以前から行きたいと思っていた北アイルランド、アントリム海岸のスリリングなクリフウォークが楽しめる、ザ・ゴビンズ(
The Gobbins, Co. Antrim)へ行ってきました。
20世紀初頭のツーリズム創成期に、崖っぷちに高架橋やウォークウェイを建設し、大自然の景観へ人々がより近く安全にアクセスできるように開発された、歴史あるアトラクションです。

クリフウォークは要予約,、ガイド付きツアーでのみ可。ベルファースト近郊のキャリックファーガス(Carrickfergus, Co. Antrim)から車で15分程のところにあるビジターセンターから出発します。センター内にはザ・ゴビンズに関する展示、カフェ、ショップあり

ガイドさんから安全の注意を受け、ヘルメット着用で専用の送迎車に乗り、いざクリフへ!

5分ほどのドライブで海の見える道へ。辺りは一面緑の牧草地、クリフへ至る道への目印は郵便受け。ロブスター・トラップとミルク缶もいい感じです

ガイドさんの説明を聞きながら小道を10分ほど下ると、最初に見えるザ・ゴビンズの景観がこれ。ここへ下りる坂がかなりの急勾配で、下りはともかく、あとで上って来るのが大変でした!
ザ・ゴビンズのオープンは1902年。カウンティー・ウェックスフォードのニューロス(New Ross, Co. Wexford)出身、ダブリン育ちの鉄道エンジニアのバークレー・ディーン・ワイズ(Berkeley Deane Wise、1855– 1909)さんが行った、当時としては例をみないほどの大事業でした。
19世紀半ば以降、アイルランド各地に鉄道が敷かれ、人々の長距離移動が可能に。それに伴い観光旅行が盛んになり、現在北アイルランドきっての名所とされるジャイアンツ・コーズウェイ(Giant's Causeway)にツーリストが大挙するようになったのも、鉄道の開通によるものでした。
ダブリン近郊のブレイ~ウィックロウの、今も名所とされる海沿いの路線のトンネル工事に関わったのち、北アイルランドに赴任したワイズは、列車の衝突を防ぐための信号システムを開発。安全な運行に貢献したほか、鉄道旅行がより魅力的なものになるよう、各駅のデザインもおしゃれなものにしました。
さらに、当時は未開の地に等しかった近隣の森や滝に一般の人も安全にアクセスできるよう、遊歩道を建設するなどして地元ツーリズムの発展を促します。アントリム海岸のワイルドな断崖にも人々を招き入れようと、15の高架橋と6つの高架道路からなるウォークウェイの建設を提案、実現にこぎつけたのでした。
現在はビジターセンターから送迎バスが出ますが、当時は最寄りの鉄道駅から出発しており、鉄道チケットを持っている人は入場無料だったそうです。まさにレイルツアーズの先駆け、そういった観光プロモーションは100年前から行われていたんですね。
お隣りのブリテン島にもその名をとどろかせ、ジャイアンツ・コーズウェイにも並ぶ観光名所として多くの人を集めたザ・ゴビンズですが、第二次世界大戦中に閉鎖。1950年に再開するものの、地すべりやメインテナンスの問題により、1954年に再び閉鎖を余儀なくされ、その後半世紀以上、放置されていました。
北アイルランド紛争の終結に伴い、再び北アイルランドの観光誘致に力を入れることが出来るようになったタイミングで、2011年、地元行政がEUの支援を受けてザ・ゴビンズを修復、再開すると発表しました。
最新のエンジニアリングと安全基準で、ワイズが提唱したオリジナルのデザインに限りなく近いかたちで約5年かけて橋や道路を再建。2016年に再オープンして現在に至ります。

「ワイズの目(Wise's Eye)」と名付けられた岩をくり抜いた入り口で、一緒に行った友人たちと記念撮影。これをくぐったら、ようこそ、アナザー・ワールド(異界)へ!と迎えてもらえそう(笑)

要所要所でガイドさんの説明を聞きながら、橋や道路を歩きます。ジャイアンツ・コーズウェイと同じ玄武岩の岩場。心配していたお天気も天気予報に反し、歩くと汗ばむくらいの晴天に

