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タリバン政権下のアフガニスタンが舞台、映画『ブレッドウィナー』

アフガニスタンのタリバン政権復活とそれに続く動向が、新型コロナもハイチの大地震も押しのけ、日々ヘッドラインで報じられています。
パニックになった人々が滑走路を離陸する飛行機にぶら下がる映像(振り落とされて10名が亡くなったそう)、恐怖政治の復活を恐れヒステリックに泣き叫ぶ女性、あくまで「イスラム法の枠組み内で」女性の権利を認めると言うタリバン…。
アイルランド政府はアフガニスタン在住のアイルランド人33名の帰国の段取りに奔走していますが、カブール空港のパニックに加え、タリバンがコントロールするセキュリティーチェックなどをくぐり抜けることが容易でないようなことをサイモン・コベニー外務大臣が言っていたのが気になります。
また、約300人のアフガニスタンの人々を難民としてアイルランドに受け入れる手はずを整えていることも報じられています。
(300人というのは現時点で名前が確定している人で、受け入れ人数はもっと増えるかもしれないとのこと。ちなみにアイルランドは年間1500~2000人の難民を世界各地から受け入れています)

アフガニスタンと言えば、90年代に添乗員をしていた頃、パキスタンのツアーでカイバル峠を訪れたことが思い出されます。護衛付きで峠の道を走行し、行けるのはここまで、と下車した場所には、銃を持った兵士たちが群がっていました。高い山に阻まれた谷間のような地で、パキスタン人の現地ガイドが「あちらがアフガニスタンだよ」と指差す方向を、お客様と皆で眺めたことを覚えています。
当時はまだバーミヤンの仏教遺跡が破壊される前でしたので、いつかはあの山の向こうにある巨大な仏像を見に行けるとものと思っていました。90年代半ば、今思えばちょうどタリバンが台頭し始めた頃だったかと思うのですが、当時はまだ政情不安であるということ以外、アフガニスタンの具体的な内情については一般にはあまり知られていなかったように思います。

ところで、タリバン政権下のアフガニスタンを舞台にしたアイルランド制作のアニメーション映画があることをご存知でしょうか。
日本でも2019年12月に劇場公開されました。アイルランドのジブリとも称されるアニメーション・スタジオ、カートゥーン・サルーン(Cartoon Saloon)制作の『ブレッドウィナー(The Breadwinner)』(2017)。アカデミー賞にもノミネートされ、数々の映画賞を受賞した作品です。
私は最初に見たときに感銘を受け、昨年ロックダウン中に見返した時にもまた感動し、感想を書こうとするも想いがあふれすぎてまとめられず...。今回のアフガニスタンの報道を受けて昨晩再び見返したので、今度はちゃんとご紹介しようと思います。

thebreadwinner08212

カートゥーン・サルーンと言えば、アイルランドの歴史や神話をベースにしたケルト3部作『ブレンダンとケルズの秘密』(2003)、『ソング・オヴ・ザ・シー海のうた』(2014)、『ウルフウォーカー』(2020)で知られますが、『ブレッドウィナー』は舞台もテーマもアイルランドとは一線を画した異色の一作。絵の美しさやファンタジックな趣き、おとぎ話と現実の対比がより深いメッセージとなり見る人の心に残る点などは、さすがカートゥーン・サルーンならでは、です。
カナダ・オンタリオ州出身の児童文学者で、慈善活動家でもあるデボラ・エリス(Deborah Ellis)さんの同名小説を原作としている点も興味深い。



予告動画をちらり見ただけでも、タリバン政権下でおびえて暮らす人々の様子に胸がしめつけらるかのような気持ちに。
父親をタリバンに連行された少女パヴァーナが少年になりすまし、一家の暮らしを支えながら、大好きなお父さんを刑務所から救い出そうとする…というストーリーなのですが、タリバン政権下では女性は男性同伴でないと外出を許されないので、女性と小さな子供だけが残されたパヴァーナ一家は食べ物を買いに行くことさえままならなくなってしまうんですね。
髪を切り「少年」になったパヴァーナが、「男の子になれば何でもできるんだ!」と目をキラキラさせ、戸惑いつつも自由を知るシーンは印象的。女性でいることの不自由さ、不当さが当たり前になってしまっている社会にあって、父がいなくなるという悲劇が起こらなければ、パヴァーナはあの開放感を一生味わうことがなかったかもしれないのです。

そんな中で声をあげた、あのマララさんのことをあらためて思わずにはいられません。今回の騒動にもSNSで即反応し、その後BBCの動画でもメッセージを送っていたマララさん、いったいどんな気持ちで現地の情勢を見守っていることでしょう。
パヴァーナの父親はもと教師で、女の子にも勉強は必要だと考えている人。その影響を受けて育った利発なパヴァーナの姿が、父が教育者だったというマララさんに重なって見えるのでした。

ところで、今回でこの映画を見たのは3度目となりますが、毎回見終わったあとに心に引っかかり、パヴァーナ以上に将来を憂いてしまうのが、パヴァーナ一家を窮地に陥らせたタリバンの少年兵士です。パヴァーナのお父さんのかつての教え子らしく、それを思うとよりいっそう、なんて非情なことを!と胸が張り裂けそうな気持ちになるのですが、だからと言って、この子を憎む気持ちにはなれないんですよね。
それよりも、どうしてこんな少年が怒りの塊となって闘わなくてはならないのか、彼もまた生き延びるためにタリバンに入らざるを得なかったのではないか…と可哀そうでならない。
私がうまくまとめらずにいたやるせないような気持ちを、すっかり代弁してくれているのかのような秀逸な記事を見つけました。小野寺系さんという方が書かれたこちらのコラム。↓

