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オンライン読書会 『エミリー』、想うこといろいろ

今年最初の『赤毛のアン』仲間とのオンライン読書会は、『ニュームーンのエミリー(Emily of New Moon)』(1923年出版)がテーマでした。
作者モンゴメリがアン・シリーズがひと段落して、というより、意思に反して10年以上もアンのその後…を書き続け、さすがにうんざりして(笑)、やっと次の主人公を世に出せる!と喜び勇んで発表した「ニュームーン・シリーズ」3部作の一作目。日本語版は『可愛いエミリー』(村岡花子訳、新潮文庫)、『エミリー』(神鳥統夫訳、偕成社文庫)、『新月農場のエミリー』(池松直子訳、篠崎書林)と訳者により異なるタイトルで複数出版されています。

長い間、村岡さんの『可愛いエミリー』で親しんできましたが、手元にある昭和60年版の色あせた文庫本の文字があまりに小さく(一文字が2ミリくらい!😂)、通読するには辛すぎるので、今回思い切って神鳥さんの『エミリー』で読んでみました。
年末に自分へのクリスマス・プレゼントとして読みたい本を日本から大量注文した中に混じって、10日間ほど前に到着。神鳥さんの流れるような秀逸な訳に感激しながら、あっという間に読んでしまいました!

EmiyofNewMoon0122
左下の『可愛いエミリー』1冊分が3冊に分冊されているので読みやすい上、『アン』関連の本を数多く手がけておられる高柳佐和子さんの表紙絵&挿絵が物語の世界をよく表現していてステキ。本の体裁や装丁も、読む気にさせる大事な要素ですね

過去数年この作品については、アイルランドやケルトとの関連個所に注目した「つまみ食い」のような読み方しかしていませんでした。久しぶりに『エミリー』を通読する時間は豊かで楽しく、なんとまあ、パワフルで魅力的な作品なことか!と感動しきり。
初読から35年余りの月日を経て、やっとこの作品の全貌を本当の意味で理解し、大好きになれた気がしました。

モンゴメリのコアなファンの中には、アンよりエミリーをお気に入りの主人公として挙げる人が少なくありませんが、若い頃の私はその魅力がわかりませんでした。初めて読んだ10代のときなどは、はっきり言って拒否反応だった(笑)。
エミリーという少女はアンに負けず劣らずの不滅の魂を宿す少女なのですが、当時の私には共感するには激しすぎて…。楽天的な明るさとユーモアを持つアンとは違い、どちらかというと内省的で暗めなエミリー。いつも「負けるもんか」と気負っているところが、私には重すぎました。
(ドラマ『アンという名の少女』のアンには、エミリーのキャラクターが足されているような気がする…🤔)

そして、アンの物語全編に流れる、「安らかなお家へ帰ろう~、グリンゲーブルズへ帰ろう~」的な牧歌的なトーンも『エミリー』には薄く、周囲の環境がとにかくキツイのです。アンを育てたマリラも厳しかったけれど、心は温かかった。でも、エミリーを養育するエリザベスおばさんは病的にコワく、心に闇を持つ大人のひとり。
10代の私には、こんな大人がそばいるなんて信じられない!そして、この人と一緒のベッドで寝なくちゃならないエミリーの子ども時代って何なの~!と、完全にメンタルブロックでした。
アンとダイアナの一度も喧嘩をしない美しい友情に比べ、エミリーとイルゼの友情は激しくて疲れるし、野心的すぎるエミリーの性格もあまり好きではないなあ、なんて感じていたものです。

でも、当時の気持ちを正直によ~く振り返ってみると、そこには私の子どもじみた嫉妬心もあったように思います。
私も子どもの頃は作家になりたいと思っていて、毎日すごい量の文章を書いていました。物語、日記、手紙…それこそ1日に何時間も。エミリーの言うところの「ひらめき」もあった。でも、10代の中頃からそれがなくなり、というより、目のまえの現実の方が楽しくなってしまって、「おとぎの国」をイチ抜けしてしまった。
物語や小説といったフィクションは書けなくなり、ああ、自分は妖精の国の住人ではなく「俗世界」の人間なんだ、と悟ってしまったことは、当時の私には軽い挫折でした。
頑固に意思を貫き、作家になるんだ!と情熱の火を燃やし続けるエミリーを疎ましく感じたのは、自分はあきらめてしまった夢を追い続ける彼女に嫉妬していたからかもしれない、と思うのです。物語の中の人物にそんな気持ちを持つなんて、今になってみると不思議なんですけれどね(笑)。

