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ヴァラッカー首相のスピーチ考察② コクーン、「ナルニア」、嵐の前の静けさ…など

新型コロナウィルスの拡大防止に向けて、アイルランドの国民の日であるセント・パトリックス・デー(3月17日)に緊急生放送されたレオ・ヴァラッカー首相の国民へのメッセージ。
あれから10日近く経ち、感染者は日々増加の一途をたどっているものの、当初予測されたほどの増加率ではないとのことですから、気持ちがひとつになった国民の自制心と協力が多少なりとも功を奏しているのかもしれません。

さて、ヴァラッカー首相のスピーチ考察① チャーチルの引用句 に続き、首相スピーチ中に見られたそのほかの印象的な言い回しをご紹介したいと思います。

●スピーチ全文はこちら(英語)→National Address by the Taoiseach, St Patrick's Day
●拙訳はこちら→レオ・ヴァラッカー首相の緊急スピーチ(コロナウィルスの対策と今後について)
●動画はこちら→Ministerial Broadcast by Taoiseach Leo Varadkar about the Covid-19 pandemic(RTE News)

We are asking people to come together as a nation by staying apart from each other
皆さんにお願いです。離れ離れになることで、国家一丸となって歩んでいこうではありませんか


人の家を訪問してはいけない、公共の場では2メートル以上のソーシャル・ディスタンス(相手との距離)を取らなければならない…という、平常時の常識をくつがえすことが起こっている今。
「come together(団結する)」と「stay apart(離れている)」という相反する2つの行動が一緒になってしまうほどの非常事態です。これは胸に響きました。
単に「国家として団結しましょう」と訳してもいいのですが、この「come together」にはもっと、「さあ、立ち上がろうよ」とか、「共に進んでいこうよ」といったニュアンスが感じられたので、「一丸となって歩む」としました。

We call this ‘cocooning’ and it will save many lives
いわゆる「コクーンニング(巣ごもり)」ということですが、それにより多くの命が救われるのです


コクーンニング!不謹慎かもしれませんが、これは私の中の2020年上半期流行語大賞ノミネート間違いなし、です。
レオ首相の言葉のセンスが、通りいっぺんでなくなんともユニーク。英語圏でもそうたびたび聞く言葉ではないだけにインパクトが強かったです。
そもそも「cocoon(コークン)」とは、蚕(かいこ)の繭(まゆ)とか、クモの卵を包む袋(卵嚢)のこと。そこから転じて、「安全な場所で保護する」、「殻に閉じこもる」という意味になります。私は養蚕が盛んな地域で育ったので、すごくよく分かる。透き通った幼虫がある日突如として口から糸を出し、自分の体をぐるぐる巻いていくのですよ…。あの神秘的な行為(子供のころはちょっと怖かった)が「コクーンニング」なんですね。

ちょっとヒッピーっぽい言葉の響きもいいですし、温かくて柔らかい中でぬくぬく…って感じ。そうか、渋谷のBunkamuraのシアター・コクーンってそういう意味のネーミングだったんですね。
お年寄りや体の弱い人には数週間、家から出ないでもらうことになるかも、という文脈にて。「殻ごもり」というのも変なので、「巣ごもり」としました。

Not all superheroes wear capes… some wear scrubs and gowns
マントをはおっていない、手術着や医療用ガウンを着たスーパーヒーローもいるんですよ


医者や看護師など医療現場で奮闘する人たちへの尊敬を込めて、子供たちへ語りかけた言葉。
このスーパーヒーローが身につけている「scrubs(スクラブ=手術着)」ですが、イタリアでは足りなくなり、ビニールのゴミ袋をかぶった医師の姿も…。
昨日のニュースで、普段は聖職者用のシャツを縫製しているアイルランド北西部の小さな仕立て屋が、スクラブを縫う工場に転じたことが報じられました。在庫がある限り縫い続けるそうです。→Donegal business swaps shirts for scrubs amid Covid-19

I know many of you are feeling scared and overwhelmed.That is a normal reaction, but we will get through this and we will prevail. We need to halt the spread of the virus but we also need to halt the spread of fear...(中略)...Fear is a virus in itself!
多くの皆さんが恐れを抱き、胸がいっぱいだと思いますが、当然の反応です。なんとか乗り越え、克服しましょう。ウィルスの拡散を止め、恐怖の拡散も止めなくてはなりません。(中略)恐れこそがウィルスそのものなのです!


パニックしそうになる人々の気持ちに寄り添う思いやりある発言。恐いけれど、みなで頑張ろうよ、というメッセージですね。
「恐れ(scare, fear)」の克服ということについて、ヴァラカー首相にはひとつの信念があるように思います。昨日の会見でこんな発言がありました。

"Everyone's a bit scared but we're a little less scared together." I hope some kids who are stuck at home will read the Chronicles of Narnia
「ひとりじゃみんな怖いけど、一緒ならあんまり怖くないよね」。家の中ですることのなくなった子には『ナルニア国物語』を読んでもらいたいですね


これを聞いて、ああ、レオ首相も「ナルニア」を読んで育ったんだ!と嬉しくなりました。近年映画化もされた子供向けのこの物語の作者は、北アイルランド出身のC.S.ルイスです。(ルイスと「ナルニア」ゆかりの地についての過去ブログ→こちらにまとめてあります
『ナルニア』は全7巻あるのですが、このフレーズはどこに出てきたでしょうか。『馬と少年(The Horse and His Boy)』の中の一節のようにと思うのですが。また読み返してみなくては…。

移民2世(お父さんがインド人)で、ゲイであるヴァラッカー首相は、アイルランド社会においてのマイノリティーとして生きてきたと思います。(過去ブログ参照→最年少、移民、ゲイのアイルランド新首相
今でこそ受け入れられるリベラルな世の中となりましたが、子供時代、青春時代は差別されることもあったでしょう。この「ナルニア」の言葉で自分を励ますようなこともあったのかな…なんて思いました。

This is the calm before the storm – before the surge.(中略) It will come.
今は嵐の前の静けさであり、大津波はこれからやって来る


「the calm before the storm(嵐の前の静けさ)」というのは日本語でも聞く慣用句ですが、「calm(カーム)」と 「storm(ストーム)」に韻を踏ませた表現。ですので、そのあとでウィルスの急激な感染拡大を表すのにより適切な「surge(大津波)」に言い換えるのですが、いきなり「the calm before the surge」では韻を踏めないので、そうは言わなかったのですね。
日本も今、嵐の前の静けさ…かもしれませんから、皆さん、気を付けてください!

以上、長々とすみません。
頑張れ、アイルランド!頑張れ、世界!
そして、頑張れ、日本!(お肉券、お魚券には脱力…。フェイクニュースかと思いましたよ…)

coronabooklet0320
政府が作成した新型コロナについてのリーフレット。本日(3月27日)我が家にも配布されたので、ウェブから転載した写真と差し替えました

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アイルランド公認ナショナル・ツアーガイドの山下直子です。2000年よりアイルランド在住。趣味はサーフィン、アイススケート、バラ栽培、ホロスコープ読み、子供の頃からのライフワーク『赤毛のアン』研究。長野県上田市出身。

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