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「野獣」になり得る東風は、英文学でも不吉なしるし

今日は雪の舞う寒い日でしたが、実際の気温は氷点下になるほどには低くなく、アイルランド上空で降ったというより、どこからか風に乗って運ばれてきたかのような雪粒でした。

beastfromtheeast090221
花壇に積もった雪粒。なんだか雪らしくないので、朝起きて最初に見たとき、誰かがオルトランを撒いてくれたのかと思った(笑)

極小粒の雹(ひょう)みたいな雪。午後出かけたときには、竜巻みたいな強風の中に雪粒が渦巻いているのが見えました。
強い東風。そうか、この雪粒はスカンジナビアやシベリアなどアイルランド島、ブリテン島のさらに東で発生した寒気によるもので、これこそが「ビースト・フロム・ジ・イースト(Beast from the East)」になり得るんだ!と実感したのでした。

「東から来る野獣」という意味の「ビースト・フロム・ジ・イースト」とは、3年前の2018年2月にブリテン島、アイルランド島を襲った大寒波のことです。
アイルランドでは悪天候や嵐は通常、西からやって来ます。大西洋で発生したハリケーンの影響で海が荒れ、嵐(ストーム)を巻き起こすのです。
ところが冬場は、北極圏から寒波が降りてきて、大陸で向きを変えてブリテン島、アイルランド島を直撃することがあります。
3年前はそれが「野獣」化してしまい、2月の平均気温が例年よりマイナス7度という寒さと大雪をもたらしたのでした!
イギリスやヨーロッパ大陸ではアイルランド以上に被害が甚大で、死者が何十人も出たほど。ですから、この時期にこういう風が吹くと、誰もが「野獣」の再来か?と思ってしまいます。
(ちなみに私はそのとき日本にいて、記録的な大雪を逃しました。その後3月にアイルランド東海岸を「ミニ野獣」が襲ったときも、西海岸でサーフィンをしていたので知らなかった!)

そんな強い東風に吹かれながら思い出したのは、英文学ではしばしば「東風」は不吉なしるし…であるということ。
旧約聖書のヨセフの夢説きに、エジプトのファラオが東風で稲穂が枯れる夢を見る、というエピソードがあります。それにちなむ迷信かと思いきや、こちらに長く住むうちに、東風が嫌われるのは実際の気象条件のせいでもあるんだ、ということが分かってきました。
今日のような強風に吹かれれば、不吉なサインと思いたくなるのも分かる…。

例えば、先日、友人から借りたチャールズ・ディケンズ原作のBBCドラマ『Bleak House』を観ていたら、こういうセリフが出てきたので思わずメモを取ってしまいました。(原作小説の邦題は『荒涼館』)

I think the wind has been in the east ever since you went away.
(拙訳)君が去ってからというもの、風向きがずっと東だった気がする


孤児エスターを引き取り、やがて愛するようになったミスター・ジャーンダイスが、久しぶりに帰って来たエスターに言ったセリフ。
ほかの場面でも、ミスター・ジャーンダイスが「風向きが東だ(the wind is blowing in the east)」と言うときにはいつも、良からぬことが起こるのです。

一方で、「東風」が不吉なら「西風」は幸運のしるし。昨年『赤毛のアン』仲間とオンライン読書会をしていたとき、やはり「東風」、「西風」が話題になりました。
アン・シリーズでは「東風」が吹くのはたいてい冬で、雨や嵐をもたらしたり、悪い予兆だったりしますが、「西風」は春を呼び、アンをワクワクした気分にさせてくれます。(→I always feel adventurous when a west wind blows …『炉辺荘のアン(Anne of Ingleside)』2章などより)
プリンス・エドワード島を含むカナダ東部の実際の気象が、きっとそうなのでしょうね。

印象的だったのは、『アンの愛情(Anne of the Island)』に見られる「東風」と「西風」。
大学生になり青春を謳歌するアンは、物語序盤のある4月の午後、こう言います。

西風って大好き。希望と喜びの歌をうたっているのね。東風の時にはいつも軒端にあたる悲しげな雨や、灰色の岸へよせる悲しそうな波を思うのよ。
(『アンの愛情』村岡花子訳、9章)

このセリフが伏線だったのでしょう。物語の終末では、紆余曲折を経て真実の愛に目覚めたアンに「吹きそよぐ西風と共に昔の夢がよみがえって(同、41章)」くるのです。ああ、良かった、東風でなくて!
9月の森は美しく、懐かしい少女時代の夢と、愛する人との将来への果てしない希望が交錯する印象的なシーンです。

余談ですが、アイルランドでサーフィンする場合には、西風はダメなんです。波に対して追い風になってしまうので。
サーフィンも極めて詩的でロマンチック…だと思うのですが、風に関しては文学と真逆。

それから、どうでもいいようなことですが、昭和世代にとって、風が吹いてくる…といったらジュディ・オングさんですよね!
ウィンド・イズ・ブロウイング・フロム・ジ・エイジャン(Wind is blowing from the Aegean)…の「エイジャン」を、子どものときは「アジア」だと思っていたので、「アジアから風が吹いてくる~」って歌だと思っていました。(黄砂じゃないんだから…笑)
かなり後になって、エーゲ海だと知ったときには衝撃でした。エーゲ海って「エイジャン」って発音するのか~って。
添乗員のときに南トルコで初めてエーゲ海で泳ぎ、海に入りながら、お客さんと一緒に「魅せられて」を熱唱したのが懐かしい思い出です。(笑)
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コメント

sima-s

Wind is blowing from the Asia♪じゃなかったのですか
私も昭和世代です、今の今まで「Asia」から吹く風だと思っていましたあああ。エーゲ海だったのですか、目からウロコ!
アイルランドは日本より夏は涼しく冬は雪も無く過ごしやすいと聞きました。
一方で「アイルランドにバカンスで来た、と言うと『それはジョークか』と真顔で言われる。どんよりと陰鬱な曇り空と1日何度もいきなり降ってくる雨」とも読みました。
ナオコさまも、雨が降っても傘はささないのでしょうか?

naokoguide

Re: Wind is blowing from the Asia♪じゃなかったのですか
sima-sさん、こんにちは。
ああ、この、どうでもいい話にコメントくださったのがとっても嬉しいですー!
そう、多くの日本人が阿木燿子さんに惑わされてましたよね、謎のエージャン(笑)

はい、真夏は軽井沢、真冬は日本の寒冷地の寒さにはならない、という点で、私はこの国の気候は気に入っています。暑さが苦手なので本当にありがたいです。
曇っているときもあるけれど、晴れるときもあります。同じ天気が続きにくい…って感じでしょうか。
今日も朝起きた時には雪が舞っていて、やんでドラマチックに晴れてきたので走りに出たら、途中でまた雪が舞って、帰宅したときには曇りになっていました(笑)
そんなふうなので、よほどの土砂降りでない限り、私も傘はささない、持ち歩かない、かもです。
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naokoguide

アイルランド公認ナショナル・ツアーガイド。長野県上田市出身、2000年よりアイルランド在住。趣味はサーフィン、バラ栽培、ホロスコープ読み、子供の頃からのライフワーク『赤毛のアン』研究。

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