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マイケル・フェスベンダーの映画『ジェーン・エア』と、シャーロット・ブロンテ

アイルランド人俳優マイケル・フェスベンダー(Michael Fassbender)がミスター・ロチェスター役を演じた、2011年公開の映画『ジェーン・エア』を観ました。
フェスベンダーはお父さんがドイツ人、お母さんがアイルランド人で、生まれはドイツですが、アイルランド南西部の町キラーニー(Killarney, Co. Kerry)育ち。国籍はドイツ/アイルランド両方所有しているようです。
※フェスベンダーに関する過去ブログ→ボビー・サンズの映画『ハンガー』

janeeyermovie
アマゾンプライムで観られます(日本でも2012年に劇場公開されているようですね)

見逃したまますっかり忘れて何年も経っていましたが、昨日、映画に詳しい友人ディヴィッドと、ネズミについてのひょんな会話をしたことで思い出しました。

ディヴィッド:「どうやらうちにネズミがいるらしい、ここ数日天井をギーギー鳴らす音がする、明日からハードウェア・ショップが開くからやっとネズミ捕りを買いに行ける!」
私:「それ、ほんとにネズミなの?そういう音、うちはいつもしてるよ、ネコとか、鳥とか…」
ディヴィッド:「動物じゃなくて、誰かが住んでいるのかも…」
2人でほぼ同時に:「ひぇ~、『ジェーン・エア』だ~!笑」

名作のストーリーをご存知の方はすぐおわかりでしょう。人が隠れ住んでいる気配と言えば…ソーンフィールド屋敷に隠されたあの秘密!(笑)
英文学オタクの私はすぐにこういう発想になるのですが、ディヴィッドも同じことを言ったのには驚いた!なんでもつい最近、ブロンテ姉妹の伝記を読んだばかりだったようです。

そんなわけで、マイケル・フェスベンダー好きの私に以前よりディヴィッドが勧めてくれていたこの映画を、やっと昨晩観たのでした。
名作のリメイク映画としては、つい最近シィーシャ・ローナン主演の『若草物語』にとても感激してしまったせいもあり、あれに比べると脚本や演出にイマイチ工夫がないなあ…と感じてしまったのですが、荒涼とした(まだ咲いてなかったけれど)ヒースの丘や、朽ち果てた感のある屋敷の暗ーい感じは雰囲気満点でしたし、役者陣はフェスベンダーもジュディ・リンチも予想を裏切らない名演技で楽しめました。
ジェーン役の菅野美穂似のミア・ワシコウスカが、これでもかというくらいに真っ白くて無表情。ジェーンを通り越して、作者のシャーロット・ブロンテに見えて仕方なかったのは、有名なブロンテ姉妹のこの肖像画によく似ていたせいでしょうか。

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Brontë family (Wikipedia)より。画家志望だったシャーロットの弟ブランウェルが描いたもので、左からアン、エミリー、シャーロット。映画の中のジェーンは、まったくもってこの絵のシャーロットにそっくり…って映画を観た方、思いませんでしたか?(笑)

ずい分前にこのブログに書いたことがありますが、英文学史上にその名を残したブロンテ姉妹の父はアイルランド人で、その名もパトリックさんです。(肖像画を描いた弟の洗礼名もパトリック)
北アイルランドのバンブリッジ(Banbridge, Co. Down)近くに、司祭として勤めた教会&学校の建物(Bronte Homeland Interpretative Centre)、生家跡が今も残されていて、英国ヨークシャーのハワースほどではないにしても、コアなブロンテ姉妹ファンの聖地となっています。
※過去ブログ参照→ブロンテ父の故郷を訪ねる

姉妹は短命でエミリーもアンも30歳前後で亡くなっていますが、シャーロットは2人より数年だけ長く生き、アイルランド人と結婚してハネムーンでアイルランドを訪れています。
結婚相手は父の牧師館で働いていたアーサー・ベル・ニコルズ(Arthur Bell Nicholls)という北アイルランド生まれ、トリニティー・カレッジ卒の牧師。1854年7月、新婚の夫妻は、当時世界いちの天体望遠鏡が作られたことで科学界にその名をとどろかせていたバー・キャッスルのあるアイルランド内陸部の町バー(Birr, Co. Offely)に列車で降り立ち、そこから10キロ程先のバナハー(Banagher)という村のキューバ・コート(Cuba Court)という屋敷に滞在しました。
キューバ・コートはアーサーの亡き叔父の家で、かつては叔父が学校長をつとめる寄宿制男子学校でした。この家で育ち教育を受けたアーサーにとっては実家のような場所だったのでしょう。シャーロットの父はアーサーを見下し、娘との結婚に反対でしたから、ハワースの牧師館でのアーサーはいつもおどおどと気後れした様子でした。ところがアイルランドで身内に囲まれ別人のようにのびのびした態度を示すアーサーを見て、シャーロットは惚れ直したようです。
アーサーの未亡人の伯母さんも見識があり、ピアノが上手な素敵な人で、楽しくくつろぐことが出来て夫婦の愛も深まったよう。

