コロナ禍に始めさせていただいたアイルランド・オンライン講座。本日配信の
「ケルトの至宝「ケルズの書」と少年修道士ブレンダン」で、おかげさまで10回を数えました。
ご参加くださった皆さん、いつも応援してくださる皆さん、そしてオンラインスタッフとしてサポートしてくださるSさん、本当にありがとうございます。本日は約70名の皆さんにご参加いただき、予想を上回るお申込み数に感激しております。
「ケルズの書」なしのダブリン観光はまずない!と言っても過言ではないほど、日本からのお客様は必ずや、この1200年前の装飾写本をひと目見んとトリニティー・カレッジを訪れます。
過去20年、数えきれないほどご案内してきた「ケルズの書」ですが、今日の講座のように書の成り立ち、制作された場所のこと、インクの原料、そして実際のページの解説までをひと続きに、写真や図を交えてじっくりお話させていただく機会はこれまでなかなかなかったように思います。
展示室には人も多く、現場でのガイディングは、装飾ページの解説にいたっては「キー・ロー」のページをお話しするのがやっと。コロナ前の過去数年は特に、繁忙期の混雑ぶりがすさまじく、パネルの前で長く立ち止まって説明するのも難しくなってきて…。
ですから、今日のようにたっぷり1時間、「ケルズの書」を語らせていただけたことは観光ガイドとして喜びの極みでした!
そして、新しいことを知るほどにさらなる疑問がわいてくる…という、無限の探求のスパイラルにいざなう「ケルズの書」の魅力にあらためて取りつかれたのでした。
※現在「ケルズの書」はトリニティー・カレッジのデジタル・コレクションで無料公開されています。→
こちら講座の締めくくりには、映画『ブレンダンとケルズの秘密(The Secret of Kells)』(2009)にも出てくるネコのパンガ・ボン(Pangur Bán)のこともお話しさせていただきました。
「ケルズの書」の「キー・ロー」のページに描かれている、古いアイルランド語の詩に登場する修道士の飼い猫です。不思議な響きの名前ですが、「ボン」は白、「パンガ」はその昔、毛織物をふっくらさせるために行われた足踏み作業をする人のこと。重労働の象徴だったのでしょうか、「白い労働者」みたいなニュアンスかと思います。
(もしくはその仕事をする人の様が、ネコの特徴的な動きに似ているとか?)

8章からなる詩の冒頭2章は、映画のエンドロールでアイルランド語で朗読されています
ネコが喜々としてネズミを追いかける様を見て、修道士の私にも本を書くという喜んで打ち込める仕事がある、なんと幸せなことよ~という内容の詩ですが、映画に出てくる「闇を光に変える」という一節は、最終章からの引用です。
「闇を光に変える」ことが出来るのは本だけだ、本がなければすべての知識は失われる…といったセリフも、この詩にインスピレーションを得たものに違いなく、あたかも今、全人類が直面しているコロナ禍という闇を抜け出すには、先人の知恵や、科学に裏付けされた知識、芸術がはぐくむ豊かな心や、それらを伝える教育が大切であることを伝えてくれているかのよう。
講座終了後、やり切った感でしばし放心。映画の中で歌われる「パンガ・ボン~、パンガ・ボン~♪」という不思議な歌が頭をグルグルしていたときに、ふと、玄関の外に気配を感じました。
開けてみると、やっぱりいた、我が隣り近所のパンガ・ボンが!(ちょっと純白ではないけれど…)

ああ~、お隣りのネコのチャーリー。めったに私と目を合わさないくせに、今日は何やら凛々しい顔でこちらを見つめているではないですか~
もしやチャーリー、パンガ・ボンのふり?(笑)
目の色も違うし、とてもネズミを捕まえそうにはないけれど、いつも我思うがまま、喜々と駆けまわっている姿は同じ。私もチャーリーの様を見て、好きなことを喜んで話させていただき、皆さんに聞いていただけるとは幸せなことよ~と喜びと感謝がじわじわと胸に湧き上がってきたのでした。
次回の講座のテーマ、日にちは未定ですが、この「映画で読み解くアイルランド」シリーズ、ぜひ続けさせていただければ...と思っています。
今日はありがとうございました。そして、今後ともよろしくお願いいたします♪
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コメント
Reico
ありがとうございました!!
2021/04/25 URL 編集
北の国からKAZU
5年前にトリニティカレッジで「ケルズの書」を見たことを懐かしく思い出していました。
トリニティのショップで買った”The Book of Kells ”を久しぶりで開いて、今回の講座で紹介された絵を見ています。
本の表紙がちょうど赤毛のキリストを抱いたマリア様の絵でした。
絵の隅に描いてある猫やネズミ、6人の僧侶の顔、蛇の姿など、Naokoさんに指摘されて初めて注目し見つけました。
画材のお話がありましたが、鉱物由来の物は、どうやって革に定着させたのでしょうか?
日本画の絵の具は鉱物性のものも植物性のものも、膠に溶いて和紙や絹本に接着させています。
植物性の画材は、浮世絵で見られるように時と共に退色します。
「Kellsの書」をトリニティカレッジで見たときは、色が殆ど退色していないように見受けました。
何か対策工夫がなされているのでしょうか?
(余りにも専門的質問ですみません)
今回も本当に充実した1時間でした。
ありがとうございました!
次回の企画も楽しみにしています‼
2021/04/25 URL 編集
naokoguide
お楽しみいただけて私も嬉しいです。ひとりでポツン…としていたフィルも、Reicoさんや皆さんに会えてうれしかったことでしょう。
ファンタジーな内容、って言っていただけて嬉しいです。事実、史実もファンタジーになり得るし、ファンタジーも現実になり得ますよね。それが人の想像力だと思うので、そこを感じていただけて嬉しいです。
チャーリー、不法侵入の常習犯だけど、なんだか憎めないのはああいう、タイミングぴったりで来たりするところ。昨日もキッチンの窓から侵入事件がありましたー笑
あ、ゴジラソックス、昨日はかせていただきました。今日もこれからはいて海へ行きます!
2021/04/25 URL 編集
naokoguide
絵画のプロの方に興味を持って見ていただけて嬉しいです。
そして、ご質問、ありがとうございます!
「ケルズの書」の絵の具には樹脂を混ぜたと聞いています。その時代の写本には、卵白、キャンドルのワックスが使用された例もあるようです。
西洋画は卵テンペラですが、日本画は膠なんですね。
素人の私から見ても色があせてないように見えますが、KAZUさんから見てもやはりそうなんですね。べラム紙は劣化しても、色だけは輝いている感じ。金がまったく使われていないのに、あの黄色の鮮やかさ!
ほかにも工夫があるかもしれませんので、展示室が開館したら司書の方に質問してみます。
皆さんがこうして様々な視点でご質問くださると、私も知識が増えていくので嬉しいです。
これからもどうぞよろしくお願いいたします!SHIGEさんにもよろしくお伝えください!
2021/04/25 URL 編集
北の国からKAZU
画材・絵の具についてまでお聞きするのは、余りにも専門的すぎて失礼だったかなと、案じていました。
でも画材・絵の具の定着法まで詳しくご存知とは、本当にびっくりしました!
Naokoさんのその知識の広さと深さに驚いています。
これからも、いろいろとお教えください!
2021/04/25 URL 編集
naokoguide
おそらく過去にお客様からいろいろなご質問をいただき、その度にそう言えば、それは知らないなあ、と調べたり、教えてもらったりしたものが知識になっていたんだと思います。
皆さんに育てていただき感謝しています。これからもよろしくお願いいたします!
2021/04/25 URL 編集