamie Dornan)(←彼が主演のTVドラマ『The Fall』が大好きなのですが日本でも放送されていたんですね!)も、おじいちゃん役のキーラン・ハインズ(Ciarán Hinds)もベルファースト出身。そしてお母さん役は、日本でもファンの多いスコットランドが舞台のドラマ『アウトランダー(Outlander)』で知られるカトリーナ・バルフ(Caitríona Balfe)ですが、彼女は北アイルランドとの国境沿いのカウンティー・モナハン(Co. Monaghan)出身。
そして、おばあちゃん役のジュディ・デンチさんはイギリス人ですが、お母さんはダブリン出身のアイリッシュ、お父さんはイギリス生まれだけどダブリン育ちと、やはりアイリッシュ・ルーツをお持ちです。


(「アイリッシュ・ルーツ」に焦点を当てた、メイキング&監督・キャストのインタビューを含むトレーラー)

ブラナー監督があるインタビューで、コロナ禍の静寂の中でこの物語が生まれたと話していました。ロックダウンの静けさが、自分の中に常にあったけれど奥底に沈んでいた、故郷の「ベルファースト」へ帰らせてくれた、と。
北アイルランド紛争を背景にした映画はこれまでも数多く作られてきましたが、怒りや悲しみをモノクロに沈め、ノスタルジアを前面に出した描き方、切り取り方が出来るまでに時が経過したんだなあ、と感慨深い気持ちにもなりました。
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コメント

Wada

観ました
直子さん、こんばんは。

公開された時は観れませんでしたが、今夜アマゾン・プライムで観ることができました。
北アイルランド紛争を時代背景としていますが、悲惨な闘争ばかりではない市民の暮らしが描かれていて良かったです。ベルファーストの街はこれまで通り過ぎるばかりでしたが、次回アイルランドを訪れた時は、少し時間をかけて歩きたいと思いました。日本に居るとアイルランド共和国と北アイルランドとの関係性が分からないことが多いのですが、直子さんのブログを参考にして、理解を深めたいと思います。

naokoguide

Re: 観ました
Wadaさん、こんにちは。
いいですよね~、「ベルファスト」。
北アイルランド紛争への理解も深まるし、何よりベルファーストという街の魅力や人情が伝わりますよね。音楽もいいし。もう一度観たくなりました。
北アイルランド事情について、ブログ記事を参考にしていただけて嬉しいです。私自身もこうして書くことで知識を整理し、再び見返して記憶をリフレッシュしたりしています。
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naokoguide

アイルランド公認ナショナル・ツアーガイド。長野県上田市出身、2000年よりアイルランド在住。趣味はサーフィン、アイススケート、バラ栽培、ホロスコープ読み、子供の頃からのライフワーク『赤毛のアン』研究。

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