3月29日のブログに、ブレグジットにより北アイルランドの不自然さや危うさが浮き彫りにされ、アイルランド統一の議論にユニオニストは不快感をあらわにし、北アイルランドのナショナリストは争いが繰り返されることを懸念している…といったことを書きました。
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北アイルランド問題、やっぱりイギリス人のままでいたいユニオニストの気持ち奇しくも、北アイルランド問題が蒸し返され、新たな局面を迎えた…と私が感じたまさにその日から、北アイルランド各地で連日暴動が…。
ベルファーストでは先週の土曜日から7日間連続、ロイヤリスト(ユニオニストと呼ばれるイギリスとの連合維持派の中でも民兵組織に関与する強硬派)が多数居住する地域で若者の暴動が激しさを増しています。一昨日が最悪で、西ベルファーストのピース・ライン周辺で市バスがハイジャックされ放火。数百名が集まり、ジャーナリストを襲ったり、警察官をターゲットに火炎瓶や石を投げつける大惨事に発展し、多数の負傷者が出ました。
昨日は警察が放水車で鎮圧するも、今日は暴徒たちは場所を変え、北ベルファーストのタイガーズ・ベイ(Tiger's Bay)というロイヤリストの多いエリアで再び暴れ、警察官を攻撃したそう。
これで74名の警察官が負傷。死者が出ていないのが不思議なくらい、とコメントされるほどのすさまじさです。

ベルファースト市内に残るピース・ライン(Peace Line, Belfast)。北アイルランド紛争が激化した70年代、対立する住民地域を隔てるために建てられた、名前とは正反対の分断の壁(2019年5月撮影)
国内外の政治家はもちろん、今日は北アイルランドの聖職者たちもピース・ラインに集い、沈静化を呼びかけました。
暴徒の中には未成年者も多く、中には12歳、13歳の子供も。年長の若者が面白がってけしかけている様子もあるとか。
ロイヤリストの民兵組織、いわゆるテロリスト集団は関与を否定しており、暴動の現場には組織の関係者の姿はないそうです。裏で手を引いている可能性があるとしても、推測の域を出ません。
テロリストのような犯行声明があるわけでもなく、ただ暴れるだけで、いったい動機がなんなのかイマイチ明確でないのがなんだか不気味…。
考えられることはやはり、北アイルランドに暮らすユニオニストにとって、ブレグジットが居心地悪い状況を作り出したということでしょうか。通商上の国境線がアイリッシュ海にしかれたことで物流に支障が生じるなど、イギリス連合から切り離されたような感覚をリアルに感じてしまったのかもしれません。
(実際に、ロイヤリストによるものと思われる脅しの文面の落書きが港に書かれるなど、年明けから予兆はありました)
以前は「アイルランドと統一したい!」とリパブリカン(アイルランド統一を支持する人たちの中の強硬派)が暴れたものですが、今や「統一されたくない!イギリス本島から切り離されたくない!」とロイヤリスト(と推測される人々)が暴れている…。
以前だったら、権力=イギリス支配の象徴である警察官を攻撃するのはリパブリカンだったのになぜ?と思いますが、これには考えられる理由があります。
昨年6月に元IRA幹部のボビー・ストーリーが亡くなり、新型コロナ感染対策で葬儀への参列者数が制限されていたにもかかわらず2000人が参列。北アイルランド自治政府のミシェル・オニール副首席もそのひとりだったのですが、警察が感染対策違反を追訴しなかったので、ユニオニストが反発していたのです。
こういう「とばっちり」的な、行き当たりばったりの暴動の連鎖は、2年前にデリーでジャーナリストのライラ・マッキーさんが巻き込まれて犠牲となった、新IRAを名乗る若者たちの暴動を思わせます。あちらはロイヤリストではなく、リパブリカンの集団でした。
その頃、メディア取材のご案内でデリー出身の元IRAメンバーのインタビューに立ち会う機会が数回あったのですが、彼が新IRAを名乗る人たちのことを「オレたちとは関係がない。ホンモノのテロリストは標的以外を殺すようなヘマはしない」ときっぱり言い切ったのを思い出します。
新IRAも今回の若者たちも、テロリストのふりをしたただの暴徒とも言えるし、紛争を知らない世代の新たな戦い…とも。貧困や教育、コミュニティーの歪んだ伝統など、現代の北アイルランドの闇が凝縮されていると感じたものでしたが、今回の若者たちの暴動にも同様のものを感じます。
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新聞記者ライラ・マッキーさんの死と、産経新聞の記事(2019年5月)
本日、エリザベス女王のご主人フィリップ殿下が99歳で死去され、イギリス全土が喪に服すことになりました。週末に北アイルランドで予定されていた各種デモはいずれも延期されることになり、若者たちの暴動も同様に静まることが期待されています。
※参考記事
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Northern Ireland: Bus hijacked and set on fire as disorder continues(The Irish Times)
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Protesters clash with police despite calls for calm(RTE News)
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北アイルランドで連日暴動、10日間で警官70人以上が負傷(BBC News Japan)
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