ブレグジットの影響が次第に目に見えて現れてきました。
昨年末、期限ギリギリでなんとか離脱協定に合意し、1月1日(時差のためアイルランド、イギリスでは12月31日23時)よりイギリスは正式にEUを離脱。
アイルランドにとって安全上の懸念事項として重くのしかかっていた北アイルランド国境に税関を設ける事態は二転三転しつつも回避され、1998年の北アイルランド紛争終結時の和平協定を死守。よって、北アイルランドはEU単一市場にとどまることとなり、離脱後は配当されないのでは…と心配された紛争後の和解プロジェクトの資金も、継続してEUより払われることになりました。
この点に関しては一見落着。ただ、こうなってくると、北アイルランドはEUに片足を突っ込んだままであり、それなら地理的にも貿易面でももうアイルランドになった方が自然なんじゃ…と世論が高まるのは必至。過去20年当地に住み、紛争関係の取材コーディネートなどを折に触れてさせていただき至近距離で北アイルランドの移り変わりを見聞きしてきた者としては、かつては絶対あり得ない!と感じていた統一アイルランドの実現も、将来的には起こり得るかも…と思えてくるのでした。
ブレグジットは「合意した」と報じられ、なんだか友好的にイギリスが「主権の回復」に成功したかのような印象ですが、イギリスとともに1973年にEU(当時のEC)に加盟し、地理的にも貿易面でももっとも密接に関係してきたアイルランドにとって、「合意なし」のハードブレジットよりはましだったけれど、じゃあ影響がないかというとそうではありません。
EUが加盟国の中でブレグジットにより経済的ダメージを被る国や団体へ50億ユーロ(約6250億円)の支援をするそうですが、アイルランドがその5分の一に当たる10億ユーロ(1260億円)をもらい受けるとのことですから、その配当の大きさからからアイルランドへの影響がいかに甚大かがうかがい知れます。
最後までイギリス、EU両者が譲らなかった漁業権をめぐる海域の取り決めですが、5年間かけてEU漁船が立ち入ることの出来る範囲を少しずつ狭めていくことで合意。その後は毎年交渉するらしいですが、EUの漁業従事者は、じわじわと首根っこを閉められるような気持ちでしょう…。
アイルランド近海の魚は3分の一以上がイギリス海域から泳いでくるそうですから、海域を狭めらることは死活問題。イギリスへの輸出に依存している生産者やメーカーも大変ですが、もっとも直接的に影響を受けるのは漁師さんたちでしょう。魚がいるところへ撮りに行けなくなり、イギリス漁師の網を逃れてこっちに泳いでくるのを待つしかないなんて。アイルランドまで泳いできたときには泳ぎ過ぎて痩せちゃって、脂も抜けてる…。
そして、たとえ合意しても通関手続きが必要なことには変わりなく、それも手続きが変わるので港で混乱が起こると予想されており、今まさにそれが現実となっています。
ブリテン島からアイルランドへモノを運ぶトラックは、ウェールズのホリーヘッド港からフェリーでダブリン港へやって来ます。先週、ホリーヘッドではアイルランド行きの輸送トラックの25%が書類不備で海を渡れず、引き返すという事態に。システムの変更や業者の理解が追い付いていないことが原因のようです。
通関業務そのものにも以前より時間がかかっており、スタッフが新しい仕組みに不慣れな上、これまでの人数ではこなせない。ドーバー海峡をユーロトンネルで通過したイギリスのトラックがフランスやオランダの入国関税で足止めを食らい、何十時間もトラックに缶詰詰め状態になった上、長距離移動中に食べようと思って家から持参したサンドイッチを肉が入ってるから持ち込み禁止!と没収された…なんて話も。
このままでは港に輸送トラックがあふれてしまう…ということで、先週イギリスがEUおよび北アイルランドへの物資の輸送を一時停止する事態に。今は再開されたようですが、アイルランドに到着するモノの30%が書類不備で通関できていないそうですから、イギリスから届くべきモノの多くが届いていないわけです。
アイルランドのイギリス系スーパーマーケットチェーンのマークスアンドスペンサーでは、売り場が品薄になっていると報じられ、アイルランド以上にイギリス製品が多い北アイルランドの店舗からは、空っぽの棚がニュースで映し出されていました。
今日、目医者の予約がありシティセンターへ出かけたので、医者の数軒隣りにあるマークスアンドスペンサーに立ち寄ってみると、ニュースで言われている通りでした!
加工食品は肉も魚も乳製品も品薄。生鮮食品は大きな棚がいくつも空っぽでシャッターが閉められていました。マークスはいつも生花や鉢植えの花がたくさん売られているのに、それもほとんどなかった。
こちらからイギリスへ運ばれるモノのことは、今のところあまり言われていません。離脱協議中は「合意なし」になったら輸出業者がこんな打撃を受けることになります…という報道があったけれど、合意したから大丈夫なのでしょうか。
なんてことを思っていたら、昨日のニュースで、しばらくしたらそちらも影響が出るでしょう、と言っていました。
郵便受けに、郵便局からのこのような用紙が配布されていました。

ブレグジット後、アイルランド-イギリス間の郵便がどう変わるかの説明
これによると、以下のようになったそう。
アイルランド-北アイルランド間は変更なし
アイルランド→(北アイルランドを除く)イギリス
・手紙…これまでと同じ
・小包…EU圏外の国へ送るときと同様に税関書類の記入が必要
(北アイルランドを除く)イギリス→アイルランド
・手紙…これまでと同じ
・小包…関税がかかる。オンラインでモノを購入した場合、95%の会社は購入時に関税を徴収するが、残り5%はモノを受け取るときに支払いが必要。個人からのギフトを受け取る場合は45ユーロ以上のモノには関税がかけられるので、受取時に支払いが必要
ひぇ~、やっぱりイギリスからモノを買うと、関税かかるんだ!合意したからかからないのかなあ…ってなんとなく思っていたけれど、それは43ユーロ未満の場合でした。
実はレベル5の制限下でガーデンセンターも閉店したと勘違いして、年明けにイギリスからディヴィッドオースティンのバラの裸苗を注文してしまいました。(ブレグジット後にモノを買うとどうなるか見てみたい…という好奇心もあった・笑)
その後、ディヴィッドオースティン社からは音沙汰ないままにイギリスからの輸送が一時停止されたりしたので、港で足止めになって苗が枯れるよりマシ、と思っていましたが、このまま注文がキャンセルされるといいなあ…って気になってきました。手続きの煩雑さからアイルランドへの輸送をあきらめるイギリスの会社が続出し、買ったものがキャンセルされる事例が続いていると聞いたので。
(注文したのと同じ品種のバラ苗が売られていたら悲しすぎるので、近所のガーデンセンターへ土を買いに行きたいのに行けない~・涙)
ブレグジットの苦境を越えて無事に苗が届いたら、その時にはまたお知らせします。(笑)
※ブレグジットに関する関連過去ブログ→
ブレグジットでチップスとサバが危機?…そして大統領が反英に釘を刺す(2020年12月6日)
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