20世紀を代表する画家としてピカソと並び称せられる、ダブリン出身のフランシス・ベーコン(Francis Bacon、1909–1992)。
その貴重な初期絵画や素描、資料など約130点が、今週末より神奈川県葉山で日本初公開されるそうです。
フランシス・ベーコン バリー・ジュール・コレクションによる会場 神奈川県立近代美術館 葉山館 展示室2–4
会期 2021年1月9日(土曜)– 4月11日(日曜) ※1/11を除く月曜休館
時間 午前9時30分 – 午後5時(入館は午後4時30分まで)
観覧料 一般1,200円(学生、シニア割引あり)
フランシス・ベーコンの作品はダブリンのヒュー・レーン・ギャラリー(
Hugh Lane Gallery, Dublin 1)にある数点しか見たことがないので、もし日本にいたらぜひ行きたい。
画風は唯一無二。人物の顔を歪めるなどデフォルメした肖像画で知られ、生前から知名度はあったものの、より評価が高まったのは死後のようです。
ベーコンの画家としての活動拠点は主としてロンドンでしたが、生まれはダブリン。幼少から少年時代の多くをアイルランドで過ごしています。
競走馬の調教師だったイギリス人の父と、鉄鋼や炭鉱を相続していたオーストラリア人の母のもと、裕福な家庭で生まれ育ったベーコンは、当時の上流家庭の習慣に従いナニー(乳母兼教育係)に育てられました。
一家はアイルランドとイギリスを行ったり来たりして暮らしていたため、子ども時代のベーコンは二国間で何度も生活の場を変えることを余儀なくされ、それがのちの流浪癖につながったとも言われます。
日本で展示会があると知り、今日はウォーキングの途中、ダブリン市街地のバゴット・ストリート(63 Baggot Street Lower, Dublin 2)にあるベーコン生家を通ってみました。

ダブリンの上流階級が暮らした17~18世紀建立のジョージアン・タウンハウス。現在は下層階はオフィス、上層階はおそらく住居と思われますが、当時は天井の低い最上階を子ども部屋にすることが多かったので、赤ちゃんのベーコンがナニーと暮らした部屋はあそこかなあ…なんて思って見上げてみました

鮮やかなオレンジ色に塗られたドアに見事なクリスマス・リース(年明けしばらくはクリスマスの飾りはまだそのまま)

ドアの横には「1909年10月28日、芸術家フランシス・ベーコン、この家に誕生」と記されたプレートが
ダブリンのほか、カウンティー・キルデアのストラッファン (Straffan, Co. Kildare)、カウンティー・リーシュのアビーリークス(Abbeyleix, County Laois)にも暮らしました。
LGBTだったベーコンは子ども時代から女装癖があり、16~17歳のとき、ストラッファンの屋敷で女性の衣装に身を包んだ息子を見た父親が激怒。勘当されてロンドンへ渡ったようです。
ダブリンにはもう一か所、ベーコンゆかりの重要な場所があります。
1961年から亡くなるまでの約30年間、数々の傑作が生まれたロンドン、サウスケンジントのベーコンのスタジオ(7 Reece Mews, South Kensington, London)が、そっくりそのままダブリンに移築されています。
休暇中のマドリッドで82歳の生涯を閉じた6年後の1998年、遺産相続人の元恋人と友人により、ヒュー・レーン・ギャラリーに寄贈されました。→
Francis Bacon Studio(Hugh Lane Gallery)
昨年8月、新型コロナの制限が緩和されていた時期に久しぶりにヒュー・レーン・ギャラリーを訪れ撮影した写真。まるで昨日まで画家本人がいたかのような煩雑なスタジオをこんなふうに窓からのぞき見ることが出来ます。ベーコン死後、多くの素描や作品がここから見つかりました
ベーコンの生涯で特に私の残っているエピソードは、1963年のある晩、天窓からベッドの上に落ちてきた若い男性の泥棒にひと目惚れしちゃう話。警察に言わないから俺の恋人になってくれ!と口説いたのだとか。(そうではなくパブで会った、という説もあり)

その天窓も、ちゃんと保存されています!
彼の名はジョージ・ダイアーと言い、数々のベーコン作品のモデルとなりました。犯罪者でアル中というどうしようもない年下の恋人にすっかり入れこんじゃって、ダイアーが自死したときには精神を病む一歩手前に。その後数年間にわたり彼の肖像を描き続け、その中からのちに大傑作とされる作品群が生まれています。

ヒュー・レーン所蔵のベーコンの作品。左奥は1966年作「Seated figure and carpet(座った人と絨毯)」
葉山のベーコン展は4月まで開催。日本もコロナの影響で目下、移動がままならないかと思いますが、お近くの方はぜひ出かけてみてはいかがでしょう。
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