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故郷の橋を思わせる、19世紀のギネス・ブリッジ

ダブリン市内の真ん中を南北に二分するように流れるリフィー川。
全長120キロ、ウィックロウ山地に源を発し、ダブリン市街地に入って22本の橋をくぐり、ダブリン港からアイリッシュ海へと注ぎます…とダブリン市内観光でご案内し続けてきましたが、22本の橋の中で一本だけ見たことのないものがあることに気が付きました。
一昨日、レオ・ヴァラッカー副首相がフェイスブックに投稿したこの橋です。


€140k allocated today by Govt to Fingal County Council for the preservation of the historic Guinness ‘silver’ bridge

Posted by Leo Varadkar T.D. on Friday, 30 April 2021



「歴史的なギネス"シルバー"ブリッジの保存費用として、政府よりフィンガル県(ダブリン県内の行政区域)議会に14万ユーロを分配」とのニュース。
補修が決まった19世紀の橋の正式名所はファームリー・ブリッジ(Farmleigh Bridge)と言い、我が家から車でほんの15分程の距離。現在は使用されておらず、幹線道路からも外れていますが、ウォーターズタウン・パーク(Waterstown Park, Palmerstown, Co. Dublin)という公園からアクセスできることが分かったので、早速、公園でのウォーキングを兼ねて見に行ってきました。

1980年代まで家族経営の農場だったというウォーターズタウン・パークは、森や湿地を含む35ヘクタールの緑地で、5キロのウォーキングやサイクリング用のトレイルが整備されています。

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ここ数日の晴れと雨の繰り返して、一気に新緑がまぶしくなりました

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リフィー川に平行に流れている水路は、19世紀の水車用の用水路だったもの

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この何もない広々感がいい!

目指す橋は、5キロのトレイルの中ほどで現れました。長さ52メートルのギネス・ブリッジ、またはシルバー・ブリッジこと、ファームリー・ブリッジは明らかに修繕が必要な「兵どもは夢の跡」な姿。

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建設は1880年頃。今やすっかり錆色ですが、新しかったときは銀色に輝いていたのでしょうか

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川面に映る逆さ橋がきれい

この橋はそもそも、1873年にギネス家が新たに購入したファームリー・ハウス(Farmleigh House)へ水道や電気を供給するため、川のこちら側にあった水力発電施設から水道菅や電線を運ぶために建設されたものでした。
ファームリー・ハウスは、ギネス・ビールの創業者アーサー・ギネスの曾孫のひとりで、19世紀後半にギネス社を大きく発展させた初代アイヴィー伯爵エドワード・セシル・ギネス(Edward Cecil Guinness, 1st Earl of Iveagh, 1847-1927)の邸宅でした。いとこのアデレードとの結婚に際して購入したもので、パリ育ちのアデレードの趣味で豪華に改築して華やかな暮らしが営まれたと言います。
1999年以降はアイルランド政府が所有し、内部を一般公開しているほか迎賓館などに利用され、2005年には日本の天皇皇后両陛下(現在の上皇上皇后両陛下)もお泊りになられています。
※j過去ブログ参照→天皇陛下が宿泊したファームリー・ハウス(2007年11月)

ギネス家の屋敷へ続く橋だから「ギネス・ブリッジ」なわけですが、その呼び名には少々、恨めしい気持ちも込められていたかもしれません。というのも、当初、橋の使用は家族と屋敷に招かれた客のみに限られ、雇い人たちは川のこちら側から日々渡し舟でファームリー・ハウスへ通わなくてはならなかったから。
ところが、ある嵐の晩、ジョー・ウィリアムズさんという雇い人のひとりが家へ帰ろうと舟を待っていたところ、川に落ちて溺死してしまいます。それ以来、ギネス家は家族とゲスト以外にも使用を許可し、1940年代まで使われたそうです。
溺れ死にしたジョーの幽霊が…といった言い伝えが、きっとあるに違いない…!

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対岸の森はファームリー・ハウスのあるフェニックス・パーク(Phoenix Park)。屋敷のそばにあるギネス・タワー(Guinness Tower)がよく見えます

あとから思ったのですが、ヴァラッカー副首相の投稿を見て私がこの橋に特別に反応したのは、故郷の千曲川にかかる「別所線の赤い橋」に似ていたからかもしれません。
ギネス家の隆盛を偲んでいたつもりで、知らず知らずに故郷を偲んでいたのかも。
子どもの頃から景色の中に当たり前にあった橋が、2019年の台風で崩落したときには、上田市民&出身者が全世界で心を痛めたものでした…。
※過去ブログ参照→別所線の赤い橋と「別所線牧歌」(2019年12月)

そして、崩落から1年5か月、おかげ様でこの3月に復旧し、なんとサザエさんも来てくれました!

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千曲川にかかる上田電鉄・別所線の赤い橋。この4月~9月、オープニング映像でサザエさんは長野県を旅しています!(C)長谷川町子美術館 →アニメ「サザエさん」のオープニングで長野県の観光地や特産品が紹介されます!

生まれ変わった「別所線の橋」同様、ギネスの橋も修繕されることになって良かった。錆色がきれいになったら似ていなくなるかもしれないけれど。

ギネス・ブリッジを眺めながら、一緒に行った日本人のお友達とピクニックをしました。

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お稲荷さんとひじきの煮物をご馳走になりました。私はおやつ担当、最近はまっている「サンティアゴ・ケーキ」を今度はレモン味で焼きました

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きれいな蝶がやって来ました。あとで調べてみたところ、「コヒオドシ(Small tortoiseshell)」という名のよう。蝶はあの世へ行った人の魂の化身、命日が近いという友人Yさんのおばあちゃんだったに違いない!(Yさん撮影)

青空にさわやかな空気、響き渡る鳥の声、ひらひら舞う蝶。なんとものどかな、5月の日曜日に感謝。(ちょっとだけ、千曲川のほとりでピクニックしている気分・笑)
帰り道は5キロのトレイルから外れてしまったようで、おかげで古い教会廃墟と墓地を見つけラッキーでした。

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巨木に囲まれた13世紀の教会廃墟

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ここにもブルーベルがいっぱい。大ぶりで色の薄目のこのタイプは、「スパニッシュ・ブルーベル(Spanish bluebell)」と呼ばれる外来種であることが分かりました。園芸種として入ってきて、野生化したようです
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アイルランド公認ナショナル・ツアーガイドの山下直子です。2000年よりアイルランド在住。趣味はサーフィン、アイススケート、バラ栽培、ホロスコープ読み、子供の頃からのライフワーク『赤毛のアン』研究。長野県上田市出身。

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