『ブレッドウィナー』が描くタリバン政権下の過酷な現実、込められた希望(otocoto)

女であるがゆえにパヴァーナが生きづらいように、少年兵や親切な兵士もまた、男であるがゆえに戦わざるを得ない境遇に陥ってしまったのかもしれない。そう考えると、選択肢が奪われて生きてきた彼らもまた、場合によって被害者だと言うことができる。このような時代と場所に生まれてしまった者たちは、与えられた運命をただ生きるしかないのだろうか。
(上記リンク記事より抜粋)



見守るしかないアフガニスタン情勢ですが、国を去るという選択肢のない人たちの無事を祈ってやみません。

『ブレッドウィナー』の日本語吹替/字幕版は、現在、デジタル配信はなく、DVDまたはブルーレイのみのようです。→(訂正)日本では『生きのびるために』のタイトルで、Netflixで観られるとの情報をいただきました。
私はYouTubeの有料レンタル(英語のみ)で視聴しました。
そして、デボラ・エリスさんの原作の邦訳『生きのびるために』(さえら書房)も、続編2作含め、アマゾンで注文しました。これを読めばパヴァーナのその後が知れるのでしょうか。

【カートゥーン・サルーン制作のそのほかの作品関する過去ブログ】
『パフィン・ロック』(ウーナとババの島)で癒される💛(2020年4月)
9か月ぶりの映画館、『ウルフウォーカー』を観ました(2020年12月)
「ケルズの書」をめぐるアニメーション映画『ブレンダンとケルズの秘密』(2021年4月)
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コメント

sima-s

本当に、心の痛むことです。
こんな映画があったのですね、知りませんでした。
ナオコさまの記事を読んで、日本における難民のことをあらためて調べたりしています。
告発ではなく愛情のこもる記事をもって、世界に目を向けさせてくれるナオコさま、あなたは素晴らしい外交官です!

naokoguide

sima-sさんへ
外交官!(笑)
そんなふうに言ってくださって、ありがとうございます。でも、皆が外交官になり得ると思っています。これを読んで共鳴してくださる、sima-sさんも!
こういう映画を見ると、そこから知識や関心が広がりますよね。私も昨年これを見返したときに、アフガン情勢をあらためて調べたりしていたので、今回のことはとくに強い関心を持ってニュースを見たり、専門家の解説を聞いたりしています。

MORIYA Sae

悲しい出来事
なおこ様
いつも(11年前より)楽しく読ませていただいております。ありがとうございます。
ユーラシア旅行者の講演で2回、なおこさんのお話を聞かせていただいております。
2回目の時に「近々キルギスタンに行く」とのことでした。その時に、キルギスタンの写真をお見せした者です。行かれましたか?
「スタン」と付く国・地域に行く事を目標にしているのですが、その目標が夢物語になりつつあり、悲しいです。
アフガンはロシアが進行する以前は、いい国だったそうです。その頃駐在していた商社勤務の知人の話では、山が美しく、布製品がとても素晴らしく、いい思い出が沢山あるそうです。
「乙嫁語り」という漫画がありますが、ご存じですが?中央アジア・イランなどの国々の女性の生活が分かる、楽しい物語です。
イラン・ウズ・カザフ・タジク・キルギス・サウジ・ヨルダン・UAEと、イスラム絡みの国々に行きました。女性への縛りはそれぞれです。それでも、おもてなしの心を持った素晴らしい国々でした。いつかアフガンにも行きたい!カイバル峠に行かれた、なおこさんが羨ましいです。
実は、2020年7・8月は五輪を逃れてアイルランド旅を計画していました。スケリングマイケルへの船・近くのB&Bの予約も済んでいました。
落ち着きましたら、なおこさんに手を引かれアイルランドゆったり旅をしたいものです。その時はよろしくお願いします。
長くなりました。大分アイルランドは落ち着かれたようですが、どうぞご自愛ください。
66歳後期高齢者兼歩くサッカー新人プレーヤーの守屋佐栄でした。

naokoguide

Re: 悲しい出来事
MORIYA Saeさま
コメントありがとうございます。そして、いつも見てくださりありがとうございます、嬉しいです。
あのとき、キルギスの写真を見せてくださった守谷さま、覚えていますとも!
キリギス行きは2020年4月に予定していましたが、残念ながらパンデミックが始まりフライトもキャンセルとなり、行くことが出来ませんでした。馬に乗る練習もしたのに(涙)落ち着いらぜひ訪ねたいです。
ユーラシアでの添乗時代、シリア、ヨルダン、レバノンなど中東の国へは何度も行かせていただいたのですが、中央アジアはチャンスがありませんでした。お客様から時々、中央アジア辺りにいる人に顔が似ている、と言われたのですが、私みたいな顔の人たちがいるのでしょうか?笑
アフガンに駐在していた方のお話、貴重ですね。いつか平和が戻り、行ける日が来ることを諦めずに願っていようと思います。
スケリッグ・マイケル、ご案内させていただきたいです。中央アジアのお話など、ゆっくりうかがわせていただきたい。
お互い元気にパンデミックを乗り切り、いつかまたお目にかかれますことを願っております!
あらためて、コメント嬉しかったです。ありがとうございました。

P.S.「乙嫁語り」デジタル書籍になっていたのでアマゾンで早速、購入。教えてくださりありがとうございます!
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naokoguide

アイルランド公認ナショナル・ツアーガイド。長野県上田市出身、2000年よりアイルランド在住。趣味はサーフィン、バラ栽培、ホロスコープ読み、子供の頃からのライフワーク『赤毛のアン』研究。

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