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スライゴ&ダブリンが舞台のTVドラマ『ノーマル・ピープル(Normal People)』

今、アイルランドで話題の連続TVドラマ『ノーマル・ピープル(Normal People)』にはまっています。

2018年ブッカー賞候補に選ばれた、アイルランド人の若手作家サリー・ルーニー(Sally Rooney)の同名のベストセラー小説のドラマ化。脚本も原作者が手がけています。
マリアンとコネルという高校のクラスメートが魅かれ合い、地元スライゴからダブリンのトリニティー・カレッジに進み、すれ違って別れたり、よりを戻したりしながら、家族や友人関係、自我や依存など心の問題を乗り越えつつ成長していく…というストーリー。
そう説明しまうと青春コミックのドラマ化みたいですが、陳腐な仕上がりとは程遠く、文芸小説をきちんと映像でよみがえらせた秀作。ベッドシーンが多いことでも話題ですが、リアルなのに美しく、若手の2人の自然な演技が好印象です。
監督がレニー・エイブラハムソンと聞いて納得。2015年にアカデミー賞4部門でノミネートされた映画『ルーム(Room)』の監督として世界的にも名声を得たアイルランド人ですが、このドラマを観ていると、むしろ彼の初期の代表作『アダムとポール』『ガレージ』に通ずるもの悲しさとか、ドライなユーモアが感じられます。

normalpeople
コネル役のポール・メスカル(Paul Mescal)君はメイヌース(Maynooth, Co. Kildare)出身の24歳。マリアン役のデイジー・エドガー・ジョーンズ(Daisy Edgar-Jones)は21歳のイギリス人ですが、お母さんが北アイルランド、お父さんがスコットランド出身とのこと、それでアイリッシュ・アクセントがあんなに自然なのでしょうか。てっきりアイルランド人かと思いました!(写真はIMDb: Normal Peopleより)

ドラマは1回が約30分で全12話。4月末に始まり、アイルランドではRTEで火曜夜に2話ずつ放送されていますが、英BBCではオンデマンドで全話いっきに配信されています。
アメリカでも放送されていて、キム・カーダシアンもはまっているとか!
実は私はVPNサービスでBBCに接続して、早々に全話観てしまったのですが、それでも火曜の夜になるとRTEでまた観ては盛り上がっています(笑)。
パンデミックでみなが家で過ごしている最中に始まったこともあり、どうやら記録的な視聴率らしいです。

ストーリー展開はもちろんですが、このドラマの魅力のひとつはやはり、ロケ地探訪でしょうか。ダブリンやスライゴの人なら見ているだけで「ここだ!」とわかる場所も多く、シリーズを追うごとに「ロケ地はどこ?」が話題となっています。
見慣れたダブリンの街並みもたくさん出てきますし、頻繁に行くスライゴ周辺の景色が出てくるのも嬉しい。
その昔、ニューヨークで『セックス・アンド・ザ・シティー』のロケ巡りツアーに参加したことがありますが、このドラマはアメリカでヒットしているので、アメリカ人向けの『ノーマル・ピープル』ロケ地巡りツアーが出来るかも(笑)。


観光庁制作の舞台裏映像、ロケ地にフォーカスされています

日本でもいずれ放送されてヒットする日が来るかもしれませんから、ドラマ撮影が行われた主な場所をまとめておこうと思います。『ノーマル・ピープル』ロケ地巡りに備えて・笑。(ネタバレちょっとあり)
※参考→Normal People filming locations: Tamangos, Tubbercurry and Shane Ross’s house(The Irish Times)など

●スライゴ(Co. Sligo)周辺
ストリーダ(Streedagh Strand, Co. Sligo)…高校生のマリアンとコネルが秘密のデートをするビーチ。砂州と、背後にそびえるベンブルベンが印象的。サーフィンでよく行くビーチなのでここが映った時は嬉しかったです。地元の人は「ストリージャ」と発音します

