お友達の、
手紙の書き方コンサルタントの田丸有子さんが万年筆の魅力について語っておられるのを見て、そう言えば…と思い出したことがありました。
その昔、メイド・イン・アイルランドの万年筆があったのです。お世話になった人にお名前を入れてプレゼントしたことがあり、いつか自分用にも欲しいなあと思いながらも、手書きの機会はすでに減っていたので、たまに使う筆記具としては私には高価すぎると買わずにいるうちに製造されなくなってしまいました。
確かアメリカの有名メーカー、クロスの万年筆だったような。歴代のアメリカ大統領がホワイトハウスで法案に署名するときに使うという、あのクロス社製です。
記憶が定かでないままに、夕方、用事があってダブリンの街へ。この店の前を通りかかりました。

1927年創業のペンや万年筆がメインの老舗文具店、ザ・ペン・コーナー(
The Pen Corner, College Green, Dublin 2)
20年以上もこの街に住みながら、素通りするだけで一度も入ったことのない店。
グレース・ケリーを始めとする数々の著名人が訪れ、ノーベル文学賞作家の故シェイマス・ヒーニーもお得意さんだったという文具店。なんだか敷居が高そうで入りずらく思っていましたが、ここで聞けば疑問が解決するかも!と思い、勇気を出して入店してみました。

ショーウィンドウのディスプレイには星の王子様が。モンブランのペンですね

クロスもありました。ディスプレイがすっかりハロウィーン🎃仕様になってる!
ショッピング目的ではないんですが、教えていただきたいことがあって、いえ、でも、将来、買わせていただくかもしれないんですけど…とモゴモゴと言い訳めいたことを言いながら入ると、ベテラン店員らしき初老の男性が、「どうぞ、お好きなペンをお試しいただいていいんですよ」と対応してくれました。
早速にクロスのことを尋ねると、はい、メイド・イン・アイルランドでしたよ、1976~2002年まで、カウンティー・ゴールウェイのバリナスロウ(Ballinasloe, Co. Galway)に製造工場がありました、と即答。(注1)
バリナスロウはゴールウェイ近くの町で、今ではダブリン~ゴールウェイ間がバイパスでつながれたので通ることはなくなりましたが、かつては観光ツアーの移動の際にいつも通っていました。昔から馬市で知られた町で、かのナポレオンの名馬マレンゴもここで買い付けられたアイルランド産の馬なんですよ、などとお客様にお話ししていたものです。
そうか、馬だけでなく、あの町はボールペンや万年筆もメイド・イン・アイルランドしていたんだったなあ…と古い記憶がうっすらよみがえってきました。

代表的なクロスの万年筆を見せてくださいました。もともとクロスはボールペンのメーカーで、万年筆の製造が始まったのは1990年代からだそう。細身のものが最初に出て、そのあと太いものが出て…とデザインの変遷も教えていただきました

ペン先のデザインが美しい!(写真提供:Luis Argerich from Buenos Aires, Argentina, CC BY 2.0, via
Wikimedia Commons)
せっかくなので試し書きさせていただきたかったのですが、そのあと歯医者の予約時間が近づいていたので、また出直すことに。
店内スペースは地下にもあるようで、そこに筆記具以外のカードや便箋などがあるのではないかと思います。そちらも今日は見る時間がなかったのでまた今度。
ちなみにメイド・イン・アイルランドでなくなったクロスのペン/万年筆は、現在は主にメイド・イン・チャイナのようです。
アイルランド製にこだわる人が今でもいるらしく、当時の中古品がネット上で売買されていました。
私もあのとき躊躇せずに買っておけば、今ごろ引き出しの中に宝物が…なんてことになっていたかもしれません!

ザ・ペン・コーナーの店舗のある建物をあらためて下から上まで見ると、とても美しいビクトリア様式の建築でした。いつまでも残して欲しい街のランドマークのひとつですね
(注1)
こちらの記事によると、バリナスロウにクロス社のアイルランド支店があったのは1972~2001年のようです。
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コメント
Pearl
さすがアイルランド、趣が違いますね。
また行きたい場所が増えました。
万年筆好きには堪えられない記事を書いてくださってありがとう!!!
2021/10/15 URL 編集
naokoguide
私も万年筆、欲しくなりました。それほど高価なものでなくてもいいから、クリスマスに向けて万年筆デビューしようかなあ、と思案中です♪
こちらこそ、楽しいインスピレーションをどうもありがとう!
2021/10/15 URL 編集