オリジナルの建築跡がところどころに残されているのがいい。年月を経て朽ちたモノが、ワイズさんやかつてのツーリストたちの夢の名残りを感じさせてくれます

見上げる展望ポイントはガイド付きツアーでは立ち寄らないものの、クリフへの入口へ降りる道からアクセス可。後ほど改めて車で来ましょう…とこの時は言っていたのですが、正規の駐車スペースが遠すぎるなどの理由から、見上げだけでOKということに
自然の景観の素晴らしさはもちろんのこと、今、建築の現場で日々通訳の仕事をしているせいで、どちらかと言うと橋の仕組みやエンジニアリングのすごさに感嘆している自分に気が付き笑ってしまいました。以前には目がいかなかったような、安全のためのネットや、ネジやボルトが気になる(笑)。
ちょうど前日に職場で高所作業の資格コースを受けたばかりだったので、建築作業の様子がリアルに目に浮かんでしまったりして・笑。

橋のデザインはどれもレトロな20世紀初頭のエドワード朝。近年の再建にはアイルランド島いち大きなクレーンが使用されたそうですが、道具や機器が限られていた100年前にも同様のものを建設したというのがスゴイ

この日のために新調したウォーキングブーツ、履き心地は上々。橋の下には海が透けて見えます

途中、洞窟がいくつもありました。こちらはその中のひとつ、サンディー・コーブと呼ばれ、潮が満ちても絶対に水があがってこないそう。以前はアクセスでき、ここでピクニックが出来たそうです
100年前も近年も、建設&設置にもっとも苦労したのが管状のチューブラー・ブリッジ。ザ・ゴビンズのシンボルマークにもなっているアイコニックな橋がコレです。

昨日までメキシコで行われていたサーフィンの世界チャンピオン・ツアーを日々見ていたので、波のチューブをついつい連想してしまう…(そういうポーズで写真を撮れば良かった!笑)

チューブを抜けて振り返ると全景が。こうして見ると、結構きわどいところに架けられていますね
崖には野鳥も多く生息していますが、パフィン(puffin=ニシツノメドリ)やギラモット(guillemot=ウミガラス)はすでに移動してしまっていて、姿は見えませんでした。いるのはキティウェイク(kittiwake=ミツユビカモメ)ばかり。

岩の割れ目に巣をつくり、ギャーギャーとすごい鳴き声。「キティウェイク、キティウェイク」と鳴くからその名なのだそうですが、私にはそうは聞こえない…

野鳥の生息地近くにかかる橋は、鳥の保護のために屋根付き
そして、この先の、岩を貫通する長さ22メートルのトンネルがザ・ゴビンズのハイライトと言えるでしょう。
打ちつける波の音を耳に、岩の中に設けられた階段を水面下まで降りていくのです!

わずかな明かりのみ。いちばん下まで降りると脇を流れる海水に手で触れることが出来ます

出口の光を頼りに降りた分だけ上ります。探検隊員になった気分!
夏の後半で種類は少ないものの、山野草も道中にいろいろ咲いていました。

(左上から時計回りに)海沿いによく見かけるカモミールの類、イトシャジン(Harebell)、スイカズラ(Honeysuckle)

そして崖に這いつくばるこの植物はスプリーンワート(spleenworts)と言って、ビクトリア時代の人々が薬草として好んで摘んだそう。摘まれすぎて今は減ってしまったとのことですが、「spleen」=「脾臓」なので、内臓の働きに効き目があるハーブなのでしょうか

最後の3つ連結する橋は新しく作られたもののようです。これを渡った先に吊り橋があるのですが…

残念ながら安全性の問題があって閉鎖中とのことで、眺めるのみ。ここからもと来た道を引き返しました
歩く距離は約5キロ。階段が多いけれど段差は低く、小さな子供連れのご家族も一緒でしたが、ガイドさんが説明しながらゆっくり歩いてくれるので、まったく遅れることなく歩き切っていました。ちゃんとしたウォーキングブーツを履いていれば問題なく歩けるレベル。
ただ、私たちは良い天気に恵まれましたが、天候によっては雨風に吹かれて大変な日もあることでしょう。
ビジターセンターを出発して戻るまで所要2時間半。コロナ禍のため訪れるのは地元の人が大半のようでしたが、予約はかなりいっぱいなので早めの予約が必要。(コロナ禍以前もいつも混んでいました)
ちなみに1~2月は閉鎖するようです。
気の置けない友人たちと一緒行けたのも楽しく、この夏のいい思い出のひとつとなりました。
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