タバカリー(Tubbercurry)…スライゴ・タウンより南へ30キロ程のところにある、カウンティー・スライゴで2番目に大きい町。マリアンとコネルの故郷の町キャリックリー(Carricklea)はここ。クリスマスに帰省するシーンの撮影は真夏だったので、町中をクリスマス仕様に飾り付けたそう。コネルたちの行きつけのパブはこの町にあるブレナンズ・バー(Brennan's Bar)で、最後のエピソードの大晦日のパーティーのシーンもここ。そのほかキルローナンス・パブ(Killoran's pub)や、町の教会(St John the Evangelist Church)も出てきます

●ダブリン
ホワイト・サンズ・ホテル(White Sand Hotel, Portmarnock, Co Dublin)…高校の卒業パーティー(debs)のシーン。あー、コネル、どうしてレイチェルと…

ハーツタウン・コミュニティー・スクール(Hartstown Community School, Dublin 15)…ドラマ前半の多くのシーンを占めるマリアンとコネルが通う高校。設定はスライゴですが、ダブリン市内の学校が使われました。先生や生徒がエキストラで出演しているそう。ロックダウンの休校中にドラマが始まったので、テレビで学校が映ったのを見てなつかしかった…との校長先生のインタビュー記事(参照)が印象的でした。ドラマのロケ地巡りの一環として学校見学にどうぞ来て下さい、とのこと!

トリニティー・カレッジ・ダブリン(Trinity College Dublin, Dublin 2)…トリニティーで学生時代を送った人にはなんとも懐かしいシーンがいっぱいなことでしょう。中盤以降はここが物語の中心となります。原作者サリー・ルーニーも、監督レニー・エイブラハムソンも、コネル役ポール・メスカルもトリニティーの卒業生なので、撮影にはたくさんのこだわりがあったようです。私もお客様をご案内して日常的にキャンパスに出入りするので見慣れた景色がいっぱいでしたが、学生さんたちが使用するエリアに入ることはないのでそれが垣間見られて興味深かったです。コネルが勉強している図書館はバークレー・ライブラリー(Berkeley Library)、マリアンはマーシュズ・ライブラリー(Marsh’s Library)だそう

ウェリントン・ロード(Wellington Road, Dublin 4)のビクトリアン・ハウス…マリアンがダブリンで暮すシェアハウス。1840年築の古い家で、撮影用に整えはしたものの、ヒッピーっぽい内部がよく残されれているそう

ブラックバード・パブ(Blackbird Pub, Rathmines, Dublin 6)…マリアンとコネルが友人たちと出かけるパブ

DCUセント・パトリックス・カレッジ(DCU St Patrick' s College, Drumcondra, Dublin 9)…屋内のシーンは、トリニティーという設定でここで撮影した部分もあるとのこと。シリーズ後半のスウェーデンの学生寮もここ

ヒュー・レーン・ギャラリー(Hugh Lane Gallery…イタリアでの休暇中にマリアンとコネルたちが絵画鑑賞するシーン。短いシーンですが、ヴェニスのPeggy Guggenheim Collectionを壁の色まで忠実に再現

フンバリー・カフェ(Fumbally Cafe、Dublin 8)…マリアンとルークがコーヒーを飲むスウェーデンのカフェはここ。ダブリンでのマリアンのバースデー・パーティーもここです。私も一時期友人たちとよく行っていた馴染みのカフェで、拙著でも紹介しています♪

フォレスト・アベニュー・レストラン(Forest Avenue, 8 Sussex Terrace, Dublin 4)…マリアンとルークが食事をするスウェーデンのレストランはここ

国立アート&デザイン大学(National College of Art and Design、Dublin 8)…スウェーデンのルークのアパート(スタジオ)。校舎内のペインティング部門の仕切りを取り払って大きな空間にしたそう

レイツ・オフィス(Rates Office, Dame Street, Dublin 2)…ダブリン・シティー・ホール近くの行政の建物。シリーズ後半でコネルがセラピストと話すシーンがこの建物の内部らしい

