10年ほど前にJALの会員誌「アゴラ」でアラン・セーターをテーマに取り上げていただいたとき、発祥地のアラン諸島のほか、チャネル諸島のガーンジー島の取材コーディネートもして欲しいと依頼されたことがあります。
アラン・セーターなのになぜガーンジー島かと言うと、そもそもアラン・セーターはガーンジー島のセーターが進化したものであるから。
リサーチを進めていくうちに、現在のガーンジー島はニット産業があまりにも廃れてしまっていることがわかり、取材すべき素材もなく行かないことになったのですが。
アラン・セーターがガーンジー・セーターから発展したことは、日本におけるアラン・セーター研究の第一人者であるジャックノザワヤの野澤弥一郎さんが、このように書いておられます。
アラン諸島の漁業基地に出入りしていたスコットランド人家族のガンジーセーターがベースとなり、そこにアメリカ帰りの天才的編み手の女性が持つ技巧が融合し、島独特の派手好みの美的感覚から、見事な装飾性あふれたセーターが出来ていったのだった。
普段編むのはガンジーセーターと同様に紺色だったが、教会の堅信礼(わが国の元服式にあたる)に際し、母親は十二歳になる息子の晴れ姿のため、とびっきり豪華な白いセーターを編んだのだった。
Jack Nozawaya ジャックノザワヤさんのHP→アランセーターの真実「アランセーターの発祥」より
さらに詳しく知りたい方は、野澤さんの素晴らしいご著書をぜひ。→
書籍CDと映像DVDのご案内なぜガーンジー・セーターの話をしたかと言うと、いよいよ今週末に迫った、
私もオンラインで登場させていただく秋のケルト市にも出店されるジャックノザワヤさんのHPを拝見していたら、
今シーズンのガーンジー・セーター入荷のニュースと共に、こちらの映画の紹介があったからです。

『
ガーンジー島の読書会の秘密』(The Guernsey Literary and Potato Peel Pie Society)(2018年イギリス・フランス)
野澤さんの「WWⅡ当時フランスを押さえたナチスは沖合のチャネル諸島まで侵攻していて、チャネル諸島は英国で唯一ナチスに占領された経験を持ちます」という一文にがぜん興味をかき立てられ、かつてガーンジー島へ行き損ねたことも思い出して、早速アマゾンプライムで視聴。
読書会というテーマも今まさに私がしていることであり、タイムリーな気がしました。(一昨日のブログ参照→
オンライン読書会『アンの青春』)
第2次世界大戦の終戦まもない頃のガーンジー島の物語。筋書や内容もとても良く、胸を打つものでしたが、本好き、文学好きにはいろいろな作家や作品名が出てくるのも嬉しい。
『アン・ブロンテの生涯』を読んでブロンテ姉妹の作風を議論するシーンや、W.B.イェイツの名もちらり出てきますし、エンドロールはまるで読書会で論じられている作品の早押しクイズのよう。オスカー・ワイルドは私にもわかりました!
本は読むべき人の手にわたるものである、人の縁を運ぶものである…といった、本好きなら体感したことのあるセリフにも共感。
一冊の古書をきっかけにドラマが生まれる…という設定も、本が特別な力を持っていた時代を思わせます。私も『アン』好きが高じて初めて行ったプリンス・エドワード島でモンゴメリ作品の初版本を探して買ったとき、持ち主の名や、プレゼントした人のメッセージが書かれているのを見て「ああ、この本は歴史を吸い込んでいるのね」と感激したものです。
昔は知識や情報は本から得るしかなく、かといって誰もが字を読めたわけでもありませんでした。
アイルランドの中世の修道院などでは、本(当時は聖書)は絶対に床に置いたりしなかったそう。本を入れるための皮袋をつくり、壁に吊る下げて大事にしたそうです。修道士が住まいとしていた石の洞(ほこら)に、本袋を下げるフックが残っているのを見たときは歴史の証人になった気がしてゾクゾクしました。
本の中には全知識がある→魔法が宿っている、とも考えられ、マジカルな存在としてあがめられたそう。現代のファンタジーでも○○の書を探せ、とか、やっと見つけた書がピカーンと光り輝いたりするシーンがあったりするのは、そのような歴史の裏付けからくるのでしょうね。
ちなみにこの映画の原題は読書会の名称で、「ガーンジー島ジャガイモの皮のパイ読書会」と言います。戦時中にドイツ軍から身を守るための口実として生まれた読書会がなぜそう命名されたのかは、ぜひ映画を見てみてください。
『ダウントン・アビー』好きにも嬉しい作品です。主人公ジュリエットを演じているのは、なんと『ダウントン・アビー』のローズ役の女優さん。さらに、お産で亡くなった三女のシヴィル役と、昨年公開の映画にも出ているミセス・クローリー役(メアリーの最初の夫マシューのお母さん)の女優さんも重要な役どころで登場しています。(シヴィル・ファンなので嬉しい♪)
さらに、ドーシーは『ゲーム・オヴ・スローンズ』のダーリオ役ですし、ジュリエットが泊まる宿の偏狭な女将さんシャーロットはどこかで見たことがあるなあ、と思ったら、『コミットメンツ』に出ている北アイルランド出身の女優さんでした!なつかしい。
肝心のガーンジー・セーターですが、ドーシーが着ているネイビーのセーターがそうみたいです。(野澤さんに確認済み)
アランのような編み込みはないシンプルなセーター。着古して首回りに穴が開いているのもいい感じです。昔はこうやって、同じセーターをずっと着たんでしょうね。
アイルランド関連の作品ではないけれど、
アイルランドが舞台の『ローズの秘密の頁』のような映画が好きな方にはお好みかなと思い、ご紹介させていただきました。
年齢、性別、バックグランドがバラバラの隣人たちの集いの雰囲気や、クライマックスの感じは、ちょっぴり『ノッティングヒルの恋人』のノリ?(笑)
- 関連記事
-
コメント