その後イングランドへ帰る前に、新婚カップルはアイルランド西海岸の景勝地へ旅をしています。カウンティー・クレアのキルキー(Kilkee, Co. Clare)、カウンティー・ケリーのキラーニー(Killarney, Co. Kerry)、グレナガリフ(Glenagariff, Co. Kerry)へ行ったと記録されていて、現在も馬車とボートでの谷越えで知られるキラーニー近くのダンロー渓谷(Gap of Dunloe)でシャーロットが馬から落ちて命拾いする…なんてハプニングもあったとか。
Literary Tour of Ireland by Elizabeth Healy, Wolfhound Press参照)

悲しいことにシャーロットのハッピー・マリッジはたったの9か月でした。子宝にも恵まれ、書きかけの小説もあり、これから…という時だったのに、翌年の1855年3月、肺感染症と妊娠中毒症と思われる症状で、39歳の誕生日を目前にして、お腹の子と共に短い生涯に幕を閉じています。
アイルランドへのハネムーンはシャーロットの最初で最後のブリテン島外への旅であり、死の前の最後の楽しい思い出だったことでしょう。

残されたアーサーは、義父パトリックが亡くなるまで牧師館に仕え(嫌われたにもかかわらず最期まで一緒にいてあげた…涙)、その後は郷里のバナハーに戻り、いとこと再婚しています。
バナハー村のセント・ポール教会(St Paul's Church, Banagher, Co. Offely)の牧師となり、すぐそばの牧師館ヒル・ハウス(Hill House)で残りの生涯を過ごしました。アーサーの墓所はその教会の墓地で、ヒル・ハウスは現在はなんとシャーロッツ・ウェイ(Charlottes Way B&B)という名のB&Bとして営業しています!
このバナハー、近くまでは何度も行くのに、いまだちゃんと訪れたことのない場所のひとつ。名作や作者のゆかりの地めぐり好きの私としては、いつでも行けると思って行けてない場所がまだまだいっぱいです…。

本当はいちばん見てみたいのは、新婚のシャーロットが幸せなひとときを過ごしたキューバ・コートなのですが、18世紀の美しいジョージアン・マンションだった屋敷は取り壊されて、今は跡形もないそうです。残念…。
(文豪オスカー・ワイルドのお父さんもここの学校に通っていたそう。写真はこちら

ちなみに、夏のツアーでお客様をしばしばお連れする北アイルランドのカロデン(Culloden Estate and Spa,)という、19世紀の屋敷を利用した素晴らしいホテルがあります。
アンティーク風の調度品に囲まれたラウンジの一角に、父親が今の北アイルランド出身だったブロンテ姉妹の肖像画がさりげなく飾られています。弟作のものとは別の、イギリス人画家ジョージ・リッチモンド(George Richmond)が1850年頃に描いたとされる、これまたよく知られたシャーロットの肖像です。

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ホテルの説明によると、上の2人はアン・ブロンテとマリア・ブロンテ。マリアというのは11歳で死んだブロンテ家の長女。下の単独のものがシャーロットです

cullodenbrontecharlote
弟作のものより可愛く描かれていますね(笑)

ディヴィッドの家のネズミ話に始まり、思いがけずこんな展開になりました。こういうコネクションを探していると、いもづる式に次々出てきて話が尽きませんね…。
外出制限が解除されたら、今度こそバナハーへ行って、シャーロットの旦那さんのお墓参りをしたいと思います。

※英国のブロンテゆかりの地関連ブログ→『嵐が丘』をハイキング(ブロンテ姉妹ゆかりの地-英国)
(この旅の話も続きを…と思って10年も経ってしまった。当時の写真を探し出して近々完成させます…)

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アイルランド公認ナショナル・ツアーガイド。長野県上田市出身、2000年よりアイルランド在住。趣味はサーフィン、バラ栽培、ホロスコープ読み、子供の頃からのライフワーク『赤毛のアン』研究。

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