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ダブリンが舞台の映画『サンドラの小さな家』 4月より日本公開

ダブリンを舞台とした、アイルランド人による主演・脚本の大変素晴らしい作品がこの春日本でも公開されます!

『サンドラの小さな家』(原題:Herself)
2021年4月2日(金)、新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国公開
公式サイト→https://longride.jp/herself/

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ダブリンを舞台に、住まいを失った若い母親サンドラと2人の娘たちが、隣人たちと助け合いながら自らの手で小さな家を建てる物語。この困難な時代を照らす、奮闘と希望の感動作(プレスリリースより)

アイルランドでは昨年公開予定でしたが、感染対策の度重なる映画館閉館で延期。(制限が緩和されれば3月に公開予定)
ありがたいことにオンライン試写にご招待いただき、ひと足先に鑑賞させていただいたところ、感動のあまり大号泣してしまいました。映画館で観ていたら、嗚咽をこらえるのが大変だったかも…!

家庭内暴力、ひとり親の貧困、ダブリンの住宅難…といった社会問題が盛り込まれているとのことで、ちょっと暗めのストーリーを想像していましたが、思いがけず瑞々しさみなぎる、勇気や希望を与えてくれる物語に感動。
「ダブリンの今」が、生粋のダブリンっ子である主演のクレア・ダンのダブリン・アクセント、等身大の街や人間模様でリアルに浮彫りにされているところがいい。ハリウッドで作られたフェアリーテイルではない、暮らしの場としてのダブリンが描かれています。
出演者やストーリー紹介の詳細を知りたい方は、こちらのサイトが詳しいです。
困難な時代を照らす奮闘と希望の感動作『サンドラの小さな家』4/2公開決定(Screen Online)



サンドラを取り巻く問題はダブリンに限らず、世界の多くの場所で今まさに起こっていること。アイルランドのことをまったく知らなくとも共感できる内容ではありますが、アイルランド好きには嬉しい「アイリッシュネス」もちゃんと盛り込まれています。
懐かしいクランベリーのヒット曲「Dreams」がかかったり、乾杯するときにちゃんとアイルランド語で「スローンチャ」と言っていたりするほか、私が着目した本作に見る「アイリッシュネス」2点を以下に挙げてみます。

①聖女ブリジッドのエピソード
アイルランドの聖人伝の中でも特にいい話で、私のいちばんのお気に入り。アイルランド初の女子修道院を開いた聖女で、ブリジッドと布にまるわる有名なエピソードが、主人公サンドラにインスピレーションを与えることに…。
これは私の独自の考察ですが、聖女ブリジッドとサンドラには共通点があり、物語のクライマックスでやっぱり!と合点がいって大興奮してしまったのですが、ネタバレになるので言えない~。
私の考察が制作者の意図と合っているか、クレア・ダンさんに聞いてみたいです。(笑)

劇場公開されるタイミングとはずれてしまいますが、間もなく2月1日の「聖女ブリジットの日」なので、今この映画を観た私には特にタイムリーでした。
肝心の聖女ブリジッドのエピソードについては、拙著『絶景とファンタジーの島 アイルランドへ』21ページ、または過去ブログをご参照ください。
キルデアの聖ブリジッド大聖堂(2016年6月)

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サンドラの2人の子がなんとも可愛い。オーディションを重ねて選んだ子たちとのことですが、いかにもその辺りにいそうな普通の子に見えたので、関係者の娘さんたちなのかと思ったくらいナチュラル

②「メハル(Meitheal)」の精神
本作が伝えるもっともパワフルなメッセージではないでしょうか。
「メハル」とは助け合う仲間を意味するアイルランド語。古代ケルトの社会では誰もが「役割(職業)」を持ち、金銭で報酬を得るのではなく、互いの役割を交換し合って暮らしていました。大工がみなの家を建て、農夫が家畜を育て、漁師が魚を獲り、詩人がエンターテインメントを見せ、頭脳労働に長けた人が政治をつかさどり…という具合に。
その名残りで、ひと昔前までのアイルランドでは、日々の暮らしにまつわる仕事は地域で共に行うのが普通でした。作物の収穫も、泥炭堀りも、今日はうちの土地、明日はお隣り、翌日はその隣り…と「労働を提供し合う」のです。(日本の田舎も昔はそうだったのではないでしょうか)
日常生活は、金銭の授受を伴わない「助け合い」によって営まれていたんですね。それを行う共同体が「メハル」です。

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家を建てようというサンドラのもとに徐々に人が集まってきて…

本作では、現代ダブリンの生きにくさ、弱者の孤立といった側面を浮き彫りにしつつも、サンドラを軸に形成されていく「メハル」にも焦点を当てています。
その精神に支えられるのはサンドラだけでなく、仲間になった人たちも。無償で協力することにより、お金ではない何かを得て変わっていく、その過程が実にさりげなく示唆されているのも素晴らしいと思いました。