●カウンティー・ウィックロウ
ノックモア・ハウス(Knockmore House. Enniskerry, Co Wicklow)…マリアンの実家。スライゴではなくカウンティー・ウィックロウにある個人邸宅で、撮影時は、ちょうど売りに出されて新オーナーが入居する前の空白期間だったそう。場所は秘密にされていましたが、交通・観光・スポーツ大臣のシェーン・ロスが「僕が子供の頃に住んでいた家だ!」と明かしたことでわかってしまいました(笑)。
Shane Ross reveals Marianne’s house in Normal People was his childhood home

●イタリア、スウェーデン
マリアンの家族の素晴らしいイタリアの別荘はローマの北40キロ程にあるヴィラで、エアB&Bとして宿泊可能だそう。マリアンとコネルがアイスクリームを食べる広場は、スティミリアーノ(Stimigliano)という町。
スウェーデンのロケ地は、Luleåというフィンランドとの国境近く。凍ったバルト海の圧巻シーンはホンモノだそうです!
詳しくはこちら→WHERE IS 'NORMAL PEOPLE' FILMED?(英語)

ここからはドラマの内容についての感想です。
小説の方はまだちゃんと読んでいないのですが、評判を聞き及び、例えて言うなら、80年代後半に一世を風靡した『ノルウェイの森』みたいな存在の作品かな、といった印象を持ちました。高校生の時、授業中に赤い本と緑の本が机の下でこっそりまわされて、みんなで読んだなあ(笑)。
余談ですが、各国語に翻訳されている『ノルウェイの森』は近年アルゼンチンでベストセラーになったらしく、コスタリカで宿泊した宿にアルゼンチンから仕事に来ている若い人たちがたくさんいて、名前を告げるとみなに「Norwegian Woodだ!」と言われた。ナオコが出てくるから(笑)。

『ノーマル・ピープル』に話を戻しますが、マリアンとコネルのさり気ないやり取りや動作に、若い子特有の危うさとか脆さが凝縮されていて、2人の年齢をとうに過ぎてしまった私にはなんだかとっても懐かしい感じ。若い頃というのはこんなふうに寂しかったり、自分がわからなかったりするものなのよね、と。
主人公の2人に嘘がなくて、その正直さ故にかえって偽っちゃったり、都会暮らしになんとなくフィットしないもどかしさみたいなのも分かる。マリアンは大学デビューして馴染んでるふりをしているけれど、本当は自分探しの途中ですし。コネルの一見マッチョなのに実は繊細、でもそういう自分を表に出せない自分に苦悩しちゃう、っていう感じも、複雑な内面の葛藤がよく描かれている。
昨晩の放送を観て、このモヤモヤ感とさわやかさが入り混じった感じはやっぱり『ノルウェイの森』かもしれない、ってあらためて思いました。もう細かい部分はすっかり忘れてしまったけれど、あの小説も読後感はこんな感じだったなあ…と。

ちなみに、登場人物の中で私が好きなのは、コネルのお母さんのロレーン。卒業パーティーにレイチェルを誘ったことをコネルが打ち明ける車の中でのあのシーン、ロレーン、あっぱれ!です。

マリアンとコネルのその後を…と期待する声もあるようですが、ソーシャル・ディスタンスが続く限り、ドラマ制作そのものがしばらく無理ですよね…。
ベッドシーン、キスシーン満載のこのドラマは、濃厚接触が可能だったプレ新型コロナ時代の最後のもの。そういった意味で、パンデミックが起こる前にギリギリセーフで完成し放送にこぎつけた貴重な一作として、制作側にも視聴者にも忘れられない貴重な一作となることでしょう。

【8/2追記】マリアンとコネル、日本上陸!タイトルは「ふつうの人々」
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アイルランド公認ナショナル・ツアーガイドの山下直子です。2000年よりアイルランド在住。趣味はサーフィン、アイススケート、バラ栽培、ホロスコープ読み、子供の頃からのライフワーク『赤毛のアン』研究。長野県上田市出身。

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