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アメリカ先住民族へ、170年経っても忘れない「ありがとう」

アイルランドの南部のミドルトン(Midleton, Co. Cork)と言えば、アイリッシュ・ウィスキーの主要な銘柄を生産する大きな蒸留所のある町ですが、町外れのバリック公園(Bailick Park, Midleton)にあるこのモニュメントのことが以前から気になっていました。

kindredspiritsmidletonchocktawmemorial
9枚の鷲の羽根を模した高さ6.1メートルのステンレス製の記念碑。その名も「キンドレッド・スピリッツ(Kindred Spirits)」(写真はこちらより)

「キンドレッド・スピリッツ」と言えば、『赤毛のアン』好きには「まあ、アンのモニュメントかしら!?」と思ってしまうほど馴染みの言葉で、物語では「腹心の友」「心の友」などと訳されています。
アンが求めたのは単なる社交上の友人以上の、魂の友。心の底から打ち解けられ、共鳴し合える同志…といった意味です。

この「キンドレッド・スピリッツ」はアンとは関係はありませんが、2017年に除幕式があったと報じられた時から、その名前ゆえに気になっていました。
19世紀にアイルランドがジャガイモ大危機に見舞われ困窮したとき、アメリカの先住民族チョクトー族が寄付金を送ってくれたことへの感謝のしるしとして、地元の彫刻家アレック・ペンテック(Alex Pentek)さんがコークのアート・カレッジの生徒の協力を得て制作したものです。

このモニュメントが一昨日、CNNニュースで取り上げられ、ガイド仲間で話題になりました。
新型コロナウィルスの感染拡大で陸の孤島状態になっているアメリカの先住民族がクラウドファンディングで寄付を呼びかけ、それを見たアイリッシュ・タイムズ紙のナオミ・オリアリー記者がツイッターで拡散。
「アメリカ先住民族は、自分たちの持ち合わせさえないときに、アイルランドの飢饉救済に多額の寄付をしてくれた。今こそお返しすべきときだ」と。



この投稿は多くの人の目に留まり、呼びかけから数日後の今週火曜日までに寄付金総額は200万ドルに達し、そのうち4分の一にあたる50万ドルがアイルランドからだそうです!

CNNのもと記事はこちら。日本語でも本日、簡略化された記事が出ました。
The Irish are sending relief to Native Americans, inspired by a donation from a tribe during the Great Famine
アイルランドから米先住民へ、170年後の恩返し 感染対策支援に多額の寄付

飢えと移民で人口を半減させる惨事となった、19世紀のジャガイモ大飢饉(1845~49年)。当時アメリカでは、各地でアイルランドへの寄付を呼びかける集会が開かれていました。
CNNの記事によると、1847年、オクラホマで集会に参加したチョクトー族の族長たちは、自分たちも決して豊かではなかったけれど、ポケットからなけなしのお金を出し合い170ドル(現在の5000ドルに相当)もの寄付をしたそうです。
チョクトー族は1830年代、故郷のミシシッピーを追われ、12500~15000人がオクラホマへ移住。飢えと絶望をかかえて歩いた何千キロにもわたる苦難の道は「涙の旅路(Trail of Tears)」と呼ばれ、4分の一が旅の途中で命を落としました。
そんな彼らには、イギリスの圧政にあえぎ、飢えに苦しむアイルランド人の痛みは他人ごとではなく、我々にはあの人たちの痛みがわかる、と言って、ためらわず寄付をしてくれたそうです。

この行為は後世に語り継がれ、1990年以降、目に見えるかたちで両者の交流が実を結び、慈悲の連鎖が続くこととなります。
1992年、22名のアイルランド人がチョクトー族を訪ね「涙の旅路」を歩き、それをソマリア難民のための寄付を募る救済活動にあてました。目標金額は17万ドル。1847年にチョクトー族がアイルランドに送ってくれた金額のちょうど1000倍です。
3年後の1995年には、アイルランドのメアリー・ロビンソン大統領がチョクトー族を訪ねて感謝を述べ、さらに1999年にはチョクト-族がアイルランドを返礼訪問し、「大飢饉の道」を歩きました。

そんな交流が続く中、2017年、チョクトー族の慈悲から170年を記念して「キンドレッド・スピリッツ」のモニュメントが生まれました。(170ドルにちなんで170年記念でしょうか)
丸くなって向かい合う9つの鷲の羽根は、食べ物を入れるボール(容器)を表しているそうです。除幕式には族長はじめ、20名のチョクトー族が参列しました。
翌年の2018年にはレオ・ヴァラッカー首相がオクラホマを訪ね、アイルランドで学問を修めるチョクトー族の奨学金制度を設けることを発表しています。

