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どうやら感染ピークは過ぎていた!アイルランドと…心配な日本

アイルランドにおける新型コロナ感染の状況は、どうやら「カーヴを平坦化する(flatten the curve)」フェーズに入ったようです。

新型コロナ禍でさかんに耳にする「カーヴを平坦化する」というのは、日々の新規感染者数や死亡者数のグラフの曲線の山(流行のピーク)をできるだけ低くして、医療崩壊を起こさないようにすること。感染を止めることは出来ないけれど、新規感染者の急増(日本でオーバーシュートと呼ばれている状況)による医療崩壊はなんとしても避けなければならない。
ソーシャル・ディスタンス(社会的隔離)を実行し、「ステイ・アット・ホーム(Stay at Home=外出しないように)」をスローガンに巣ごもりに徹しているいちばんの理由はそれです。

カーヴの頂点(流行のピーク)はいったいいつ、どんなかたちでやってくるのか。ヴァラッカー首相が言っていた「最悪の状況」とは具体的にどいうことなのか…と内心恐れていました。
私は病院のほぼ隣りに住んでいるのですが、あの壁の中でイタリアやスペイン、ニューヨークの医療現場で起こっていることがもうすぐ起こってしまうのだろうか…と日々ぼんやりと思っていたのです。

ところが一昨日、トニー・ホーロハン高等医務官がテレビのトーク番組に出演し、どうやらアイルランドではピークというピークはなかったようだ、カーヴはすでに平坦化し曲線になっている、と言ったのです。
ピークがやって来る!ということに何かもっと劇的で恐ろしいものを想像していた私は、不謹慎な反応ですが、そうだったのか…とちょっと拍子抜けしてしまいました。
同時に、すぅーっと肩の力が抜けていくような気持ちに。ピークは過ぎた、いや、来なかったのだ!

毎日夕方6時ちょっと前に、過去24時間の新規感染者数と死亡者数が発表されるのですが、そこにはタイムラグがあって、数日前の数字が上乗せされている場合があります。ここ数日、ドイツのラボから戻ってきたPCR検査の結果が加わって感染者数が数百単位で多くなっていることは知っていましたが、死亡者数にもタイムラグがあったことは認識していませんでした。
HSE(Health Service Executive=保険医療執行機関)が日々の死亡者実数で新たに作成したグラフを公表。それによると死亡件数が最高値になったのは10日も前の4月7日。それ以降は減少し、カーヴはゆるやかな曲線に。すでに私たちはその曲線の下り坂にいたのでした。→Graph shows breakdown of recorded Covid-19 deaths(RTE News)

アイルランドが休校や施設閉鎖などソーシャル・ディスタンス(社会的隔離)の実行を開始したのは3月13日。その2週間後の3月28日からは、閉店要請や外出禁止など、いわゆるロックダウンと呼ばれる厳しい措置が加わりました。
ゆるいソーシャル・ディスタンス開始から5週間、ロックダウン開始から3週間経ちます。ICUの病床にはまだ空きがあり、当初想定した最悪の事態は免れたよう。
現行の制限は5月5日まであと2週間続きますが、どのように解除していくのかということが少しずつ取り沙汰されるようになってきました。まだまだ予断を許さないものの、このままグラフが緩やかに下っていけば、2週間後にはなんらかの緩和が行われるでしょう。

日本ではソーシャル・ディスタンスの厳しい実行を疑問視する声もあるようです。例えばフランスなど、長期にわたってロックダウンしているにもかかわらず死者の数が増加し続けているではないか、と。
でもアイルランドの例から想像するに、ロックダウンしなかったら、死亡者数はもっともっと膨大になっていたんですよ!
また、累積の死亡者数ではなく、いかに急激に増加しているかを見なければならない。カーヴが尖っているのか平坦なのか、ロックダウンの効果はそこに表れるわけですから。

日本では人との接触を8割減らそう、と言っています。(「8割おじさん」こと北大の西浦先生、応援しています!)
アイルランドはそういうスローガンではなく、同居家族以外、要するに所帯を共にする人以外とは交わらない、つまり、同居している人以外との接触はゼロにしてください、というのを徹底して行い、2週間半くらいで9割減しました。(平均20人接触が今は2人)
こちらは休業要請ではなく、基本すべて休業。医療やインフラの維持を行うところを例外にしているのみ。床屋や美容院が閉まっているので髪はボサボサ、男性は自分でそったり切ったりしてえらいことになっていますが(それをSNSにアップしている人もいて可笑しい・笑)、今は髪型の優先順位は限りなく低いのです。
アイルランドとは国の規模が違いますから単純に比較はできませんが、やはり8割減らすには、こんなふうに会う人を限りなくゼロにしてやっと…といったところではないでしょうか。

