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移民が伝えたハロウィーンと、『アンの愛情』デイビーのお化け提灯のこと

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友人クリスティーン作のカボチャ提灯が素晴らしい出来で感激!

ここ数年、ハロウィーンの発祥地はアイルランド!…と日本でさかんに言われるようになりましたが、地元アイルランドでは「え?そうなの?」といった感じ(笑)。
こちらでは古い起源や習慣は忘れられ気味で、ハロウィーンといえば今やアメリカ式の「トリック・オア・トリート」が主流に。今年は新型コロナ禍で自粛のため、バーンブラック(ハロウィーンに食べるとされるドライフルーツ入りのパン)にコルカノン…といった昔ながらのアイルランドの風習に立ち返る良いチャンスかもしれません。
※関連過去ブログ→映画『イン・アメリカ』に見る「青い人」と80年代のアイルランド移民

ハロウィーンの起源は、古代ケルトの年越し祭サウィン(Samhain=アイルランド語で「1月」の意)。
ケルト暦の大晦日にあたる10月31日の夜は、モノゴトが移り変わり、時間と空間の境目があいまいになるとき。その隙間をぬって死者の霊が家族に会いに降りてきたり、妖精や魔女が忍び込んでくると考えられていました。
人々は悪霊や魔物よけに恐ろしい仮面をかぶり、焚火(Bonfire)をしました。現代のハロウィーンの仮装パーティーの習慣はここからきたもので、ダブリンで花火や爆竹がさかんに鳴り響き、ティーンエージャーたちが焚火を企てるのもそのためですね。
(花火や爆竹は違法ですし、焚火も危険。さかんに注意がうながされ、消防署も大忙しで困ったことです…)


ハロウィーンの起源についてとてもわかりやすく説明している動画

このサウィンの習慣がアイルランドやスコットランドからの移民によりアメリカ大陸へ伝えられ、上記動画で説明されているとおり、カブ提灯だったものがアメリカでカボチャ提灯となり、それが逆輸入されて広まった…というわけです。

先日『アンの愛情(Anne of the Island)』を再読していたら、「a jacky lantern(ジャッキー・ランタン=ハロウィーンの提灯)」が出てきて驚きました。新潮文庫の村岡花子訳では「お化け提灯」と訳されていたので気が付きませんでしたが、いたずらっ子デイビーがこの提灯でリンド夫人をびっくりさせたと書かれています。
物語の時代設定は1880年代、発表は1915年。この頃すでにプリンス・エドワード島ではハロウィーンの習慣があったようですね。
気になったのは、デイビーの提灯がカブだったのか、それともカボチャだったのか、ということ。アヴォンリーの人たちはよく「カブ(turnips)の種をまく」という話をしているので、カブは身近な野菜だったはず。
一方、カボチャ(pumpkins)は、アンのアヴォンリー時代には出てきません。『アンの幸福(Anne of Windy Willow)』(時代設定1890年前後、発表1936年)で初登場し、アンが砂糖漬けを褒めたら好物だと思われてどこの家でもそれを出されてうんざり…とギルバートへの手紙に書いていますね。(第4章)
もしかしてこの頃カボチャはプリンスエドワード島全土にまだあまり普及しておらず、アヴォンリーよりちょっと都会のサマーサイドに来て初めて食べたせいで、アンは珍しさも手伝って熱狂的に褒めてしまったのでは?…なんて気がするのですがどうでしょう。

シリーズ後半になると、秋の収穫シーズンにはカボチャが身近にあったことがうかがわれます。
『炉辺荘のアン(Anne of Ingleside)』(時代設定1900年前後、発表1939年)には、「死んだ人の魂はハロウィーンによみがえるの?」と幼いジェムが尋ねる場面があり、その直後にグレン村の納屋には「大きな黄色いカボチャが山積み」とあります。(第27章、新潮の村岡訳では第29章)
『虹の谷のアン(Rainbow Valley)』(時代設定1906~07年、発表1919年)では、フェイスを牧師館へ送り届けるノーマン・ダグラスの馬車にリンゴやキャベツ、ジャガイモなどと一緒にカボチャが積まれています(第16章)。
いずれも季節は10月のようです。アンの子どもたちはこのカボチャをくり抜いて提灯を作ったのかしら…なんてついつい想像してしまいますが、もしも彼らがハロウィーンを祝っていたとしたら、大人になったデイビー叔父さんは「ボクが子どもの頃はカブだったんだ~」などとジェムたちに話して聞かせたのかしら…と勝手な妄想をしたりして。(笑)

ちなみに、私がアイルランドに来た20年前には、オレンジ色の大きなカボチャってここにはまだなかった気がします。
スクワッシュという瓜型の水っぽいものしかなくて、あー、カボチャの煮物が食べたいなあ、って思っていましたから。
最近は日本のカボチャに限りなく近いものも出回っているので、この秋は煮つけにしたり、キノコや白菜、うどんなど材料が手に入った時に「ほうとう」もどきを作ったりして、おいしい秋を楽しんでいます♪

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先日作った「ほうとう」。やっぱりアイルランド版はこれでしょう、とジャガイモも入れちゃいました

では皆さん、今晩は悪霊にさらわれないようお気をつけくださいね。
Happy & Spooky Halloween! 👻👻👻

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コメント

松井ゆみ子

かぼちゃ
かぼちゃ!で反応してまたコメントしちゃいました〜
面白い〜かぼちゃはずっとアメリカ全土でポピュラーな食材と思ってましたけど、メキシコ界隈が原産で、カナダまで行き着くまでには時間を要しているんですね。なおこさんが書かれていたように、カナダではターニップの方が一般的で、かぼちゃは新顔だった時期があったはず。アイルランドでかぼちゃが作られるようになったのは、アメリカのハロウィンの習慣の逆輸入ですが、ビニールハウス栽培が普及し始めたことで栽培が可能になったのだと思います。地植えしてる農家もあるのかな、それで育ってたら温暖化の影響かも〜
昨日はスライゴー産の栗かぼちゃで焼き菓子をたくさん作りました。ヨーロッパから日本に渡ったかぼちゃが”逆輸入”の形でアイルランドで育てられているの。(この間、なおこさんに差し上げたやつ)甘みは日本産より若干少ないので、お砂糖加える気持ちがわかる!面白いサブジェクトをありがとう〜クリスティーンのがぼちゃアート、サイコー!ゆみこ






naokoguide

Re: かぼちゃ
ゆみ子さん、こんにちは。
そうなの、小説の記述からの推測でしかないのですが、この頃すでにカナダ本土までは北上していたとしても、プリンスエドワード島は端っこの島なので、そこまで届くには時差があったんじゃないかと思うんですよね。
移民は移民先で固まりますから、プリンスエドワード島のアイルランドなりスコットランド移民コミュニティーは、離島という地理的条件も加わって、より外部からの影響を受けにくく、本国の習慣を長く続けたんじゃないかと思うんですよね。ハロウィーンだけでなく、さまざまな面において。

ゆみ子さんのカボチャ焼き菓子、食べたい~。近所だったら絶対、トリック・オア・トリートに行っちゃう(笑)。
クリスティーンのカボチャ提灯、力作ですよね!会社でコンペしたらしい。優勝間違いなし!って私は思ってるんですが、どうでしょう。
非公開コメント

naokoguide

アイルランド公認ナショナル・ツアーガイドの山下直子です。2000年よりアイルランド在住。趣味はサーフィン、アイススケート、バラ栽培、ホロスコープ読み、子供の頃からのライフワーク『赤毛のアン』研究。長野県上田市出身。

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