『エミリー』はモンゴメリの自伝的な物語でもあり、自叙伝『険しい道(The Alpine Path)』(山口昌子訳、篠崎書林)にあるとおりの一族のエピソード、文章を書かずにはいられない内なる衝動、文筆修行の「険しい道(アルペン・パス)」を登ることを拒絶されたり、励まされたりしながら決意していく様が、エミリーにそっくり投影されています。
『エミリー』を出版するにあたり、出版社から主人公の名を変えた方がいいと言われたモンゴメリは、「「アン」が「アン」であるように「エミリー」は「エミリー」であって、私の中で「エミリー」として10年間育ってきた子なんだから変えられない」(1921年5月16日)といったことを日記に書いています。また、第一章を書き終えた日には、「「エミリー」という小さな可愛い魂を、私の中でずっと温めてきた」(1921年8月20日)とも。
モンゴメリがアン以上に自分の分身としてこの世に送り出した少女が、エミリーだったんですね。

読書会でも話題になりましたが、今回再読して私がとくに印象的に感じたのは、無理解な大人に囲まれた環境にありながら、エミリーが決して自分を失わない強い魂の持ち主であったということ。
「(ほかの人と)同じになんてなりたくないわ」(8章)、「自分以外のだれにもなるつもりなんてありません」(28章)ときっぱりと言い、周囲に迎合しません。
体裁を気にする昔かたぎのニュームーン屋敷に引き取られるまでのエミリーは、貧しくとも教養豊かで、愛情深い父親のもとでホームスクーリングで育ちました。このお父さんが、もうすぐ自分が死ぬことを幼いエミリーに話してきかせるシーンは感動的かつ、こういう話し方をしたら子どもに死の恐怖を与えることなく、生きる力を残してやることが出来るんだなあ、としみじみ感心してしまいました。
やはり人が育つのに大切のなのは、愛情と教育なのだなあ、と。
礼儀作法や行儀はあとからでも仕込めるけれど、心の豊かさは付け焼刃では育ちません。エミリーは人として大切なことや、生きる力を父親から学び、思慮深く、正直な心を育てていたからこそ、どんな環境でも自分らしくいられたのでしょう。
周囲に歩調を合わせすぎたり、人の目を気にすぎて自分を見失いがちな子ども、いや、大人にも、ぜひこの作品を読んで欲しいなあ、なんて思ったりしたのでした。

さて、今の私のとって『エミリー』は、別の角度からも重要な作品です。
というのも、現在の私の自由研究テーマである「モンゴメリ作品のケルト性」が存分に発揮された一作だから。レプラコーンを含む妖精、風のおばさん(ケルトでは妖精は風と同義)、ケルト神話(と思わしき記述)、前世や再生の思想がそこここに織り込まれている上、カッシディ神父、のっぽのジョンといったアイルランド人の登場人物も。(多分、ケリーじいさんも?)
なんといっても、エミリー自身が耳のとがった妖精族の末裔であり、ケルト系の先祖から受け継いだ千里眼の持ち主。続編にはドルイドやゲール語も出てきます。
さまざまな文学作品も引用、言及されていて、『アン』同様にシェイクスピアや聖書、ギリシャ神話やスコットランドの古詩はもちろん、『ジェーン・エア』やオスカー・ワイルドの『サロメ』も顔をのぞかせているのが嬉しい。
『エミリー』に見るケルトやアイルランドについては、時間を見て後日またご紹介出来たら、と思っています。

余談ですが、前回の読書会からメンバーが持ち回りでお題を出すことになり、リンゴにまつわるあるシーンにちなみ、「私の好きなリンゴ」が本日のお題でした。
今朝ジョギングしながらそのことを考えていて、近所のスーパーに立ち寄ったときに、目についたリンゴをつい買ってしまいました。ゴロゴロと無造作に置かれた、銘柄も産地も記されていないリンゴ。形もあまりよくありません。(上の写真で本と一緒に映っているものです)
読書会が終わり、きっとおいしくないだろう、と期待もせずガブリとかじったら、なんとそれが、めちゃくちゃおいしくてびっくり!楽園でイブが、そしてアダムがガブリとしたのはこのリンゴだったかも!…と思わせるほど(笑)。
小粒だけどジューシーで歯ごたえがあり、野性味あふれる完熟の甘み。エミリーたちがニュームーンや、アイルランド人の隣人、のっぽのジョンの果樹園で夢中になって食べたリンゴもこういうおいしさだったのかなあ、と思いを馳せながら、続編の『エミリーはのぼる(Emily Climbs)』を早速読み始めたのでした。🍎🍎🍎
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コメント

アンナム

夕べの読書会も楽しかったですね.時間がとても足りなかったくらい!
あなたの「想うこといろいろ」を読んで、こんなにいっぱい言いたかったこと
あったのですね!!私も大人になってからエミリーを読んで大好きになりました。
登場人物も美しい心の持ち主ばかりでなく、人の意見を受け入れない頑固なところや
あまり物事を深く考えず優しいだけのところや、誰にでもありそうな心理を描いていて
これこそモンゴメリーの小説だと思ったものでした。
それにしてもナオコさん、エミリーと同じですね、少女の頃から
”書かずにはいられなかった”のね。
このブログを読んでますますおもいました。わかりやすく、飾らず、時にユーモアもある文章でしっかり伝わります。
どこかで「人はしらずしらず望むように生きるものだ」と読んだことがあります。
あなたの自由研究続けて下さい。私カーペンター先生のように言いたいわ。
「さぁ、進むがいい、登るがいい、君のノートをもって」

