アメリカ大統領の就任式、滞りなく終了しましたね。式の中継や、それに続く一連のニュースを見ていましたがバイデン大統領のご先祖の出身地であるアイルランドでは、アメリカ、アイルランドそれぞれにいる親戚の方に中継をつなぐなどして「アイルランド系の新大統領誕生」を祝賀ムードで迎える報道でした。
北西部メイヨー州バリナ、そして北アイルランド国境に隣接するラウス州クーリー半島にご先祖のルーツを持つバイデンさんは、19世紀半ば、「ひいひいひい」お祖父さんの代に移民した生粋のアイリッシュ・アメリカン。バイデンさんご自身も「I am Irish(自分はアイルランド人である)」を公言し、誇りにしておられます。
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次期アメリカ大統領当確バイデン氏のアイルランド系ルーツ(バリナとクーリー半島)(2020年11月)アイルランドのマイケル・D・ヒギンズ大統領もミホール・マーティン首相も早速に祝賀メッセージを発表し、ヒギンズ大統領は祝賀レターの始まりをアイルランド語で親しい人宛てに用いる「a chara(アハラ)」をつけて、「Dear Mr. President, Joe, a chara」としました。「友よ」と言った意味合いの、アイルランド語の手紙の慣用句です。
そしてマーティン首相はバイデン大統領を「アイルランドの真の友(a true friend of Ireland)」と明言し、二国の絆をより近しいものに築きあげましょう、とツイートしました。
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Taoiseach says Joe Biden will be 'true friend of Ireland' as world leaders pay tribute to new US President (RTE News)
就任式を見ていて個人的に着目したのは、新大統領はもちろん、あの場に出席していた歴代の大統領がみな先祖のルーツがアイルランドにある人たちだったこと。クリントンさん、ブッシュさん、オバマさん、そして健康上の理由で来られなかったというカーターさんも!
バイデンさんで46人目となるアメリカ大統領ですが、そのうち23人がアイルランドにルーツあるとのことですから、これで半数がアイルランド移民の子孫に。

アメリカ大統領のご先祖の地マップ。バイデン大統領も早速加わっています!(EPICアイリッシュ移民博物館の
ツイート記事より)
アイルランド系がアメリカ大統領になると任期中にご先祖の地を訪問するのが通例ですが、バイデン大統領はオバマ政権下での副大統領時代に訪問済みで、当地の親戚の人たち、そして政治家たちとも交流があります。
これから新たに関係を構築していくというのではなく、すでに「真の友」、同胞であり、ブレグジットで揺れる北アイルランド問題にも初めから理解を示してくれているという点でも、アイルランドにとっては大変心強いのです。
もう一点、今日の就任式でなるほど…と思ったのは、ガース・ブルックスの登場。レディ・ガガ、ジェニファー・ロペス、そしてまるで希望の象徴のような若き詩人アマンダ・ゴーマンさんに続き、カントリー歌手のガース・ブルックスが「アメイジング・グレイス」を熱唱しましたね。
ガース・ブルックスはアメリカではもちろんのこと、アイルランドでも熱狂的なファン層のある人気歌手で、数年前ダブリンのクローク・パークでコンサートが予定され大変盛り上がったことがあります。カントリー歌手なんてダサ…とステレオ・タイプのイメージを持っていた私は、老いも若きも「きゃ~、ガース・ブルックスが来るのよ~」と熱狂する様を見て大変驚いてしまいました。
結局そのコンサートは、スタジアム周辺の住民からの騒音に対するクレームで中止に追い込まれ、家族中でガースの大ファンというダブリン・ノースサイド育ちのコテコテのダブリンっ子である友人イデールががっくり落ち込んでいたことを思い出します。(私より10歳も若いイデールがなんでガースなの~といまだに思ってしまう・笑)
今日ガースが歌うの見て、ああ、レディ・ガガより、ジェニファー・ロペスより、こちらが「ザ・アメリカン」なのかもしれない…とあらためて思ったのでした。要するに、トランプさんの支持層の厚いアメリカ中西部代表がコレなんだ、と。
当地のRTEニュースに出演していたコメンテーターもそんなことを言っていましたが、今日の就任式で強調されたことは分断ではなくアメリカの結束(united)。共和党支持の強い中西部(ガースはオクラホマ州出身の歌手)からガースを引き出してきたことにも意味があったと。
そして熱唱された「アメイジング・グレイス」はオバマさんが大統領のとき、チャールストンの乱射事件の犠牲者の葬儀に出席して、あまりの悲しみに言葉が出ず、思わず歌ってしまった…ということがありましたが、そもそもアメリカへ黒人奴隷を運んでいた奴隷船の船長ジョン・ニュートンが改心して作詞した曲。ニュートンは嵐で難破しかけた船の修繕を待つ間、アイルランド北西部の現・北アイルランドのデリー/ロンドンデリーに滞在し、そこで教会に通うようになり改心への道を歩みだします。ですから、デリーの聖コロンバ教会で生まれた歌だとする説もあります。
ちなみにバイデン大統領はアイルランド文学がお好きで、いずれもノーベル文学賞作家であるシェイマス・ヒーニー、W.B.イェイツのファンであることが知られています。過去のスピーチでもヒーニーを引用していますね。
昨日、ワシントンDC入りするにあたり故郷のデラウェアを発つ際のスピーチで、ジェイムズ・ジョイスを引用して、思わず涙ぐまれる一幕も。
ジェイムズ・ジョイスが死に際に「(故郷の)ダブリンは私の心に書き記されるでしょう」と言ったのを引用して、「デラウェアは私の心に書き記されるでしょう」、と。病気で早世した息子のボウさんのことや、大統領になるまでの険しい道のりを思い出して感極まわれたのでしょう。
就任当日から早速お仕事を開始されたようですが、お身体大切に4年間の任期を乗り切っていただきたいと心から思います。
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コメント
Wada
2021/01/21 URL 編集
naokoguide
日本の世論で気になるのは、バイデンさんの年齢をネガティブにとらえる人が多いことです。昨日の演説しているときのバイデンさん、目がキラキラしてました。仕事をするのに実年齢はあまり関係ないでしょう、若くても心が年寄りの人もいますしね。
今のアメリカをまとめていくには、職務の経験も人生経験も豊富な落ち着いたバイデンさんのような人がふさわしいように私は思いました。年の功で解決したり、判断できることも多いのでは。若さと賢さは同じ肩に乗らない…って文豪イェイツも言ってます(笑)
2021/01/21 URL 編集