今日は悪天候をいいことに、終日家にこもって読書。
今週末の『赤毛のアン』仲間とのオンライン読書会のために再読していた『丘の家のジェーン(Jane of Lantern Hill)』を読み終え、あとで調べようとページの端を折り曲げておいた箇所をチェックしたり、作者モンゴメリの執筆当時の日記や伝記に目を通したりして、モンゴメリ・ワールドに浸り切って楽しみました。

昭和35年の初版からおそらく改訂されていないであろう日本語訳が、突っ込みどころ満載。それがかえって趣きある村岡花子さん訳の新潮文庫と、『ジェーン』執筆当時の日付が含まれるモンゴメリの日記
写真の『The Selected Journals of L.M. Montgomery』(モンゴメリの日記)は年代順全5巻の最終巻。『丘の家のジェーン』が発表された1937年はモンゴメリの生涯の最晩年で、アンを筆頭にモンゴメリが世に送り出した数々のヒロイン中、最後の少女がジェーンです。
60代となったモンゴメリは、夫は相変わらずのうつ病、成人した2人の息子は親の期待を裏切ってばかり、ほかにも悲しいニュースも多く、気力も体力も下り坂。『ジェーン』を執筆するときだけは現実から切り離され、想像の翼を広げたのでした。
『丘の家のジェーン』は、生き別れていた父と故郷のプリンス・エドワード島で夏を過ごした11歳のジェーンが、厳格な祖母によって押さえつけられていた魂の自由を取り戻し、自分が変わることで周囲の状況も好転させいく…という物語。
ちょっと出来過ぎなくらい直球の、おとぎ話的要素いっぱいのストーリーですが、あたかも晩年のモンゴメリが現実逃避して見た夢や、過ぎ去った過去の懐かしい思い出をすべてそこに詰め込んだかのようです。
夏はプリンス・エドワード島で過ごし、冬は祖母と母のいるトロントへ帰っていくジェーンですが、トロントにいながらも心は島にあり、戻る日を指折り数えて暮らします。その姿は、ジェーンの執筆中に故郷のプリンス・エドワード島に里帰りし、ここを離れたくない、「私はこの地に属しているのだから(I belong here)」と日記(1936年10月28日)に書き記したモンゴメリの姿と重なります。
作中に描かれる夏の日の浜辺や森、子どもたちの遊びの様子、隣人たちの些細なスキャンダルはモンゴメリ自身の思い出へのオマージュなのでしょう。この冬、
ディラン・トーマスの『ウェールズのクリスマスの想い出』をオーディオブックで聴いていたときに感じたと同じ類のノスタルジアを感じ、読んでいてとても心地よかったです
ちなみに、プリンス・エドワード島の魔法にかかったジェーンのことを、ウォルター・スコットの『ロブ・ロイ(Rob Roy)』の名セリフを借りて、「足は生まれ故郷のヒースを踏み、名前はジェーンである(Her foot was on native heath and her name was Jane)」(オリジナルは、"My foot is on native heath and my name is MacGregor.")とした地の文には多いに笑ってしまいました。モンゴメリも私の魂は故郷プリンス・エドワード島にあるのよ!とばかりに、きっと何度もこのセリフをかみしめたことでしょう。(プリンス・エドワード島にはヒースは咲かないにも関わらず・笑)
(このパンデミック中、英文学の古典をたくさん紐解いたせいか、これがスコットだと分かって共感出来たことに我ながら感激♪)
この作品はアン・シリーズほど熱狂的に読んだ記憶はないのですが、10代の多感な頃に読んだせいでしょうか、思いがけずいろいろ影響を受けていたようです。ジェーンの受け売りで、出所を忘れて自分の言葉にしてしまっていることがいくつかあり、驚きました。
とくにジェーンの家探しのポリシー、「買わないうちからこれが自分の家だという気がする家(the house is yours before you buy it)」(15章、新潮文庫では14章)は、18歳で実家を出てからずっと、私自身の家探しの第一条件です。買ったことはまだないので、「借りないうちからこれが自分の家だという気がする家」ですが。
かれこれ10年住んでいる今の家も、ビューイングに来て5分も見ないうちに大家さんにデポジットを手渡したので驚かれました(笑)。他人から見たらちょっと古ぼけていたり、便利ではない家かもしれませんが、見てすぐ「自分の家だという気」がしたので。
その土地や家にはエネルギーがあり、人にはみな魂の住み家のあることを、モンゴメリは作品で体現してくれています。
『丘の家のジェーン』はその真骨頂。読み終わってしまうのが惜しいほどに、とにかく楽しい読書時間でした。ジェーンに連れられてプリンス・エドワード島へ行ってきた気分♪
アイルランド・ネタも多くはありませんが、ありました。
それについては長くなりますので、また今度。

我がコテージの軒先にも春が訪れ始めました。ジェーンのお父さんの言葉を借りれば、これが私の「魔法の家」♪
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