アイルランドが幸いだったのは、感染者数が少ないうちにソーシャル・ディスタンスを実行し、医療体制を整える時間稼ぎが出来たこと。まだ私たちがそんなことしなくても…って思っているときに政府はそのずっと先を見ていました。
即座にPPE(医療用マスク、ゴーグル、防備服などの医療装備)の大量確保に動き、医療従事者の臨時招集、PCR検査場の設置を進め、失業・休業者への補償制度もすぐさま導入し、3月下旬から支払いがされています。

それでも問題は次々起こっていて、あんなに率先して13年分も確保したというPPEはすでに不足し始めている。(過去ブログ参照→U2のボノ、新型コロナ危機で見せたアイルランドの「ソフト・パワー」
購入した中に感染症には使用できないクオリティーのものが混じっていたり、確保した分が他国に横取りされて(!)、政府購入の4分の一がまだ届けられていないとか。
こんなに人口の少ない国で、政府もボノも大量買いしたのにも関わらず…。
大阪の市長さんが雨がっぱでいいから寄付してください、とお願いしているのを見ましたが、日本は大丈夫なのでしょうか?
今必要なマスクは小学校の給食マスクじゃなくて、医療従事者がつけるN95マスクですよね。

PCR検査も日本は数が少なくて、あれでは感染状況を把握するのが難しいと思いますが、政府は対策を講じているのでしょうか。
アイルランドはWHOの指針に従いPCR検査を最優先していて、早いうちに病院とは別のドライブスルーの検査場を国内各地に確保し、現在47か所開いています。ところが検査薬が足りない、検査ラボのキャパがない。主にドイツのラボに出しているのですが時間がかかるため、国内の体制を急ピッチで整え、やっと国内26か所のラボで検査結果が出せるようになったとのことですから、これからしばらくの間はより多くの検査がスピーディに出来るでしょう。
日本も徐々に病院外の検査場が出来ているようですが、あまりに遅い。検査キットは足りているのでしょうか、そのあたりの情報もスパッと出てきませんよね…。

1万キロも離れたところからヤイヤイ言ってもどうにもならないとは思いつつ、アイルランドのリーダーたちの国民への真摯な対応、科学と医学に基づいた合理的かつスピーディな危機管理、命を救うためになりふり構わず奔走する姿があまりに素晴らしいので、どうしても比較してしまう。
病床数が決して多いわけでないこの国で感染爆発が防げているのは、彼らの適格な判断と実行力のおかげにほかなりません。
日本はどこへいこうとしているのか…、憂い、案じずにはいられません。

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久しぶりに行ってみた、聖パトリック大聖堂(St Patrick's Cathedral, Dublin 8)のガーデン入り口にて

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コメント

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No title
人口がアイルランドの20倍以上の日本は、現状では死者数はアイルランドの3分の1程度です。
それなのに何故アイルランドのリーダーは素晴らしく、日本は駄目という結論になるのでしょうか?

naokoguide

Re: No title
そうですね、日本の死者数は今のところとても少ないです。だからこそ今のうちに、感染が拡大して大変なことにならないよう対策を講じて欲しいという気持ちでいっぱいです。
最終的な死者の数はパンデミックが終わってみないとわかりません。でも、どのような感染フェーズであろうと、世界中にウイルスが蔓延している今、政治的に利用するのではなく必死になって人々を守ろうと動いているリーダーや専門家たちの姿は信頼するに足ります。
残念ながら日本のリーダーは、必ずしも皆さん、そうではないように見えます。

