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麦の穂を揺らす風

アイルランドで見逃してしまった映画、『麦の穂を揺らす風(The wind that shakes the barley)』を東京で観ました。

1920~22年、英国支配からの独立を目指してのゲリラ戦線と、それに続く内戦の時代のカウンティー・コーク。銃殺、反逆、拷問など、戦争で起こる目を覆いたくなるような恐ろしく悲惨なシーンが繰り返し映し出され、観終わった後もなんともやるせない気分からなかなか立ち直れませんでした…。

歴史上の出来事として伝え聞いていたアイルランドの動乱の時代の悲劇が目の前にまざまざと映し出され、ほっとする間もなく、また辛く重い場面へ。
アイルランドを舞台にしてはいるものの、伝わってくるメッセージは普遍的なもので、平和な時代に生まれ育った私には想像を絶するような体験や感情を、思い切り疑似体験させられました。

印象的だったのは、英国=悪、アイルランド=善という一元的な描き方ではなく、支配する英国側にも時折、人間らしさが見えたこと
主人公デミアンを殴りつける英国人軍曹は、自分もソンム戦線で仲間を失ったと言い、支配国の人間であってもやはり戦争の犠牲者であることを物語っています。
また、父親がアイルランド人であるという兵卒がデミアンたちを脱獄させてくれるのですが、これこそ敵・味方の区別は国が勝手に決めたものでしかないことを物語っています。(味方であった同士だって最後には殺し合いを始めてしまうのですから)

映画のタイトルと同名のレベル・ソング(rebel song=英国への抵抗を歌う歌)がバックに何度が流れたのですが、私はむしろ、主人公デミアンの兄が拷問を受けている間に同胞たちが歌い続けたアイルランド国家の方が耳に残り、これからはこのシーンを思い出さずにアイルランド国家を聞くことは出来ないかも…。

戦争の悲劇、支配国と被支配国の問題、愛国心、自己への忠誠心などなど、考えさせらることの多い作品でした。

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コメント

Wada

『麦の穂をゆらす風』を観ました。
Naokoさん、こんにちは。
映画『イニシェリン島の精霊』は、キャストもスタッフもロケ地も美術も素晴らしく、多くの賞を受けるだけの価値のある作品だと思います。しかし、この作品で描かれている時代背景を知らなければ、監督がこの作品で伝えようとしているものが何なのか理解できないと私自身が映画を観て思いました。そこで文献を読むとともに、『麦の穂をゆらす風』(ケン・ローチ監督2006年)の中古のDVDを買って観ました。最後まで観るのが辛い作品ではありますが、1920年代のアイルランド独立戦争から、その後の内戦へと向かうアイルランドの人々の葛藤が上手く描かれていました。争いや憎しみは、遠いところの敵とではなく、隣人や兄弟であっても湧き上がるものであることを再認識させられました。「誰と戦うのは簡単にわかる」「何の為に戦うのかをよく考えろ」という主人公デミアンの遺言の中の言葉には、現在を生きる我々にも向けられたメッセージであると思います。
アイルランドは、重い歴史を背負っている国です。でも、それを含めて魅力のある国だと思います。

naokoguide

Re: 『麦の穂をゆらす風』を観ました。
Wadaさん、こんにちは。
『麦の穂…』すごい映画ですよね。ケン・ローチ監督&キリアン・マーフィー。
古いブログ記事を見つけてくださりありがとうございます。当時自分が書いた感想を読みかえし、そうだった、そうだった…と思い出しました。日本で姉を誘って観に行ったのですが、どうしてこんなコワイ映画に私を連れて来たの~って言われたことも(笑)。
Civil War(内戦)はアイルランドの闇の歴史です。デミアンたち兄弟みたいなアイルランド人が当時無数にいたことを思うと、あれから100年、精神的にも、政治的にもよくぞここまで立ち直ったなあ、と感慨を覚えずにいられません。
『イニシェリン島…』から、いろいろ広がりますね。
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naokoguide

アイルランド公認ナショナル・ツアーガイドの山下直子です。2000年よりアイルランド在住。趣味はサーフィン、アイススケート、バラ栽培、ホロスコープ読み、子供の頃からのライフワーク『赤毛のアン』研究。長野県上田市出身。

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