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北アイルランド問題、やっぱりイギリス人のままでいたいユニオニストの気持ち

ブレグジット(イギリスのEU離脱)から3ヶ月。ブリテン島-アイルランド島間の物流の混乱は続いているようで、この区間はモノがスムーズに流れないのだ、という認識が、もはや当たり前になってきました。
年明けのブログでお話したイギリスから注文したバラの裸苗は、2月の半ば頃だったでしょうか、やはり注文ャンセルの連絡が来ました。手続きの煩雑さから、アイルランドを含むEUの顧客への販売をあきらめたようです。
※関連ブログ→次第にわかってきたブレグジット、その後…(2021年1月)

物流の混乱のみならず、ブレグジットが浮き彫りにしたもっとも基本的な問題は、今年誕生100周年を迎えた「北アイルランド」の存在そのものでしょう。
アイルランド独立期に人為的につくられた北アイルランド国境。1998年のベルファースト合意(国境管理をなくし、南北の自由な行き来の保障を含む条約)以降、問題はなりを潜めていただけで、その不自然さ、不便さ、危うさ…といった本質は消えたわけではなく、ブレグジットによりあらためて浮上してきたのです。
そして、北アイルランド住民の過半数がブレグジットに反対だったことを受けてささやかれるようになってきた統一アイルランドへの議論も、より公けに交わされるようになってきました。北アイルランドはイギリスでなく、アイルランドに帰属すべし、という、独立期からの命題が再び持ち上がってきたのです。

さまざまな人が意見を唱え出し、私がここに住み始めた2000年代初頭に首相を務めていたバーディ・アハーン(Bertie Ahern)さんは、ベルファースト合意の30周年にあたる2028年に統一アイルランドをめぐる国民投票をしてはどうか、と発言。そして言動が何かと注目されるレオ・バラッカー副首相は、北アイルランドがアイルランドにジョインするのであれば、現行の「ティーショック」(「首相」を意味するアイルランド語)の呼び名も変えないと…なんてことを言ったり。
でも、当の北アイルランドの人たちはどう考えているのでしょう。ダブリンにいるとナショナリスト目線でモノゴトを見るのが当たり前となってしまうため、目指すのは統一アイルランドだと思いがちですが、北アイルランドのユニオニストと呼ばれるイギリスとの連合維持派の人たちは、先走った議論をまったく快く思っていない様子…。

RTE(アイルランド公共放送)の北アイルランド特派員を長年務めたジャーナリスト、トミー・ゴーマン(Tommie Gorman)さんが惜しまれつつも今月で退職することとなり、昨日がトミーさんによるベルファーストからの最後のニュース報道でした。
彼の現役最後の仕事は、北アイルランド自治政府のアーリーン・フォスター(Arlene Foster)主席と、ミシェール・オニール(Michelle O'Neill)副主席それぞれへの、統一アイルランドについての考えを問うインタビューで、その内容が昨日放送されました。
フォースター主席はユニオニスト政党であるDUP、オニール副主席はナショナリスト政党であるシン・フェインのリーダー。つまりは、イギリスとの連合維持を望む人たち(ユニオニスト)、アイルランドとの統一を希望する人たち(ナショナリスト)それぞれの政治組織代表として、正反対の主義主張を持ちながら、パワーシェアリングという形式で北アイルランド自治政府を共同で動かしている2人です。
長年にわたりニュースの現場に立ち、政府高官たちとも信頼関係を築いてきたトミーさんだからこそ出来たインタビューで、2人とも腰を据えてじっくり、政治人としてはもちろん、とくにフォスター主席はいち市民・国民としての率直な気持ちを述べていたのが印象的でした。

ご興味のある方は、こちらがインタビュー動画が掲載されているトミー・ゴーマンさんの記事です。(英語)
(動画はアイルランド国外では映らないかもしれません)
NI power-sharing under strain due to division on Protocol (RTE News)

フォスター主席は現在50歳、ワクチン接種が抜きんでて進んでいるイギリスの制度の中で、ちょうど一回目の接種を受けたところ。(アイルランドで健康な50歳が接種出来るのはまだ数ヶ月先…)
かねてから「北アイルランドがアイルランド共和国と統一するようなことになったら、私はこの地を去ります」と豪語している、生え抜きのユニオニストです。
インタヴューの中で、イギリスは自国の接種が済んだら、余剰分のワクチンを隣国アイルランドに分け与えるべきです、と言ってくれているのですが、その発言こそが、彼女の持ち前の正義感と、イギリスの公衆衛生制度の素晴らしさを誇りに思う気持ちの表れであるように感じました。
そして、統一アイルランドについては、ダブリン(アイルランド政府)は我々ユニオニストの声を聞いていない、と。(「ティーショック」の呼び名を変えるとかいった先走った発言を受け)名称を変えるとか、そういうことではないんです、私たちはそもそもブリティッシュ(イギリス人)なんですよ、アイリッシュ(アイルランド人)ではないんだから、アイルランド共和国の一員になりなくないのは当然でしょう、とはっきり言っています。
トニーさんがたたみかけるように、私たちアイルランド共和国の住民があなたたちが加わることを歓迎してもやはり嫌なんですか、と聞くも、居心地悪いのよ、ときっぱり。

