FC2ブログ

記事一覧

アイリッシュ・ロマネスクの至宝、クロンフェルト大聖堂

先日イニシュマーン(Inis Meain, Aran Islands, Co. Galway)へ行くのに内陸部を通ったとき、少し回り道をしてクロンフェルト大聖堂(Clonfert Cathedral, Co. Galway)に立ち寄りました。
アイリッシュ・ロマネスクの至宝とされる12世紀のファサードが現存する聖堂。大型バスの行けない辺鄙な場所にあり、これまでずっと行きたいと思いながら訪れるチャンスがなかった場所です。

clonfert0820
カウンティー・ケリー(Co Kerry)の守護聖人である「航海士」聖ブレンダン(St Brendan the Navigator)により、6世紀半ばに創始。現在の教会は12世紀建立

繁栄期には約3000人の修道士が暮らしていたというキリスト教の一大コミュニティーでしたが、現存するのはこの聖ブレンダン大聖堂のみのようです。
度重なるバイキングの襲撃で破壊、再建を繰り返し、ヨーロッパ大陸から伝来したロマネスク様式で12世紀後半に再建された姿を今に留めています。

clonfert08202
この教会を有名にしている入り口の西のアーチ。まるで司教の帽子のような三角形を配した、ロマネスク様式の典型的な馬蹄型アーチが6層にも重ねられています

アイルランドの初期キリスト教会はロマネスク様式伝来以前に破壊されたか、次の流行であるゴシック様式で改築されたか、そのどちらかである場合が多く、ここまで完全なロマネスク・アーチが現役の教会に残っているのはまれです。
ダブリンのクライストチャーチ大聖堂(Christ Church Cathedral, Dublin 2)、ロック・オヴ・キャシェルのコ―マック聖堂(Cormac's Chapel, Rock of Chashel, Co. Tipperary)(廃墟)など、あるにはありますが、アーチの上に三角形を配するこのスタイルは珍しく、ここ以外では見た覚えがありません。

clonfert08203
ロマネスク建築の特徴であるブラインド・アーチ(見せかけだけのアーチ)の技巧が見てとれますが、人頭が組み込まれているのがいかにもアイルランド流。その上の逆三角形にも4段にわたり人頭が…

人頭のモチーフは、前キリスト教のケルトの思想の名残りだと言われます。精霊信仰のケルト人は人頭崇拝があり、人間の頭部には強い精霊が宿っていると考えたよう。戦場から敵の武将の頭部を持ち帰ることが手柄を立てた印であり、頭蓋骨を割って脳髄を取り出し、石灰と混ぜてボール状に固めて家宝にした…なんて部族もあったとか。

clonfert08204
砂岩のアーチ。表面はだいぶ摩滅しているものの、抽象的なモチーフが規則的に繰り返される様が美しい

clonfert08205
アーチ下の柱頭には動物の顔、その上の細い部分に植物のようなモチーフ。アーチにキリスト教の聖人のモチーフが一切ないのもアイリッシュ・ロマネスクの特徴。この時代はまだ、前キリスト教の自然崇拝の影響が色濃いのです

教会の鍵は隣りの白壁の家が管理しているのでそこで借りて開けると聞いていましたが、この日は開いていました。

clonfert0820inside
内部は主に15世紀、窓のかたちがアーチに尖りのあるゴシック様式です。木の天井は近年の修復と思われますが、美しいロマネスク様式

内陣のアーチにも注目すべき彫刻があります。

clonfert0820inside3
まずは向かって右(南)の、このパイプオルガンのある側を見てみましょう

clonfert0820inside4
アーチ内側に、私が見たかった彫刻がずらり。下から順に見ていきますと…

clonfert0820inside5
有名な人魚の彫刻!みんなが触るせいか、テカテカに黒光りしていました

ここに聖地を開いた「航海士」のニックネームを持つ聖ブレンダンは、弟子を連れて小舟で新大陸を発見したと言い伝えられている人物(到達したのはどうやらアイスランド島だったらしいですが)。その航海物語はギリシャ神話の『オデュッセイア』をなぞらえたような話で、それにちなんでセイレーン(人魚)が彫られたのでしょうか。

clonfert0820inside6
人魚の上にはロゼット状の何やら意味深な結び目が。これとよく似た彫刻が、スライゴ・アビー(Sligo Abbey, Slibo)の回廊にあります

clonfert0820inside7
そして3人のエンジェル!

clonfert0820inside8
さらにその上、大天使ミカエル風の彫像の足元に、トカゲみたいな生き物が…

clonfert0820inside2
次に向かい側、向かって左(北)の19世紀の美しいオーク材の説教壇のある側が見て見ましょう。やはりこちらの内陣アーチ内側を見ると…

clonfert0820inside9
こちらにも3人のエンジェルと、その横に…

clonfert0820inside10
このモチーフは何でしょう?何やら、航海で使う楔(くさび)とか、杭とかに見えるのですが…

clonfert0820inside11
こちらも同様に見えますが、縄編み。凝ってる!

