アイルランド・カルチャー講座第1回「ケルトと妖精」、本日無事に配信させていただきました。ご参加くださった皆さん、ありがとうございました!
予想を上回る人数のお申込みをいただき、感激しきりです。
奇しくも今日はアイルランドにとって歴史的な日で、ちょうど講座をしている最中に、第15代ティーショック(首相)がミホール・マーティンさんに正式決定しました。
「内戦政治(Civil War Politics)」と呼ばれてきた独立以来ライバル関係にあった2大政党が手を結び、3党連立の新政府樹立が秒読み段階となっていたことは先日ご紹介したとおりですが、昨晩、政策協定案が党員選挙により可決され、2月の総選挙から140日ぶりに新政権が誕生。
今日は朝から166人の全議員がコンベンションセンターに集い、初国会の模様が中継されていました。私も講座開始の直前まで見ていたのですが、推薦者が演説して首相候補をノミネートする様子など、なんだか中学校のときの生徒会選挙みたい(笑)。
普段、国会議事堂はレンスターハウスですが、ソーシャルディスタンスを保つには手狭なため、今日は国際会議用の大ホールのあるコンベンションセンターが会場でした。
通常は選挙で勝った党の党首が首相になりますが、今回は連立3党のうちの主要2党の党首が任務をローテーションするという異例の人事。互いの党を信頼するためだそう。
5年の任期の前半を務めるのがフィナフォール党首のミホール・マーティン、2023年からの後半がフェネゲール党首の前首相レオ・ヴァラッカーです。

マーティン首相誕生!国会議員になって30年の大ベテラン、言われてみればこの人がこれまで首相にならなかった方が不思議なくらい(写真は
RTE Newsより)
コンベンションセンターで就任後、マーティン首相は大統領官邸へ。マイケル・D・ヒギン大統領よりシール・オヴ・オフィス(というメダルのようなもの)を受け取り、任官されました。ソーシャル・ディスタンスを保ってのこちらも異例の任官式です。
マーティン首相はアイルランド南部のコーク(Cork City)出身。学生時代より政治活動を始め、高校の歴史教師として短期間勤務したあと政界入り。コーク市長、教育・科学大臣、保険・子供大臣、企業・商業・雇用大臣、外務大臣…と輝かしいキャリアの持ち主ですが、政権がライバル政党フィネゲールに移行していた過去9年間は静かでした。
実は2年ほど前、マーティン首相はうちに来たことがあります(笑)。地方選挙の応援で、私が住む地区の候補者と一緒に家々を訪問していたのです。
ノックに応じてドアを開けたら見慣れた顔の人が。とっさに思いつかず「以前にお会いしたことありますよねっ!」と間抜けなことを言ってしまい、本人に「ミホール・マーテインです…」と名乗らせてしまった…。
外国人なので選挙権ないんです、と言うと、それでも何かあったらこの人に相談してね、と地元議員さんのチラシを差し出しながら親切に言葉をかけてくださいました。(あとでよく考えたら、地方選挙は私も投票権があったのですが)
マーティン首相の地元コークは新首相誕生に大喜び。ワーキングクラスのバスドライバーの息子が首相になった、とお兄さんが喜びに声をつまらせ、ご長男もお父さん良かったね、とインタビューに答えていました。
夕方には新内閣が発表され、ダブリン城内の「セントパトリックの間」でヒギン大統領とマーティン首相より各大臣が任官されました。この様子も中継を見ていましたが、こちらはなんだか入学式みたい。
大臣たちが党ごとに固まっている様子も、高校の入学式で同じ中学出身同志が固まるみたいで…(笑)。

新内閣一覧。政党ごとに名前の下に色分けされています
レオ・ヴァラッカー前首相はトーニチェ(副首相)兼、企業・商業・雇用大臣になりました。
新型コロナ禍で日々国民にメッセージを発信し続けてくれたサイモン・ハリス前保険大臣は、高等教育・イノベーション・科学省という新しく出来た省庁の大臣に抜擢。
財務大臣、外務大臣は変わらず。パスカル・ドノフー財務大臣は私のお気に入りのひとりですが、いつもニコニコ、TVカメラに笑顔で手を振るのがいい。友人のディヴィッドがパスカルのマネがすごく上手で可笑しいので、今やパスカルを見るだけで笑ってしまいますが。(ちなみにディヴィッドは強いパスカル支持)
政権発足の国会の様子を見ていて、新しく就任したティーショックへのお祝いの言葉が野党党首から送られたり、残念ながら内閣に選ばれなかった元大臣にねぎらいの言葉を述べ合ったたり…と、厳粛な場でありながら、温かい雰囲気が要所要所に感じられました。
政策についてはかなり鋭い言葉で批判し合うものの、人としての尊敬を欠くような発言や態度はアイルランドの国会の場では滅多にありません。
学校の生徒会みたい、って私が思ったのも、みな政治家然とした「スレた」様子がなく、新鮮なやる気がみなぎっているからかもしれません。
素人考えではありますが、それぞれ方針の違いのある3党が手を結び、時にはぶつかり合い、譲り合いながら、ポスト新型コロナの立て直しという共通の目標に向かって国家を運営していくというのは、なかなか民主的かつ緊張感もあって良いのではないでしょうか。
マーティン首相も地道にキャリアを積み上げた、地に足の着いた信頼のおけそうな人。個人的にはこの新内閣に大いに注目&期待しています!
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コメント
ようはっぱ
日本のマスコミでアイルランドのことが流れるのはあまりないのでびっくり(失礼!!)しました。
他国ながら新しい政権運営に期待しています。
2020/06/29 URL 編集
naokoguide
そうなんですね、NHKでもニュースになったとは嬉しいです。
今世界で分断が広がる中、小さな緑の国では政治的調和が実現しました。違う価値観の2政党、いや緑の党も加えて3政党が一緒に歩むということが新しい世界を象徴しているように思えてなりません。
2020/06/29 URL 編集
誠司
大変判りやすい説明ありがとうございます。
『それぞれ方針の違いのある3党が手を結び、時にはぶつかり合い、譲り合いながら、ポスト新型コロナの立て直しという共通の目標に向かって国家を運営していくというのは、なかなか民主的かつ緊張感もあって良いのではないでしょうか。』
そのような感想を与えられる政治家うらやましいです。 勝手にリンクを張らせていただきました。
2020/07/12 URL 編集
naokoguide
アイルランドは主要2大政党がどちらも中道右派で、支持者層が大きく違うというわけではなかったので出来たことかもしれませんが、長年の歴史の軋轢を越えて、今いちばん国がひとつにまとまらなければならない時にこういう政治体制になれたことは、誇るべきことに思えます。
法務大臣とか、今回新たに大臣になった人たちも張り切っていて、とてもいい感じです。
2020/07/12 URL 編集
誠司
2020/07/13 URL 編集