折しもパンデミックの今、アイルランドではこの「メハル」が言及される機会が増えたように思います。
90年代にアイルランド初の女性大統領となり、その後も国連等で人権問題に広くかかわってきたメアリー・ロビンソンさんが、年末に出演したテレビのトーク番組で「メハル」について話しておられたのを思い出しました。今こそ「メハル」の精神で団結すべきときである、と。
その精神と社会構造こそが、小国アイルランドの底力です。資源もない、武器もない、病院のベッドも少ないけれど、人と人とのつながりを大切にし、他者を尊重することのできる人々がいる。この国の宝はそれにつきます。
新型コロナ禍でそのことをより強く感じる日々ですが、複雑になった社会の中でそれを維持していくことがより重要視されています。

この映画は新型コロナ以前に着想され、制作されたものですが、まるでこのタイミングに上映されることが運命づけられていたかのよう。
見終わって、押し寄せる感動とさまざまな想いで胸がいっぱいになり、長い長いウォーキングに出て気持ちを静めました。

原題は「Herself(自分自身)」。「Her」はもちろんサンドラで、サンドラの自分探しがテーマなのですが、脇役の女性陣たちの自分探しでもあるのかな、と思いました。
春の訪れとともに日本上陸。多くの方に観ていただき、想いをシェアさせていただけたら嬉しいです。

写真©Element Pictures, Herself Film Productions, Fis Eireann/Screen Ireland, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute 2020
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コメント

まっちゃん

はじめまして
面白そうな映画をご紹介いただきありがとうございます。私にとってアイルランドは、U2やホットハウスフラワーズ、浦沢直樹のマスターキートン、キーツ、イェーツ…。ぜひ、近くの映画館に足を運びたいと思います。

naokoguide

Re: はじめまして
まっちゃんさん、コメントありがとうございます。
マスターキートン、知らなかったのでGoogleしました。ダニエル・オコンネルって名の人が出てくる!笑
映画、ぜひ見に行ってみてください♪

Yama

メハル(Meitheal)」の精神
>日々の暮らしにまつわる仕事は地域で共に行うのが普通でした。作物の収穫も、泥炭堀りも、今日はうちの土地、明日はお隣り、翌日はその隣り…と「労働を提供し合う」のです。(日本の田舎も昔はそうだったのではないでしょうか)

「アンという名の少女」にありました。火事に遭った家の再建に近所の人たち総出で手を貸すというシーンが。

昔、といっても戦後のことです。日本の田舎でこういう風習がありました。
・結・ゆい 費用と期間、労働力が必要な作業を住民で助け合って行う。
       例:合掌造りの屋根を修理する 集落の道路を補修する。
私の田舎では
・手間替え・てまがえ そして頼母子講
繁忙時の農作業を賃金を支払うことなく、互いに提供しあっていました。
小学校に入ったばかりでしたが、この手間替で不思議だったことを今も思い出します。
「男と女の労働力がほとんど同じなのに価値に違いがある。女は男の7掛け」
「同じ男でも作業量が違い、能力が違うのに同じ価値を与えられる」
「男は作業が終われば休めるのに、そのあと女は食事作りや家事に追われる」
能力給、同一労働同一賃金、家事の分担や働き方改革。今ならこう表現されるでしょう。
7歳か8歳くらいだったか、こんなことを考えていました。そのまま成長すれば何かできたかもしれませんが、あとはグータラしてしまい今に至ります。
頼母子講は部落の私設銀行を兼ねていました。

貧しく、日々の生活をやり過ごすのがやっとの時代です。互いに助け合わなければ生きていけない時代でした。現在住んでいる土地は、戦後の開拓村です。いまもその助け合い精神が残っています。それを個人への介入と感じるか、助け合いと受け取るか、集落が揺れています。

「サンドラの小さな家」---観てみたいです。コロカ禍のなかだからこそ、感じる部分が大きのではないでしょうか。

今日は立春、農事の起点になる日です。

naokoguide

Re: メハル(Meitheal)」の精神
Yamaさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
メハルは昔はどの共同体にも普通にあったことなのだと思います。まさに、人間の暮らし、社会生活の基本なのでしょう。
それを特に表す言葉があるということが、アイルランドではより重要だったことを物語っていますね。

Yamaさんがおっしゃるように、現代社会ではそれを助け合いと取るか、おせっかいと取るか。それもわかるような気がします。今では隣り近所よりもっと遠くの広い世界とコンタクトする手段がたくさんありますから、そこに助けを求めることもできますからね。
ところがコロナ禍になって、物理的に近くにいる人にしか接触できなくなりました。やはり地域のつながりは大切だと感じますね。
非公開コメント

naokoguide

アイルランド公認ナショナル・ツアーガイド。長野県上田市出身、2000年よりアイルランド在住。趣味はサーフィン、バラ栽培、ホロスコープ読み、子供の頃からのライフワーク『赤毛のアン』研究。

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