clonfert0820inside12
そしてやはり、ここにもトカゲみたいな生き物が。柱のもっと高いところにも、もう数匹いました

この生き物は何でしょうか。もしかして、サラマンダーでは?
ベルファーストのアルスター博物館に金とルビーで出来たサラマンダーの装飾品が展示されているのですが、ジャイアンツ・コーズウェイ沖で16世紀末に沈んだスペインの無敵艦隊から引きあげられたもの。サラマンダーは船を火から守ると信じられていたそうです。
「航海士」聖ブレンダンにちなんで海や船のモチーフを散りばめ、教会堂を船に見立てて守り神を配する…という、設計者もしくは石工の粋な計らいだったのかもしれません!

みんなが触れてテカテカになった人魚像には、きっとご利益があるに違いない…と、私も触れてお願いごとを唱えてきました。
ただ、このご時世ですから、触る前、触った後に消毒ジェルで手を殺菌…と、少々ムードのない願掛けとなりましたが(笑)。

関連記事

スポンサーリンク

コメント

アイリッシュ・ロマネスクの至宝、クロンフェルト大聖堂

クロンフェルト大聖堂のお話し、とても興味深いです。
キリスト教会には必ず聖人の像がありますが、このクロンフェルト大聖堂に見られる人頭の像は、ケルト人の人頭崇拝を現わしているとのこと。
この大聖堂の成り立ちや歴史が感じられてとても面白いです。

大聖堂の外装や内部の彫刻を詳しく説明していただき勉強になりました。
大聖堂の内部には航海士・聖ブレンダンを偲ばせるものもあり、成る程と思いました。
所で、15枚目の写真にある「このモチーフは何でしょう?」は、これは明らかに錨ですね。
まさに航海士・聖ブレンダンを現わすものでしょう。

グループツアーで、ヨーロッパのどこに行っても見せられるものは教会です。
建物の大きさ、立派さに感心し、内部のステンドグラスに目を奪われ、宗教絵画や彫刻を見て歴史を感じさせられ、はいでは次へ行きましょう、というのがお決まりの行程です。
でも、今回のNaokoさんのブログのように、教会のなりたちや歴史を踏まえて詳しく説明していただくと、教会が過去から現在までのものとして、より身近なものとして受け取れます。
こういったツアーなら楽しいですよね。
先日のユーラシア旅行社の「アイルランド・カルチャー講座」を受講しているような雰囲気で、とても楽しいお話しでした。
有難うございます!

ただ残念ながら、グループツアーでは、こうした詳しい解説を聞くことは難しいでしょうね。
ツアー参加者はいろいろで、興味のあるもの、関心のある分野もいろいろですから。

Re: アイリッシュ・ロマネスクの至宝、クロンフェルト大聖堂

そうか、錨ですよね!語彙が乏しく、それを頭で想像しながら、言葉に結びつきませんでした。
ありがとうございます!

素晴らしい教会も、同時代の同様の建築様式のものばかり見ているとやはり飽きてしまいますよね…。
私はあまり巨大で立派なものより、素朴な小さい教会で、ユニークなものの方が好みです。
カルチャー講座のようだと言っていただけて、嬉しいです。

ツアーのご案内がないので、私もこんなふうにここで歴史や文化の話をさせていただくのがとても嬉しいです。

コメントの投稿

非公開コメント

全ての記事を表示する

スポンサーリンク

お知らせ ☘

旅のガイドのご予約・お問合せはこちら
ガイディング・アイルランド

新刊のお知らせ
「絶景とファンタジーの島 アイルランドへ」(イカロス出版)2017年5月29日発売
おかげさまで重版
ikarosbook0517
イカロス出版サイト
アマゾン

秋のケルト市「ナオコガイドのどこでもドア」
2020年10月2~4日 東京・巣鴨にて
各日15時~ダブリンよりオンライン参加!
→詳細・入場予約はこちら

オンラインセミナー開講!
2020年6月20日(土)~
各45分・無料お試し回+全6回
→詳細&お申込みはこちら
(ライブ配信終了、見逃し配信購入可能)

★岡山市にて講演
2020年10月

→2021年度に延期となりました

★福岡市にて講演
2020年12月

→2021年度に延期となりました

プロフィール

naokoguide

Author:naokoguide
アイルランド公認ナショナル・ツアーガイド。長野県上田市出身、2000年よりアイルランド在住。趣味はサーフィン、バラ栽培、ホロスコープ読み、子供の頃からのライフワーク『赤毛のアン』研究。

Instagram  

ブログ内検索

カレンダー

08 | 2020/09 | 10
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 - - -

月別アーカイブ