確かに、統一アイルランドになったら、彼女たちユニオニストは完全なマイノリティーになるんですよね。
統計によると、20年前には北アイルランドの住民の40%が自分はユニオニストであると考えていましたが、今や、50%がユニオニストでもナショナリストでもないとしています。(参考→NI survey suggests 50% neither unionist nor nationalist
ですから、フォスター主席のように、イギリス、ないしはアイルランドのどちらかに強い帰属意識を持つという姿勢は時代遅れかもしれませんが、いざ、国が変わる、書類上の国籍やアイデンティティーが変わるなんてことになれば、心情的に受け入れがたいというのが正直なところではないでしょうか。加えて、社会保障などの制度はイギリスの方が優れてるとされているわけですし。
彼らの先祖はブリテン島から移住してきた人たちなわけで、そもそもアイルランド人ではありません。アイルランド人からすれば侵入者でも、彼らにとっては異国の地で繁栄を築いた英雄なんですよね。

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ベルファーストのシティー・ホール。ユニオニストによる、ユニオンジャック及び非公式な北アイルランドの旗(白地に赤十字+アルスターの赤い手)の掲揚(2016年4月撮影)

一方、ミシェル・オニール副首席の受け答えは、多くの点で私にはあまり響きませんでしたが、北アイルランドのナショナリストは統一を今か今かと待ち望んでいるもの…と私が勝手に思い込んでいたせいかもしれません。
オニール副首席はベルファースト合意の正当性を主張し、存続させるのが仕事と考えているようで、統一アイルランドを実現させるのなら両者にとって良い国を作るためでなければならず、こぎつけるのは相当大変なことですよ…とやんわり示唆しつつ、性急な変化は望んでいない様子。次世代のために争いを繰り返さないことが大切…ってことは、統一を目指せば争いが起こることは目に見えている、ってこと?
おそらくそれが、北アイルランドに生まれ、そこで暮らしている人たちの現実なんでしょう。北アイルランドでは、統一アイルランド、イコール、争いの歴史…ということなのかもしれず、同じナショナリストでも、独立後は違う歴史を生きてきた北と南の温度差のようなものをまざまざと見せられた気がしました。

私が初めてアイルランドにやって来たのは1998年、奇しくもベルファースト合意の数ヶ月後でした。
あれから20余年、北アイルランド問題が解決にむかって前進していく様子を見てきたと思っていましたが、どうやらそれも新しい局面を迎え始めたようです。

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これがベルファースト合意の功績、国境管理なしのフリーボーダー。昨年8月、ベルコー(北アイルランド)/ブラックライオン(アイルランド共和国)にて国境線またぎ!(→新型コロナ禍の国境を越えたミッション!「秋のケルト市」の商品直送
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コメント

北の国からSHIGE

北アイルランド問題
2年前、Naokoさんに案内していただいて北アイルランドを訪れた時を思い出していました。
Carrickfergusを訪れた時、街のいたるところにUnion Jackが翻っているのを見ました。また、Hillsboroughの街を訪れ、ここは典型的な英国の美しい村だねと、女房と話しとことを思い出しました。
それまでは、北アイルランドでカトリック系の人々が多数を占めるようになれば、すんなりとアイルランドが統一されるのではないかと思っていました。
しかし、実際北アイルランドを訪れてみて、北アイルランドの英国への帰属意識の強さを肌で感じ、アイルランドの統一は簡単ではないと感じました。
さらに、ブレグジットでアイルランドの統一問題は複雑化したようですね。

naokoguide

Re: 北アイルランド問題
SHIGEさん、こんにちは。
おっしゃる通りですね。私はそのような地域に何度も行っているにもかかわらず、やはりダブリンに住んでいるからでしょうか、ユニオニストの人たちの存在がなかなか実感できずにいました。
アーリーン・フォスターさんは子どもの頃、お父さんがIRAに撃たれ、一家の運命がすっかり変わってしまったという実体験があるそうです。彼女にとって統一アイルランドとは、一家を苦しめた人たちの国に吸収される、ということになってしまうわけで、北アイルランドにはそういう人たちがまだまだ数多くことを考えると、この議論はもう一世代、時間が必要なことのような気もしますね。

sima-s

>>北アイルランド問題
>>アーリーン・フォスターさんは子どもの頃、お父さんがIRAに撃たれ、一家の運命がすっかり変わってしまったという実体験があるそうです。

ショック受けました。紛争の後遺症が今生きている人たちの中に生々しく遺されているのですね。旧ユーゴスラヴィアと同様、「民族自決」では問題が解決しない、むしろ問題を悪化させてしまうのですね。
U2のボノは2019年韓国でのコンサートで「(平和を取り戻すために)一番パワフルなものは『妥協』だった」と言った、と聞きました。北アイルランド問題に対する取り組みは、世界の同様な問題に強い示唆を与えてくれるものだと思います。一日本人に過ぎない私も、注視しています。

naokoguide

Re: >>北アイルランド問題
sima-sさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
北アイルランド問題について見聞きするたびに、私と同世代の人が不安と恐怖の子ども時代を体験してきたことを目のあたりにして心が震えます。
ボノの言う「妥協」は深いですよね。諦めではなく、他者を受けいる「妥協」。平和への道だけでなく、人間関係にもいちばん重要なことなのかな、という気がします。いろいろなことを考えさせられますね。
非公開コメント

naokoguide

アイルランド公認ナショナル・ツアーガイド。長野県上田市出身、2000年よりアイルランド在住。趣味はサーフィン、バラ栽培、ホロスコープ読み、子供の頃からのライフワーク『赤毛のアン』研究。

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