イギリスの支配下にあったアイルランドが、独立運動/戦争を経て自治国家を樹立して、今年で100年になります。
1919年1月より続いたゲリラ戦による独立戦争が21年7月に停戦、同年12月に英愛条約(Anglo-Irish Treaty)が締結され(ここで北アイルランドが分離)、翌22年1月にダブリンの議会を通過、イギリス総督府だったダブリン城が「無血開城」されてアイルランドに譲渡されました。
一連の動きが年をまたいでいるため21年と22年のどちらを独立年とすべきかいつも迷ってしまうのですが、アイルランドの独立は北アイルランドの分離という悲しい出来事の始まりでもあり、いわゆる「独立記念日」というのは定められていません。
お祝いムードはありませんが、昨年より続く「○○が起こったのは100年前の今日」という「centenary(センテナリー=100周年)」に合わせて、関連の報道やイベントも多く、アイルランド独立の歴史を振り返る良いチャンスとなっています。
昨年12月6日は、2ヶ月以上にわたる交渉の末に合意にこぎつけた、英愛条約(Anglo-Irish Treaty)調印の100周年でした。
交渉の矢面に立たされたマイケル・コリンズが、「自由と平和の代償ための汚名なら喜んでかぶる!」と熱弁をふるって仲間を説得しようとした条約。念願の独立は手に入れたけれど、北アイルランドを切り離すことになってしまった、いわくつきの条約でもあります。
100周年を記念して、先月よりダブリン城裏手のコーチ・ハウス・ギャラリー(Coach House Gallery, Dublin 2)にて、この英愛条約(Anglo-Irish Treaty)についての資料展が開催されています。
The Treaty, 1921: Records from the Archives期間:2021年12月7日~2022年3月27日、毎日10時~17時
場所:Coach House Gallery, Dubh Linn Gardens, Dame Street, Dublin 2, D02 X822(チェスタービーティー・ライブラリーの斜め隣り)
入場無料、要予約(空きがあれば予約なしでも入れるようです)

コーチ・ハウス・ギャラリーは、1833年、総督の馬車の車庫として建設された建物。ゴシック様式を模倣したファサードが印象的です
展示が開催されて間もなく見に行きましたが、資料パネルだけでなく、当時の動画、音声を交えたライブリーな展示内容で、まるで100年前にタイムスリップしたかのような臨場感。
この辺りの歴史については仕事柄、かなり知っているつもりでしたが、こんなことも、あんなことも…と初めて知ることやトリビアがいっぱいで、一度見ただけでは消化しきれないほどの情報量に圧倒されました。

アーサー・グリフィス、マイケル・コリンズ…といった、条約締結の立役者となった人物たちのプロフィールがずらり

当時の印刷物が壁に映写。レトロなフォントや、シャムロックやハープの縁取りがステキ

1921年10月8日の朝、ダブリンから列車とフェリーでロンドンへ向かうアイルランド代表団の映像が。こんな映像あったんですね!代表団ご一行の人数の多さにも驚きましたが、アイルランドを発つときの熱狂的な見送りはもちろん、到着時もロンドンのアイリッシュ・コミュニティーに盛大に迎えられ、まるでお祭り騒ぎさながらだったことにも驚きました

代表団の中には女性も。事務局として同行し、メディアにさかんに取り上げられたようです

ロンドン滞在中のアイルランド代表団の食事会のメニュー。仲間内での意見の対立もしばしばで、この会食ではコリンズとそのほかのIRA、IRBメンバーが言い争いになり、食べ物はもちろん、石炭を投げ合う騒ぎになったそう。熱い…!

部屋の中央にうやうやしく置かれているのが、1921年12月6日、ロンドンのダウニング・ストリート10番で調印された条約文書!

当時は単に「Articles of Agreement(契約書)」と呼ばれていたそう。契約書といったらコレ!だったのでしょう

条約調印後の12月14日、ダブリンに戻り、アイルランド議会で条約の審議が開始。当時はシティセンターにあったUCDで議会が開かれていました。その前に集い、審議の結果を見守る群衆
この条約はハッピーエンドには程遠いものとなり、北アイルランドの帰属をめぐって議会は対立。数カ月後には内戦が勃発し、国の未来を背負うはずだったマイケル・コリンズは暗殺され、31歳の若さで帰らぬ人となりました。
英愛条約のイギリス側の代表のひとりであったウィンストン・チャーチルが、のちにコリンズのことを回想した言葉が紹介されていました。
「(交渉の場での)コリンズはあたかも誰かを、いや、自分自身を撃ち殺そうとしているかのようだった。あれほどの情熱と、苦しいほどの抑制を、私は生涯で目にしたことはなかった」
リアム・ニーソン主演の映画『マイケル・コリンズ』(1996)は何度も観ている大好きな作品ですが、コリンズのことや条約締結の細かな経緯を知ってから見ると、少し物足りなく感じられます。史実をかなり脚色している部分もあることもわかってしまいましたし…。
100周年を機に、新たなマイケル・コリンズ映画が制作されたりしたら嬉しいですね。
この記念展は、3月下旬まで開催。情報量が多く、チャーチルやロイド・ジョージなどイギリス代表団についての展示部分は集中力が持たず詳しく見きれなかったので、もう一度見に行かなくてはなりません!
こちらは、100周年の昨年12月6日にRTEニュースで報じられた映像です。「英愛条約、100年前の今日調印」↓
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