松井ゆみ子

何が真実か。
なおこさんのブログは、同じ国に暮らすわたしも大いに参考にさせてもらっています。情報の収集力も考察力も素晴らしく、冷静に書かれていて、日本の友人たちに転送しまくっています。日本の状況はまったく不透明ですし、政府の方針もあやふやで、そういう国で今生活している人たちを思うとやりきれません。アイルランドで暮らすようになって20年になりますが、今ほどこの国を選んでよかったと思ったことはありません。こういう状況をこの国ですごせたのは幸いです。ロックダウン中の給付金もとっくに始まっていて、10万円をばらまくかどうかをまだ躊躇している国とは大きく差があると感じます。「自分が媒介して誰かが感染する可能性」をなくす努力は「思いやり」で、そこに訴えかけたアイルランド政府の方針が素晴らしいと思うのです。ゆみこ

naokoguide

Re: 何が真実か。
ゆみ子さん、ありがとうございます。そんなふうに言っていただいて嬉しい。
私もこの国で守ってもらって穏やかに過ごせているので本当にありがたいと思っています。選んで住んでいるこの国を、今ほど誇りに思ったことはありません。
その反面、日本で暮している人たちのことを思うとやり切れない。ゆみ子さんとまったく同じ心境です。おっしゃるとおり、「思いやり」なくして自由なんてあり得ない。人類の危機とも言えるこの状況で、そこがぶれないアイルランド政府が素晴らしいですよね。
この国の子どもたちは今、学校に行けない間にたくさんの学びを得ていると思う。人の命を守る行為をしてるんだ、って子どもも自負してますものね。日本の子どもたちにもこういう気持ちを味あわせてあげたい、本当に。
ゆみ子さん、ありがとう💛

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ロックダウンをし2㎞圏内を守るという厳しい措置を行っているににもかかわらず、日本より人口が少なく、日本より対応の早いはずのアイルランドが感染者も、死亡者数も多い事にこのウィスルの恐怖を覚えます。
どこの情報をご覧になられているかはわかりませんがPCR検査の精度、感度について多くの日本人は理解して医療崩壊を起こさない為にソーシャルディスタンスに励んでます。買い占めもおきていません。
日本は未来が良くなるように…まだ足並みは揃っていないかもしれませんが頑張っています。もちろん子どもたちも。
長年大好きでブログを拝見していたナオコさん松井ゆみ子さんの発言が非常に残念でした。
心配するのであればダイヤモンドプリンセスの対応など一度調べて頂ければ幸いです。日本の発信力が弱いのかも知れません。
海外在住の方が日本の残念な点を述べられるだけなのがとても悲しいです。

naokoguide

Re: タイトルなし
その同じウイルスが日本にも蔓延していて、今まさに市中感染が広がり、対策が後手になっているということが私は恐ろしいです。
アイルランドは感染初期の頃に複数の高齢者施設でクラスターが発生し、現状の死者の6割がそこでの感染者です。厳しい対応をする前に蔓延してしまった。UKも、もう数日ロックダウンが早かったら、ここまでの死者数にはなってなかったと言われています。

日本のダイヤモンドプリンセスの対応はこちらでも多少は報じられていますし、日本のニュースも読んだり見たりしています。あのノウハウがあったのに、その後の対応は後手になってしまいました。

日本は政府からの厳しいガイドラインがないにも関わらず、多くの人がパニックにもならず、自主的に自粛をしていてすごいと思います。アイルランドだったら崩壊していることでしょう。都道府県の知事さんたちの中にも素晴らしい対応をしていらっしゃる方もおられます。子どもたちも頑張っているのは良いことだと思います。徐々に足並みがそろってきているのもニュースを通して見ています。
でもそれは、中央のリーダーが地方行政や一般市民に責任を丸投げして、自主対応させているようにも見えます。徐々に整ってきている対策も、もっとスピードを上げないとウイルスの感染スピードに追い付かれてしまいます。
だから私もゆみ子さんも、やり切れない…という気持ちなのです。頑張っている人がいるのに中央の対応はどうして?って。

(お名前がないので同じ方か100%わからないのですが)このように続けてコメントくださるということは、私のブログの内容なり書き方がとても心外でいらしたのだと理解しています。いつも読んでくださっていたのに、こんな時に悲しい気持ちにさせてしまってごめんなさい。
新型コロナの対策について、海外在住者が日本の残念な点だけを述べている、と感じられるかもしれませんが、遠くにいる私たちは今の自国の様子が心配でならないのです。だから余計なお世話と言われたり、批判されたりすることを承知で発信している人も多いと思います。

お互いに安全に過ごしましょう。私も今後、誤解なく気持ちをお伝えできるよう、より気を付けて書くようにします。
非公開コメント

naokoguide

アイルランド公認ナショナル・ツアーガイドの山下直子です。2000年よりアイルランド在住。趣味はサーフィン、アイススケート、バラ栽培、ホロスコープ読み、子供の頃からのライフワーク『赤毛のアン』研究。長野県上田市出身。

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