今月初めに発売された絵本
『インディゴをさがして』(小学館)という物語の世界観が壮大かつ美しく、何度も読み返しては感激しています。

昨年アイルランドをご案内させていただき、そのご縁で
大学でイェイツの話をさせていただくなど貴重な機会を私にくださった英文学者の早川敦子先生の翻訳。
インディゴという名の、色に話しかけたり、色を誘い出したりすることの出来る不思議な力を持つ少女の物語で、全ページが横須賀香さんの素敵なイラストで埋め尽くされた大人の絵本と言いたくなるような贅沢な一冊です。深さによって2色のブルーになる海や、虹のかかった入り組んだ海岸線の景色など、アイルランドを彷彿とさせる絵も。
物語に描写されている昼と夜の、空と海の、太陽と雨の境い目が生み出す色のマジックは、私がアイルランドの暮らしの中で日々感じ、味わっている感覚そのもの!それもそのはず、作者のクララ・キヨコ・クマガイさんは、アイルランドで育った日系アイルランド人の方なのです。
クララさんには昨年日本で、早川先生のご紹介でお目にかかりました。クマガイさん…という苗字を聞いて、もしかして…と思ってうかがってみると、思ったとおり、アイルランド西部で長きにわたり西洋料理や日本料理のシェフをしておられた方のお嬢さんでした。
お父様のクマガイさんは、セント・クラレンス(
St Clerans)というアメリカ人の映画監督ジョン・ヒューストンが住んだことで知られるマナーハウス・ホテルのシェフとして有名だった方で、ホテル閉鎖後もリムリックで、そして
ゴールウェイの日本食レストランでご活躍でした。
残念ながらどちらのレストランも今はなくなってしまいましたが、両レストランで何度かおいしいお寿司を握っていただきました。お寿司で作ったデザートや、関西風の押し寿司も私には珍しく、お連れしたお客様も皆さんいつも大喜びでしたので、「お父様のお寿司、おいしかったです!」とクララさんにお話し出来て嬉しかったです。
さて、そんなアイルランドと日本の両文化に育まれたクララさんの物語は、アイルランドの妖精物語や伝説を下敷きに、染色家で人間国宝の志村ふくみさんの「藍色」にインスピレーションを得て生まれたのだそう。
志村ふくみさんと言えば私にとっては「教科書の中の人」。大岡信さんの「言葉の力」でしたよね、あの起承転結のお手本とされる有名なエッセイに出てくる、今から30年以上も前の中学生さえも「スゴイ人」として知っていた、あの、志村ふくみさん。
巻頭には志村さんの詩が、巻末には娘さんで同じく染色家の志村洋子さんの「藍建て」についての解説があり、これがまた興味深いのです。
先だってちょうど、昨年アイルランドをご案内させていただいたお客様で、
ブログ名・雲外蒼天さんがご自身で育てた藍で生葉染めを実践されたという体験記を読み、へぇ~、インディゴ・ブルー(藍色)はこうやって生まれるのか!と非常に興味をそそられていたところでした。ブルーになる前はエメラルド・グリーン色であることにも驚いたばかり。
そのことがまた、生葉染めとは別の「藍建て」という、私が初めて耳にする言葉で説明されていたのです。「藍建て」とは瓶の中で発酵させる染め方で、志村さんは月の満ち欠けに合わせて藍を仕込むのだそう。なんて神秘的!
藍は人類最古の染料と言われ、紀元前3000年のインダス文明の遺跡からも染織槽跡が発見されているそうです。
実は私が藍に興味をひかれるのには理由があって、ダブリンのトリニティー・カレッジにある紀元800年頃に作成されたとされる国宝級の彩色写本『ケルズの書』(
Book of Kells, Trinity College Dublin)のブルーの顔料も藍(インディゴ)だから。
実は『ケルズの書』のブルーは長い間、アフガニスタンからもたらされたラピスラズリだと推測されていて、私がガイド業を始めたころはそう説明していました。ところが最新の研究でそうではないということが分かり、ある時から解説書がいっせいに、ラピスラズリからインディゴに書き変えられたのです。
そうか、鉱石ではなくて植物だったのか!…と通説がくつがえったという筋書きがドラマチックで気に入っていて、お客様にもよくお話しているストーリーですが…。
この「ケルズの書」のインディゴについてもうちょっとお話ししたいのですが、今日はラップトップがどうにも調子が悪く電源が切れてばかりいるので、続きはまた明日以降にさせてください!
【関連情報】
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新刊絵本『インディゴをさがして』と「ケルズの書」のインディゴのこと…続き
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