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シェイマス・ヒーニーの言葉「この冬を生き抜けば夏にたどり着ける」

昨日の外出制限の延長を発表する会見で、ヴァラッカー首相は北アイルランド出身の詩人シェイマス・ヒーニー(Seamus Heaney、1939 - 2013)の言葉を引用しました。
→スピーチ全文(英語):Speech by the Taoiseach with update on latest COVID-19 public health measures

If we winter this one out, we can summer anywhere.

新型コロナ感染拡大が深刻化して以来、多くの人に引用され、アイルランドのメディアやSNSでさかんに目にする一節。
私なりの解釈で訳すと、こんな感じでしょうか。

この冬を生き抜けば、夏にたどり着ける。

ウィルスの脅威と背中合わせに不便な暮らしを強いられる、ロックダウン下の今のアイルランド人の心情を代弁したような言葉。
イギリスの詩人シェリーの「冬来たりなば春遠からじ」(If Winter comes, can Spring be far behind?)を思わせますが、寒くて暗い冬の次に必ずやめぐってくる暖かな季節を待つというより、「We(我々)」が主語ですから、何としてもこの冬を生き抜いてやる!夏を勝ち取ってやる!…という強い念が感じられます。

故シェイマス・ヒーニーはアイルランドが誇る国民的詩人で、1995年にノーベル文学賞を受賞。北アイルランドのデリー出身でダブリン在住、2013年に惜しまれて亡くなりました。上皇后陛下美智子さまも愛読しておられ、2005年のダブリンご訪問時に親交を深められておられます。

昨日のヴァラッカー首相のスピーチでは、22年前のこの日、4月10日が、北アイルランド紛争の政治的解決となったイースター合意(ベルファースト合意)調印の記念日であるという話の流れから、紛争が激化する中でヒーニーが発したこの言葉が引用されました。紛争を終結させて和平を勝ち取ったように、この非常事態も共に乗り越えればより良い日々が待っている、それを教えてくれているのがこの言葉である、と。

これがヒーニーの詩の引用なのであれば、もとの詩を知りたいと思い調べていたら、その答えをズバリ示してくれている記事がありました。
The story behind the Seamus Heaney quote guiding people through the Covid-19 crisis

残念ながらこれは詩の一節ではなく、1972年11月、『Wintering Out』(冬を生き抜く)というタイトルの新しい詩集の出版記念パーティーの席でヒーニーが言ったことだそう。翌日の新聞記事に引用され、時勢を表すヒーニー語録として有名になったようです。
1972年という年は、デリーの血の日曜日事件(Bloody Sunday)、ベルファーストの血の金曜日事件(Bloody Friday)など北アイルランド紛争を加速させる痛ましい出来事が頻発した年でした。デリー出身のヒーニーにとって、ことさら厳しく心が痛む時ではなかったかと思います。
この苦境(冬)を耐えて乗り切るしかない、明るい未来(夏)をつかむには…と耐え忍んでいた当時の北アイルランドの人々の想いが伝わってきます。

「winter out」とは、牧畜を主業とするアイルランドにおいて「家畜を冬越しさせる」意味があります。
牧草が冬枯れしないアイルランドでは冬でも家畜は屋外で放牧しますが、そこにあるのは冷たい雨、ぬかった大地、吹きすさぶ風、短くたよりない草…。じっと耐える鈍重な家畜の姿と、貧しい農村の風景…。
当時の貧しさの残るアイルランドを思えば、明らかにサバイバル(生き残り)の念のある表現なのです、と説明されていました。
アイルランド人なら身をもってわかる、大地に根づいて苦境を生きたDNAが呼び覚まされるような、そんな表現なのでしょう。

先日のブログで、アンネ・フランクが2年間隠れ家にこもっていたことを思えば…と書きましたが、北アイルランド紛争は30年間続いたんですよね。コミュニティーの壁を越えれば危険が伴い、毎朝、車の下に爆弾が仕掛けられていないかチェックしてから出勤する(そのための、ゴルフクラブの先端にミラーが付いたような道具まであった!)…という、今私たちがウィルス退治で体験している「冬ごもり」など比べものにならないくらい、長く先の見えない日々だったことでしょう。

ヴァラッカー首相は演説の最後に再びヒーニーの言葉を引用し、締めくくっています。

In one of his best collections of poems, Heaney celebrated the human chain of help that can bring about an almost miraculous recovery.
As Heaney wrote, we were ‘all the more together for having had to turn and walk away’. In the days ahead we must continue to turn and walk away from each other and from doing the things we would like to do. But we will be all the more together for having done so.

(拙訳)ヒーニーは最高傑作のひとつで、助け合いでつながった人間の鎖が奇跡にも似た回復を遂げると称賛しています。
そこにはこう書かれています、我々は「引き返し、歩き去る時により強く結ばれる」と。これからの日々、私たちは、人と会うことやしたいようにすることから引き返し、歩き去ることを続けねばなりません。そうすることで、より強く結ばれることになるのですから。


「引き返す(turn)」とか「歩き去る(walk away)」と言っているのは、これだけ外出制限を要請しているにもかかわらず、イースター休暇で行楽地へ行こうとする人への警告でもあるのでしょう。

今日のダブリンは日中20度まで気温が上がり真夏のような陽気でしたが、本当の夏が見えるまで「winter out」(冬ごもり)はまだまだ続きます。
ヴァラッカー首相の言うように、それが命を救う行為になるのであれば、誇りをもって「Stay At Home」しようと思います!

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夜9時に、希望と団結のしるしとしてライトを照らしましょう、という、#ShineYourLightが行われました。私も部屋の窓からキャンドルの光を送りました。アイルランド全土、そして世界各国のアイルランド人により照らされたライトの写真→#ShineYourLight gallery: Photos from the special night(RTE News)

※アイルランドにおける新型コロナウィルス感染状況は、最新情報がこちらで確認できます
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アイルランド公認ナショナル・ツアーガイド。長野県上田市出身、2000年よりアイルランド在住。趣味はサーフィン、バラ栽培、ホロスコープ読み、子供の頃からのライフワーク『赤毛のアン』研究。

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