今回、アメリカ先住民族へ寄付をしたあるアイルランド人は、こんなメッセージを添えたそう。

あなたたちは、我々のもっとも暗い時代に手を差し伸べてくれた。親切にお返しできて嬉しい。アイルランドは忘れないよ、ありがとう

ジャガイモ大飢饉はアイルランドにとって負の歴史です。宗主国のイギリスは助けてくれなかった、先祖はひどい目にあわされた…と恨み言は170年経った今も言い尽くせないほど。
でも、手を差し伸べてくれた人たちもいて、それが語り継がれ、繰り返されてもいる。人間関係もそんなふうにありたい、170年経っても「ありがとう」を忘れないような。

非常時にこそ人の真価が問われます。新型コロナ禍で私たちが試されているのはこういうことなのかもしれない、と思ったのでした。

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コメント

Yama

南アメリカにはこんな民話が残ります
若き日の思い出が詰まった国、懐かしく大切な国エクアドルの先住民に伝わる民話があります。

ハチドリのひとしずく
Había una vez un incendio en elbosque.
Todos los animales, insectos y pájaros en el bosquecorrieron por sus vidas.
Pero había un colibrí que se llamaba KURIKINDI ibay venía botando una gota de agua en su pico al fuego.
Cuando los animales lo vieron, comenzaron a reir, “¿Para que sirve?”
Y KURIKINDI respondío,
“Yo estoyhaciendo lo que puedo.”

森が燃えていました
森にすむ動物や虫や鳥たちは一目散に逃げていきました
でも、クリキンディという名のハチドリだけは
くちばしに水のしずくを一滴ずつ運んでは
森の火の上に落としていきます
動物たちはそれを見て
「そんなことをしてなにか役に立つのか?」と言って笑います。
クリキンディは答えます
「出来ることをしているだけだよ」
                    (拙訳)

エクアドルの民話なので、本来、かつてインカ文明を興した先住民の言葉(ケチュア語 Quechua)で書かれているはずです。シンプルで力強い言葉ですね。よけいに胸に迫ります。

要請されるのでなく、自ら考えて実行しよう。
両手を左右に伸ばし、その先に触れたものに助力を差し出そう。
自分の意志で選び取ったものを積み重ね、やがてくる新しい世界を迎えよう。
大切なものを守るために、いまできることをしよう。

若い日の記憶を辿ったとき、こんなことを考えました。

ハチドリってこんな鳥   アマツバメ目ハチドリ科
種類により体重は2gから20gまで。とにかくとても小さいのです。毎秒約55回から80回の高速ではばたき、空中でホバリングしながら花の中にクチバシを差し込み蜜を吸います。人を恐れず目の前をひゅるひゅると飛びまわって、花から花へと移動していくのです。

naokoguide

Re: 南アメリカにはこんな民話が残ります
このハチドリのお話、Yamaさんのブログで拝見しました。
古い民話や神話には、人類を救う思いがけない叡智が隠されていることがありますよね。「ツナミ」と言う言葉がはじめて英語圏に紹介された、小泉八雲が伝えた民話があるのですが、そこにはツナミがきたらどうすればよいのかが端的に書かれていました。

ハチドリは、添乗員時代に中南米で初めて見ました。
「hummingbird」は中学1年生の英語の教科書で習い、日本でめったに見ることもない鳥なのに、その単語を英語学習の基礎で習うことが可笑しかったことを覚えています。ホンモノを見た時には、教科書に出てきたのはこれか!と感動したのを覚えています(笑)

sima-s

No title
自分たちだって大変なのにジャガイモ飢饉のアイルランドに寄付をしてくれたアメリカ先住民族、そしてそれから170年経って、忘れずに恩返しをするアイルランド、どちらも素晴らしい人たちだ(感涙)。

naokoguide

sima-sさんへ
ジャガイモ大飢饉のとき、宗主国のイギリスは助けてくれなかった…って話はよく聞くけど、そんな中で助けてくれた人もいあんだ、ってことは意外と語られない。
恨みつらみばかり連鎖させないで、感謝や慈悲を連鎖させていける人たちって、たくましくて美しいですよね。
非公開コメント

naokoguide

アイルランド公認ナショナル・ツアーガイド。長野県上田市出身、2000年よりアイルランド在住。趣味はサーフィン、バラ栽培、ホロスコープ読み、子供の頃からのライフワーク『赤毛のアン』研究。

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