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『エミリー』とアイルランド② 巨人ダグダの「魔法の大鍋」

すっかり間があいてしまいましたが…。『エミリー』とアイルランド① カッシディ神父と妖精レプラコーン(2022年2月)に続く、モンゴメリ作『エミリー』におけるアイルランド・ネタその2です。

『エミリー』/『可愛いエミリー』(原題:Emily of New Moon)にはケルト神話が背景にあるのでは…と思われるくだりが数か所ありますが、そのひとつがこちら。
10月のニュームーン農場で、秋の夜長にエミリーといとこのジミーさんが昔風の大鍋で豚の餌にするジャガイモを煮るシーンです。
(引用は『エミリー(中)』モンゴメリ作/神鳥統夫訳、偕成社文庫より。カッコは原文、下線筆者)

古い果樹園のかたすみにあるトウヒの木立の下に、大きな石をまるくならべたかまどがあって、大きな鉄の鍋がかかっている。牛を一頭まるごと煮込みにできるほど大きな鍋で、おとぎ話にでてくる巨人がおかゆ(porridge=ポリッジ)でも煮たんじゃないかと思うほどだった。けれどほんとうは、わずか百年前に、先祖のヒュー・マレーがイギリスから持って来たものだとジミーが教えてくれた。
…(中略)…
長い棒でジャガイモをかきまぜることもあった。フォークの先のように分かれたおかしな灰色のあごひげをはやし、ジャンパーのベルトをしめたジミーは、魔法の大鍋(cauldron=コールドロン)をかきまわしている、北の国の物語のノームやトロールといった妖精そっくりだ。(第14章)


周囲の人たちから変わり者扱いされているジミーさんとエミリー。二人は良き理解者同士で、「ちょっと変わった組み合わせ」ながら「いっしょにいるとおたがいにこのうえなく幸せ」と書かれています。
鍋の中のジャガイモを時おり突いたりいたりかきまわしたりしながら、ジミーさんが自作の詩を朗読してくれたり、時には友人テディとイルゼも加わって心温まる秋の夜がふけていく…。物語の進行にはさして影響のないささやかなシーンですが、古き良き時代の穏やかな時間の流れや、エミリーとジミーさんの心の交流がしみじみと伝わってきます。

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表紙の絵がまさにこのシーン。小さなエミリーとジミーさん、そしてジャガイモが入った大鍋が

この「おとぎ話にでてくる巨人」、「魔法の大鍋」から連想されるのが、ケルト神話の大地と豊穣の神ダグダです。
ダグダは巨人級の大男で、好物はポリッジ。ポリッジとはお粥のことですが、米から作る日本のお粥とは異なり、オーツ麦など穀物を牛乳で煮たもの。アイルランドでは朝食の定番です。(←神様なのにお粥が好きなんて、好みが地味!笑)
ダグダは知力・体力・魔力に秀でたオールマイティーな神様ですが、食いしん坊なのが玉にきず。いくら食べても中身がなくなることのない「魔法の大鍋」を所有していて、鍋の底からあとからあとからわいてくるポリッジを食べていたら戦争に出遅れちゃって大失敗…なんてエピソードも。(笑)
エミリーが、ジミーさんの出で立ちから北欧の妖精を連想したように、「魔法の大鍋」神話はアイルランドのほか北欧やブリテン島にも伝えられているようです。

ところで、この「コールドロン(cauldron)」と呼ばれる大鍋ですが、ダブリンの国立博物館の考古学館(National Museum of Ireland - Archaeology, Kildare Street, Dublin 2)で古代の実物を見ることが出来ます。

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紀元前900~500年のもの。そんなに古い大鍋であれば魔法がかかっているかも!金属フック付きの木製の道具は、鍋から肉を取り出すのに使用された「肉フック(flesh-fook)」。ジミーさんの「長い棒」を思わせます

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見物する子どもがより小さく見えるほど巨大なコールドロン。巨人ダグダがかかえこんでポリッジを食べるにふさわしいサイズですね

ニュームーン農場の大鍋がイギリスからきたのであれば、ひょっとしてこのくらい古い骨董品かも。博物館でこの展示を見るたびに、ニュームーン農場のものもこんなふうな鍋だったのでは…と思わずにいられません。
ダブリン市内観光で頻繁に足を運ぶ博物館。ご案内するお客様には、ダグダの「魔法の大鍋」はこんな鍋だったかもしれませんね〜、とお話するにとどめていますが、心の中ではいつも、ニュームーン農場の大鍋も!とこっそり叫んでいます(笑)。

ちなみに北アイルランドには「ポリッジ鍋(porridge pots)」と呼ばれるこんな名所もあります。
名前の由来は、ダグダの「魔法の大鍋亅からわいてくるポリッジみたいに見えるから?

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マーブル・アーチ洞窟(Marble Arch Caves, Co. Fermanagh, Norther Ireland)にある「ポリッジ・ポッツ(porridge pots=ポリッジ鍋)」と呼ばれる巨大な石筍。5万年かかって形成されたそうです!(2006年3月撮影、そのときの過去ブログ→ファーマナのマーブル・アーチ洞窟)。ちなみにマーブル・アーチ洞窟の見学ツアーは、今月から2023年1月まで内部整備のため休止中なので行くなら来年に😉
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naokoguide

アイルランド公認ナショナル・ツアーガイド。長野県上田市出身、2000年よりアイルランド在住。趣味はサーフィン、アイススケート、バラ栽培、ホロスコープ読み、子供の頃からのライフワーク『赤毛のアン』研究。

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