naokoguide

アンナムさんへ
昨日の余韻冷めやらず…で、今も楽しい気持ちが続いています♪
エミリーでは、モンゴメリの人物描写がアンの頃よりますますさえてますよね。良い人も悪い人も活き活きしていて、フィクションとは思えない。
私のカーペンター先生になってくださって、ありがとうございます!
アンナムさんには、以前にも励ましの言葉をいただきました。エミリーほど強靭な意志はないのだけれど、好きなことはやめられないので、それを追求することで少しでも世の中に還元出来たらいいなあ、と思う今日この頃です。
それにしても、早く皆さんと実際にお会いしてお話したいものです!

ようはっぱ

読んでみます。
直子さん、素敵な本のご紹介ありがとうございます。
ついこの間、ラジオで女優さんが紹介されてたので、気になって、エレナポーター著村岡花子さん訳の「少女パレアナ」を読んでみました。
多分、内容が短くはしょってあるような感じだったので、別の訳者の長いのも読みたくて木村由利子さん訳の「少女ポリアンナ」も読みました。
できた(訳された)年も違うけれど、訳によって本の雰囲気が変わるのが面白かったです。
本の内容も生きてきた時代で少女が受ける社会的なものも今と違ってて、ふむふむと興味深かったです。
最新の「若草物語」の映画でジョーが出版社に本を持っていく話を思い出しました。^^
面白かったので続編になるPollyannaの成長後の本「パレアナの青春」(うちの市の図書館には村岡さんの訳しかなかったですが)も読み、おもしろかったです。
直子さんのように造詣のある文章で表現できないのが、残念。

さっそく、図書館でエミリーの本を予約しました。
アンのシリーズは中学生のころ?読んだと思うので、その流れでもしかしたらエミリーも読んだかもしれないです。
読んでなかったら新しい友人に出会える!
読んでたらまた古い友人に再会できる!
予約の本が行きつけの図書館に届くのが、待ち遠しいです。

naokoguide

Re: 読んでみます。
ようはっぱさん、コメント嬉しいです。
ああ、少女パレアナは、子どもの頃の私の大の友人でした!久しぶりに再会してくなってきました。
木村由利子さんも訳されているんですね。
パレアナと、「リンバロストの乙女」という作品も大好きだったなあ。復刊したときに買った文庫が実家にあるので、次回帰ったときに再読しよう!と、ようはっぱさんのおかげでまた一人、再会したい友人を思い出しました♪

エミリー、ぜひ読んでみてください。そうですね、初対面か再会か、それも楽しみですね!
名作小説って、歳を重ねてから読んでもやっぱり名作で、また違った感動を得られるところが一生の友達だなあと思います♪

ようはっぱ

読みました。
エミリー三部作、一気に読みました。
村岡さん訳の本しか図書館になくて、確かに字が小さい。
早く読みたくて家用のメガネでさーっと読んでましたが、あとで仕事用のメガネをかけてみるとあの男の子の名前が「ベリー」ではなくて「ペリー」だと発見しました。
それから、不思議に思ったのが、表紙のエミリーの髪の毛の色が黒くないこと。
なんでやろうか?いまだに疑問。
それでも、エミリーの成長が三部作、それぞれでメインになるテーマ(といっていいのかなあ?)が違ってたから興味深かったです。
時々日本のことも出てきて、当時の日本に関することって作者は何から得ていたんでしょうかねー。
移住してきた人たちのそれぞれの祖先の地の話やその伝統を守った生活。
それぞれの「○○家の誇り」、今の日本ではよくわからないことなので、想像しながら読みました。
また、訳では私が読みきれない原作のニュアンスもあって。
日本人の書いた日本語の小説を読んでみたくなりました。

なおこさん、素敵な本のご紹介をありがとうございました。

naokoguide

Re: 読みました。
ようはっぱさん、こんにちは。
エミリー、読んでくださったんですね!ああ、語りたいです、ご一緒に~。
確かに、新潮文庫の表紙は内容と全然あっていないことが多いですよね(笑)。
モンゴメリはアン・シリーズやほかの作品にも時々、日本を登場させていますが、あの時代のひとつの流行だったのではないかと思います。日本の〇〇というのが。ジャポニズム…というのでしょうか。
「〇〇家の誇り」というのは、私は田舎の地主だった母の一族に囲まれて育ったので、「○○家の者は△△である」ということを母たちが言うのをよく聞いていたので、ちょっとわかる気がします。強烈な親戚、エミリーほどじゃないけれど、いる、いる、うちの一族にも、って思ったりしています(笑)。
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naokoguide

アイルランド公認ナショナル・ツアーガイド。長野県上田市出身、2000年よりアイルランド在住。趣味はサーフィン、バラ栽培、ホロスコープ読み、子供の頃からのライフワーク『赤毛のアン』研究。

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